香川真司、苦境からは脱したか

ギネスインターナショナルチャンピオンズカップに参戦しているマンチェスター・ユナイテッド。7月29日(日本時間30日)のインテル戦では、香川真司が初めて後半から本職のトップ下で起用され、45分間プレーした。ボールに積極的に絡もうという意欲的な姿勢は見られたが、シュートチャンスがほとんどなく、アシストも記録できなかったということで、やや物足りない印象を残した。とはいえ、今季から就任したルイス・ファン・ハール監督は、これまでのボランチでのプレーより好印象を抱いた様子で、引き続きチャンスを与える意向を示したようだった。
ANN ARBOR, MI - AUGUST 2: Javier Hernandez #14 of Manchester United celebrates his second half goal with Shinji Kagawa #26 during the Guinness International Champions Cup at Michigan Stadium on August 2, 2014, in Ann Arbor, Mich (Photo by Duane Burleson/Getty Images)
ANN ARBOR, MI - AUGUST 2: Javier Hernandez #14 of Manchester United celebrates his second half goal with Shinji Kagawa #26 during the Guinness International Champions Cup at Michigan Stadium on August 2, 2014, in Ann Arbor, Mich (Photo by Duane Burleson/Getty Images)
Duane Burleson via Getty Images

ギネスインターナショナルチャンピオンズカップに参戦しているマンチェスター・ユナイテッド。7月29日(日本時間30日)のインテル戦では、香川真司が初めて後半から本職のトップ下で起用され、45分間プレーした。ボールに積極的に絡もうという意欲的な姿勢は見られたが、シュートチャンスがほとんどなく、アシストも記録できなかったということで、やや物足りない印象を残した。とはいえ、今季から就任したルイス・ファン・ハール監督は、これまでのボランチでのプレーより好印象を抱いた様子で、引き続きチャンスを与える意向を示したようだった。

そこで2日(同3日)のレアル・マドリード戦の動向が注目されたが、やはり先発のトップ下はマタ。序列はマタの方が上のようだ。スタート時の攻撃陣は2トップはルーニーとウェルベック、右ワイドのバレンシア、左ワイドにヤングとインテル戦と全く同じ。この構成で前半のうちからヤングが2ゴールを叩き出し、マンチェスターUは非常にいいリズムで前半を折り返した。

となると、香川の出番は後半頭からと見られたが、マタやルーニーらが引き続きプレーした。指揮官としては昨季UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)王者に輝いた強豪相手だけに、できるだけ主力に長くプレーさせた方がいいと判断したのだろう。

結局、香川が出てきたのは後半17分から。この時間帯の攻撃陣は2トップがエルナンデスとザハー、右ワイドがリンガード、左ワイドがショー。主力が揃って退き、サブ組ばかりの構成になったわけだが、この日の香川には全く支障はなかった。出場するや否や、エルナンデスとのいい絡みで立て続けにチャンスを作り、自らもゴール前へ次々と飛び出していく。ペナルティエリア外からも思い切ってシュートを放つなど、インテル戦とは全く異なる迫力を感じさせた。

そして、後半35分には、絶妙のパス出しでエルナンデスの3点目をお膳立て。この1点がマンチェスターUの勝利を確実にしたのは間違いない。レアルの方も終盤には合流したばかりのクリスティアーノ・ロナウドを投入するなど、巻き返しを図ってきたが、試合を重ねるごとに連携がよくなっているマンチェスターUには適わなかった。結局、試合は3-1でマンチェスターUが勝利。4日(日本時間5日)のリヴァプールとの決勝戦に駒を進めた。

香川は約30分間のプレーだったが、ボルシア・ドルトムント時代のキレと得点感覚を取り戻したかのような動きを見せた。大会に入ってからベストパフォーマンスだったと言ってもいいだろう。これには指揮官も満足感を深めたはず。この大会中はマタをトップ下のファーストチョイスとして使うだろうが、香川もこの日のような動きをコンスタントに維持していれば、必ずスタメンを手にするチャンスは訪れる。そんな期待を抱かせてくれるプレーだった。

ただ、1つ過信してはいけないのは、彼が出場した時間帯が相手の疲労がより蓄積しつつあるタイミングだったということ。頭から出ていれば、レアルのセルヒオ・ラモスやぺぺら最終ラインのプレッシャーはもっと厳しかったはずだ。実際、ルーニーやマタに対してはもっと寄せも当たりも激しく行っていた。相手がフルパワーで来る時に高いレベルのパフォーマンスを見せられなければ、トップ下のファーストチョイスになるのは難しい。そこは肝に銘じるべきだ。

それでも、試合に出たり出なかったりでシーズン無得点に終わった昨季の影響もあって、最悪の出来に終始した2014年ブラジルワールドカップの苦境からは脱したと見てもいいのかもしれない。

「日本には1人1人見たらいい選手はいるかもしれないけど、やはり世界と戦ううえで、本当のトッププレーヤーであったり、相手に脅威を与えられる選手がいない。そこで世界の強豪とやった時に差が出てしまっている。そういうものをつかみ取るには、やっぱり1人1人が所属クラブで勝ち取っていくしかないのかなってすごく感じる」と6月24日のコロンビア戦(クイアバ)で敗れた後、香川はしみじみと個の力の不足を実感していた。ブラジルで突きつけられた課題をクリアするためにも、マンチェスターUで個人能力を高めていくしかないと本人はいい意味で割り切って、今シーズンに臨んでいるはず。その意気込み通り、試合をこなすごとに調子が上向いているのは明るい材料と言える。

次のリヴァプールは同じプレミアリーグのライバル。この試合に香川がどの程度、起用されるか分からないが、アシストかゴールという明確な結果を残すことで、シーズン中の出場チャンスは確実に広がる。彼にはトップ下の定位置獲得の最終テストだと思って、大一番に挑んでもらいたいものだ。

2014-06-06-4.jpg

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

(2014年8月4日「元川悦子コラム」より転載)

注目記事