ダルビッシュも驚いた突然の訃報

ダルビッシュ有が所属するレンジャーズに、突然の訃報が舞い込んだ。現地17日、米スポーツ専門局『ESPNダラス』でレンジャーズのビートライター(番記者)を務めていたリチャード・デュレット氏が、38歳の若さで他界した。

ダルビッシュ有が所属するレンジャーズに、突然の訃報が舞い込んだ。

現地17日、米スポーツ専門局『ESPNダラス』でレンジャーズのビートライター(番記者)を務めていたリチャード・デュレット氏が、38歳の若さで他界した。死因は、脳動脈瘤の破裂とのこと。脂が乗り切った敏腕記者のあまりにも突然で早すぎる最期に、メジャー関係者の多くが言葉を失った。

デュレット氏は地方紙の記者を務めた後、2009年から『ESPNダラス』でレンジャーズを担当していた。最近は日本のスポーツ紙などでよく「ダルビッシュのピッチングについて、現地メディアは~と報じている」といった現地報道の紹介が見られるが、その元情報となる記事を書いている最たる人物がデュレット氏だった。

急死する前日まで、いつもと変わらずレンジャーズの取材を続けていたデュレット氏。選手たちも、毎日クラブハウスで顔を合わせていた人間が突然いなくなってしまったことにショックを隠せなかった。チームの中心選手、エルビス・アンドラスはツイッターに「チームメイトを代表して、デュレット氏の家族にお悔やみ申し上げます」と追悼の意を評した。

デュレット氏に「1年目からお世話になっていた」というダルビッシュも、突然の訃報に驚いた一人だ。メディアの報道に批判的な意見を発することも珍しくない右腕は、ツイッターに「(デュレット氏とは)ついこの間まで冗談を言い合っていましたし本当に信じられません。いつもレンジャーズ、選手達を愛してくれていました。本当にありがとうございました。ご冥福をお祈りします」と綴った。

レンジャーズは、デュレット氏が遺した妻と2人の子供のために基金を設立。球団の公式サイトなどで寄付を募っている。残された家族のことを思うと本当にいたたまれないが、デュレット氏が記者仲間のみならず選手たちからもリスペクトされ、球団も彼がチームの一員であるかのような対応を見せていることは、せめてもの救いだろう。

メジャーのビートライターは、体力的にタフでなければ務まらない仕事だ。担当するチームと共に全米中を移動しながら、年間162試合に及ぶハードなシーズンを取材する。球団から認められたビートライターは、遠征時のチャーター機への同乗も許可される(もちろん機内で見たこと聞いたことはオフレコが不文律)。選手や首脳陣にとって、シーズン中のほとんどの時間を共にするビートライターたちは、球団スタッフと同様にシーズンを共に戦う仲間なのだ。

仲間とはいっても、交友関係に胡座をかくような馴れ合いはない。プロのメディア人である以上、ときにはチームや選手に対して厳しい批判もする。しかしこれが成り立つのも、双方の信頼関係があるからこそ。メジャーリーグはメディア報道があってこその興行である以上、選手たちはたとえ結果が出ないときでも、メディアの取材には真摯に対応する責任があるという考え方が浸透している。

また、アメリカのスポーツメディアは署名記事が原則だ。日本のスポーツ報道は、一部のフリーランスライターなどを除き匿名記事が多いが、たとえばデュレット氏が執筆した記事には全て「written by Richard Durrett」と明記される。書き手の名前が出るとなると、情報の信憑性が疑われるような"飛ばし記事"を匿名で書くようなことは減り、逆に良い記事を書く記者は相応の評価を受ける。「この記事は誰が書いた」が明確になるからこそ、取材対象である選手たちとの信頼関係も築きやすいのだろう。

改めて、デュレット氏の早すぎる死は残念という他ない。しかし彼が残した功績は、選手たちの言葉や球団の真摯な対応によって、世間に少なからず伝わったのではないだろうか。

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スポカルラボ

MLBをはじめ海外スポーツに精通した英日翻訳ライター3人による メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多用な魅力を独自 の切り口で表現し、人生の選択肢はたったの一つや二つではない、 多様なライフスタイルを促進することをミッションに掲げて活動中。 Facebook→スポカルラボ

(2014年6月27日「MLBコラム」より転載)

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