日本政策学校では、法政大学経済学部教授の小黒一正氏に、「財政危機の真相と再建への道筋」というテーマで講義をしていただきました。
以下はそのサマリとなります。
◇はじめに
わが国は生産年齢層が減少する一方で、高齢者の人口は増加し続けている。
すなわち社会保障費の負担が大きくなり、債務が急増している。この厳しい状況のもと、GDPの成長に依存することには限界があるので、対策としては増税か歳出削減以外にない。
これについて政府は、経済のダイナミズムを無視して、楽観的に議論しているようであるが、長期的な推計をベースラインとして、議論すべきである。
◇債務が急増するわが国の現状
現在、わが国の財政は、債務が急増してかなり厳しい状況にあるが、その一番の原因となるのは社会保障である。
現在の人口は、2100年には半減すると予測される。その一方で、2000年から2025年までに、団塊の世代といわれる層が75才以上になる。すなわち、GDPを増加させる生産年齢層が減少するなか、75才以上の人口は減少しないことになり、社会保障費の負担が大きくなる一方である。
◇GDPの成長に依存することの限界
GDPに比較した債務残高を安定的に引き下げるには、GDPの成長に頼るか、財政収支の改善が必要である。
安倍首相も、GDPの成長を重視する新しい財政再建計画を出している。すなわち、2018年度の基礎的財政収支の赤字幅を、GDPの1パーセント程度にするというものである。
しかし、財政についての限界を無視できない。仮に、財政改革を先送りして消費税率も上げない場合を考えると、消費税率を一度に100パーセントに上げざるを得なくなるのは、2030年ごろではないかと推定される。また、日銀が異次元緩和により、国債を年間80兆円ずつ買っているが、これもあと10年くらいで限界である。
◇財政について残された対策は、増税と歳出削減のみ
かかる状況において、今後は経済成長だけに頼ることはできないので、増税か歳出削減以外に対策はない。
もし増税できなければ、社会保障費に切り込むしかないが、税を引き上げるとその後の選挙では、必ず痛手を受けることになる。
また、税を段階的に引き上げる方法もある。いずれにせよ、このままでは、経済成長そのものが台無しになってしまう。
しかし政府は、経済のダイナミズムを無視して議論しているように思われる。
長期的な推計を明確に出して、そこをベースラインとして、議論に入るべきである。
(2015年10月9日に開催された、政策議論講義「財政危機の真相と再建への道筋」より)
講師:小黒 一正(おぐろ かずまさ)氏
(ご本人に了承いただいた画像を掲載しております)
法政大学経済学部教授
1974年生まれ。
京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程終了(経済学博士)。
1997年 大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授、法政大学経済学部准教授などを経て、2015年から現職。
財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。
鹿島平和研究所理事。
専門は公共経済学。