「何とも言えない場所」が生み出す、 新しい働き方のカタチ @ time spot

もし、あなたの職場が家から徒歩圏内だったなら、余った自由な時間を何に使いますか。

主義主張・政党を越えて政治を学ぶ、日本政策学校には、世の中を少しでも良くしたいと学ぶ受講生たちがいます。

世の中の大半の人が、「社会を良くしたいけど、何からやったら良いか分からない。」

と一歩を踏み出せないままです。

そこで、実際にアクションを起こし、現在進行中で活動している受講生にインタビュー。そのアイディアを盗みました!

トップバッターは8期現役受講生の南雲由子さん。

お仕事は板橋区議会議員。アーティストとして歩んできた彼女は、「芸術家が活動を続ける場所」をきっかけに、行政の補助金に一切頼らないコミュニティースペース「time spot」を展開しています。新しい働き方のカタチを追求した、独創的なスペースです。

彼女がアーティストとして求めたもの、それを社会のニーズにどう繋げたのか、アーティストとしてのこだわりを伺いました。

もし、あなたの職場が家から徒歩圏内だったなら、余った自由な時間を何に使いますか。

コミュニティースペース「time spot」とはどんな場所でしょうか。

~きっかけは、「アーティストが活動を続けていくための実物大の模型」~

主に、フリーランスや副業を持つ方、仕事とNPO運営をしている方など、二足のわらじを履く人々が多様な働き方をできる場所として提供しています。会員制オフィスではありますが、最近ではヨガ教室、英会話教室やイベント会場としても使ってもらっています。

比較的、女性に利用していただくことが多いですが、もちろん男性もいらっしゃいますし、書道教室や美術教室には、子どもたちも多く通ってくれています。様々な業種や年齢の人々が集まって、仕事をしたり交流したり盛りだくさんです。

長く芸術に携わってきた私にとっては、高校の部室、大学の研究室のような「なんとも言えない場所」が必要だったので、元々はアーティストのための場所でした。

2011年6月に、地元である板橋区の商店街の空き店舗を使って、同じ美大卒の友人と一緒に資金を半分ずつ出し合ってスタートしました。一階は元お寿司屋さん、二階が空きスペースの空き店舗で実験的に始め、「オープンなんだけど秘密基地」をモチーフにしていましたがあまりにも内輪すぎていて、一年後に世田谷桜新町の倉庫へ移しました。一階はカフェで、時には演劇もやっていて、ロフトの中の二階はシェアオフィスにして3年半続けました。

その後、耐震工事の関係で、今年1月、再度板橋区に移転して新たにオープンしました。

自分たちで資金を出し合ったのはなぜでしょうか。

当時、民主党政権の事業仕分けで「文化は自己責任」という言葉が、文化界の人々からは大批判で炎上したのですが、なぜか私は妙に納得したんです。

もともと、大学やNPOではいかに行政の助成金をとるかに焦点をあてたアートマネージメント論が多いことに違和感がありました。助成金に頼らない、もっと自由で私たちらしさを追求した場所にしようと決意しました。家賃分をその場所で稼いで場所の提供を継続することを大切にしました。

time spotのテーマは「働き方の多様性」 空間のコンセプトや雰囲気作りでのこだわりは何ですか。

~完成していないこと、ワークインプログレス=工事中 にこだわっています。~

働き方の多様性という面では、「仕事場と家が近い」が生み出す新しい暮らしを板橋区に広めようとわくわくしています。通勤時間が無くなる分、余った時間を何に使おうかと迷えるのが理想的ですね。

空間の雰囲気は、完成品ではなくあえて制作過程を披露することですね。お客さんも加わり、何なら掃除までお客さんがやるくらい参加型の雰囲気にこだわっています。

例えば、壁もあえて入居時の壁のまま使っています。塗り替えたいと思ったら、みんなでやれば良いかなって思っています。いつが完成か分からないのが魅力です。

公民館などの公共施設とは違って、「民」の立場で展開しているので、利用者さんが営利目的だろうとなかろうとあまり制限することなく、自由に使ってもらっています。

アーティスト×議員 この組み合わせだからこそできる政治活動は何でしょうか。

~フワッ、モヤモヤの感覚を。~

私はこれまでに、新潟県の十日町や長崎県対馬などで美術作品づくりを通して高齢者や子どもたちと参加型の町づくりをやってきました。その経験や感覚を生かして、最近では、高島平で板橋区が計画している30年規模の壮大な街づくりに積極的に関わっています。

市民、大学、行政の「民・学・公」の三者がフラットに話し合う「デザインセンター」という仕組みで行なわれる予定ですが、議決が求められているお堅い行政会議とは全く性質が異なります。デザインセンターでやる会議は、文化祭のテーマ決めのようなフワッ、モヤモヤッとしたものです。

この違いをしっかり生み出せるように、アーティストとしての視点を積極的に発しています。アートならではの感覚的な部分は丁寧に伝えています。

政治家としてのモットーは何でしょうか。

~「問い」なのか「答え」なのかの区別です。~

アートとは社会への「問いかけ」であるのに対して、政治とは「答え」であると思います。

だからこそ、「政治家・南雲由子」は「答え」を追求して「結果」を出すべきだと意識して日々、活動しています。

アーティストと議員、自分の中でスイッチは切り変えていますが、「アイディアでまちづくり」というモットーは私の軸となっています。

若者の政治参加のために、具体的に何をされていますか。

~若者にアプローチするからには若者の視点に立って~

インターン生の受け入れを行っています。最近では、その学生さんとも一緒に18歳選挙権に関するイベントを開催しました。SNSやメールを使ったアンケートを行い、それを用いて、18歳の参加者を募り参議院議員と共に意見交換をしました。

「選挙」という言葉に対しては、「どうせ自分が行っても変わらない」といったネガティブな意見が多かったですが、「政治」という言葉に対しては、「国民のため」「治安を維持するため」といったポジティブな答えが返ってきました。

大事なことは18歳というキーワードはきっかけであり、20代、30代の層に多面的に働きかけることですね。きっと、「絶対アタシ投票行かない!」という人はいないと思います。むしろ、行っても行かなくても同じだから面倒という人が多いです。もっと、原因を探っていくべきだと感じています。

あと、議会報告のチラシ作りには命をかけてます!一番受け取ってくれない、若い女性が手に取りたくなるチラシをデザインしています。

立候補するとき、南雲さんの中にあった違和感とは。

投票率の低さです。特に、「3.11」「原発事故」といった話題に対して、同世代の人たちが、普段飲み屋で話しているような意見と違う展開が現実の政治の世界で起きている感覚がありました。何で、みんな投票に行かないの?と強く感じました。

政治に興味が無い人が多いのは、政治の売り方、見せ方が面白くないからだと思いました。そんな意識から、選挙チラシを作る手伝いを始め、選挙自体も手伝うようになりました。私は、学級委員もやったことないですし、今でも友達と話していても声が小さいと言われます。しかし、ある朝、投票率が低いことにすっごく腹が立っている自分に気づき、選挙で入れたい人がいなくて、その瞬間、コップの水があふれるように「選挙出よう」という気持ちがわきました。

例えば、議会での用語一つとっても、政治は難しく、「だから政治家は嫌だ」って思うことは今でもあります。

アーティストを目指す後輩たちへ伝えたいことはありますか。

~私はまだワークインプログレスで、完成されてないってことです。~

芸大に入って最初に、「アーティストは政治とは距離を置くべきである。」と言われました。

アートが政治に利用された歴史があったからですね。

だから、今の私は一種の罪悪感と、同時に使命感の中で働いています。

声の小さい人々が生きられる場所を守りたい一心で、自分自身が模索中です。

アーティストを夢見る若者へ、立派なアドバイスは言えませんが、私の模索する姿から何か感じてもらえたら嬉しいですね。

「アート」の世界へ入ったきっかけを教えてください。

~「私の作品は生活をする」という感動。~

私は、元々美容師になりたかったので高校卒業後に美容学校へ行きました。

例えば、絵を描く人はキャンバスに作品を描きますが、私の作品は人の髪や顔であり、作品に人生があり、生活していることに感動しました。それで美大に行き、「美しい」ではおさまらない表現の可能性を探しました。

「政治家」としての南雲由子はどうありたいですか。

~わたしにしか無い視点を。~

私の場合、最初からこれと決めたのではなく、何となくやりたいことがあって、それがアーティストの道に繋がり、政治家の道に繋がっていきました。

プロの区議会議員として、若い世代の声を議会へ届けることや、政治をより分かりやすく人々に届けることが使命ですが、政治家という立場としてだけだったら、私よりもっと上手な人がたくさんいると思います。同世代や自分自身の生活や感覚を議会で訴えることが大切だと思います。

議員は、人から預かっている身分で、手段・方法に過ぎません。だからこそ、アーティストであれ、議員であれ、わたし南雲由子の視点を生かし続けたいと日々感じています。

(聞き手:日本政策学校事務局 須藤やや)

南雲由子(なぐもゆうこ)

日本政策学校8期生。

1983年板橋区蓮根生まれ。美容師を目指し、山野美容芸術短大を卒業後、東京芸術大学・先端芸術表現科を卒業し、東京大学大学院修了。2011年より、友人と共にコミュニティースペース、time spotを展開。2015年、板橋区議会議員選挙にて初当選。アーティストとしての視点を生かして、アイディアで町づくりをすべく活躍中。

・南雲由子公式ホームページhttp://yukonagumo.net/index.html

・time spot ホームページhttp://timespot.biz/

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