『エージェント:ライアン』――政権による経済政策の特徴 宿輪純一のシネマ経済学(29)

アメリカの軍事・スパイ小説家トム・クランシーが作り出したキャラクター「ジャック・ライアン」が主人公のアクション映画。ジャック・ライアンシリーズの映画としては『レッド・オクトーバーを追え!』(90年)、『パトリオット・ゲーム』(92年)、『今そこにある危機』(94年)、『トータル・フィアーズ』(2002年)に続いて5作目。

アメリカの軍事・スパイ小説家トム・クランシーが作り出したキャラクター「ジャック・ライアン」が主人公のアクション映画。ジャック・ライアンシリーズの映画としては『レッド・オクトーバーを追え!』(90年)、『パトリオット・ゲーム』(92年)、『今そこにある危機』(94年)、『トータル・フィアーズ』(2002年)に続いて5作目。

ジャック・ライアンも最初はアレック・ボールドウィン、2作目と3作目がハリソン・フォード、4作目がベン・アフレックだった。(個人的にはハリソン・フォードの印象が強い)本作はトム・クランシーが書いた小説(原作)はなく、以前の作品のリブート(新たな仕切り直し)のオリジナルストーリーである。

イギリスの名優ケネス・ブラナーが監督と出演もこなしている。ケネス・ブラナーはシェークスピア作品の監督と出演、最近では『ハリー・ポッターと秘密の部屋』にも出演、また『マイティ・ソー』の監督もこなしている。主演ライアンを演じるのは、最近『スター・トレック』シリーズで上り調子の若手のアクション俳優クリス・パイン。他にもキーラ・ナイトレイやケヴィン・コスナーといった実力派が脇を固める。

ロンドンで経済学の学位を目指していたライアンは、愛国心から学位を取ることをやめ、軍隊に入る。しかし、アフガニスタンで負傷してしまう。その後、CIAからスカウトされ、仕事で必要な経済学を再度勉強し、情報(財務)分析官となり、世界の怪しい資金の流れを追う。表向きは、投資銀行のアナリストというか、コンプライアンス担当部長として活動する。

ロシア・モクスワの投資会社チェレヴィン・グループの怪しい資金の動きを発見し、上官ハーパー(ケヴィン・コスナー)にエージェント派遣を要請。しかし、なんと、彼からはライアン自身による調査命令が。ライアンはチェレヴィン・グループへの監査を装ってモスクワへと飛ぶ。その後は、お約束であるが、ロシアとアメリカで危険なアクションが続くが、あまり詳しくは書けない。本作のなかで、分析官からエージェントとなっていくということである。

今回は、テロによるリスクと国際的な資金の流れの2つを考えるという、かなり金融市場を分かっているような犯行。日本と中国にも関係し、最終的なドルの暴落、そして世界大恐慌を目論む。しかし、米国映画、しかもジャック・ライアンシリーズだけに、最後はとても報われる。

小説家トム・クランシーはボルチモアで保険代理業を営みながら執筆を開始。処女作『レッド・オクトーバーを探せ』がベストセラーになった。彼の小説・映画の特徴は、非常に愛国心あふれたCIAというかアメリカ軍が描かれており、それまでに、映画の世界でもそうであるが、ベトナム戦争で地に落ちたアメリカ軍の評価を上げることになった。こういった観点から、軍関係者も協力体制を敷いていたようである。しかし、昨年10月66歳で死去。

アメリカは二大政党制となっており、その政党の基本的な特色が政策に色濃く出る。この辺を理解することが、アメリカの政治や経済の分析のベースとなってくる。トム・クランシーのような愛国心が強いというか、海外での軍事的活動を積極推進する傾向があると思われるのが共和党で、逆にあまり積極的でないのが現在、政権の民主党である。

ザックリしたいい方をさせていただくと、経済政策でもそのようなことがある。そもそも米国に移民でわたってきた人々は自由な競争社会を求めてきたわけで、当初は自由競争を旨とする共和党しかなかった。しかし、やや社会的に弱い方々が集まって民主党が出来てきた。

そのため共和党は自由主義的で小さい政府、民主党はやや社会主義の色彩があり、大きい政府になる傾向をもっている。そういったベースがあるので、選挙も、景気が良い時には共和党、景気が悪いときには財政政策を行う傾向のある民主党が人気を集める傾向があるようだ。

ちなみに、ジャック・ライアンシリーズの『今そこにある危機(Clear and Present Danger)』という題名(単語)は、筆者の「シネマ経済学」以外でも、一般的な経済や政治の話をするときにもよく使われるようである。個人的には、日本の経済も財政も、そして我々の生活も『今そこにある危機』と思えて仕方がないが。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたにも分かり易い講義は定評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。22日で記念すべき150回を迎え、2014年4月で9年目になります。

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