『ピクセル』―クリアしていく喜び/宿輪純一のシネマ経済学(83)

筆者は52歳であるが、中学・高校の時代はまさにテレビゲームを結構やった。そういった方々には堪らない。80年代のゲームキャラたちがリアルに地球を侵略してくるのである。

 ピクセル(Pixel)とは、コンピューター用語で「画素」のこと。画像(PICture)の要素(ELement)からの造語。エイリアンの兵器が、人間や建物などすべての物質を細かいブロック(ピクセル)にしてしまう。

 筆者は52歳であるが、中学・高校の時代はまさにテレビゲームを結構やった。そういった方々には堪らない。80年代のゲームキャラたちがリアルに地球を侵略してくるのである。しかも、地球を救えるのはゲームオタクなのである。

 1982年地球や人類の文化ついての情報を宇宙に送り、宇宙人との交流をしようとしてプロジェクトがあった。宇宙人は受信したが、人類からの宣戦布告だと勘違いする。約30年後に、パックマン、ギャラガ、ドンキーコング、スペースインベーダー、テトリスの巨大キャラクターに姿を変えて、宇宙人は地球を侵攻し始める。楽しいはずのキャラクターが次々と都市を襲い、人間や建物をピクセル化していき、世界はパニックに陥る。そこで、30年前のゲームオタクが立ち上がり、地球を救う。

 このように書けば分かるに、アメリカの楽しいお気楽映画なのである。30年前のオタク仲間の一人はなんと大統領になっているし、恋人になる女性はホワイトハウス勤務の軍人(中佐)だし、冴えない主人公が突然、脚光を浴びで地球を救うし、何だかわからないが、余裕ないはずなのに、楽しいパーティとかやっているし、オタクの一人にも恋人ができるし・・・。ぼーっと見ているととても楽しいアメリカ映画なのである。それは筆者の様なその当時の人はもちろん、今の子供や少年も楽しめるのは請け合いである。

 監督は『ホーム・アローン』シリーズや『ハリー・ポッター』シリーズのクリス・コロンバスで、彼の映画らしく本当にひどい奴は出てこない。主演は『50回目のファースト・キス』や『ビッグ・ダディ』などのコメディアン俳優:アダム・サンドラー、『M:i:III』などのミシェル・モナハンが恋人役。パックマン生みの親のもとナムコの岩谷徹も登場する。日系の男優が演じる登場人物でもでてくるが、本人もナムコのエンジニア役で出てくる。

 筆者も学生時代いわゆるテレビゲームは好きだった。今にして思えば、1回100円はたかかったなぁ。ゲームの楽しさは、そのステージをクリアしていくこともある。何回も、何回もやって、上達してクリアしていく達成感が中毒性を持つ。この努力して、上達して、達成していくというサイクルは「幸福感」を人間に与え、自信が付き、自分を評価するようになる。逆に言えば、このような細かい達成感を与え続けることが、目標を達成することに必要不可欠なのである。

 筆者がメガバンク3年目にシカゴで先物取引やデリバティブ取引を担当していたが、そのころ、バスケットボールのシカゴ・ブルズがメチャクチャ強かった。ブルズにはマイケル・ジョーダンというスパースターがいた。彼が自伝を出したので読んでみると、彼のレベルでさえ(彼のレベルですら)、大きな目標(プレイの上達)のために、その日の小さい目標(プロセス)を決めて、それを達成することに集中することが大事だといっていた。その積み重ねたどいう。つまり、個人の仕事でも勉強でも、企業の経営でも、国の経済政策でもそのようにプロセスの細分化と達成感が"幸せに"目標を達成できる秘訣であると信じている。

 ゲームと人生の「目標クリア」の違いは、ゲームはゲーム会社に決められたステージをクリアすることで、仮想空間における手軽で一時的な達成感がある。一方、人生は自分で目標とステージ、そしてプロセスを決めなければならない。そして、そのプロセスは地味な努力が続くが、人生の目標にリアルに向かっていくことができる。さらにゲームはリセットできるが、人生は絶対にリセットできない。

 また、筆者が最近のテレビゲームに強い懸念があるのは"暴力的"なゲームが増えているということである。画面の中では痛くないし、死んでもリセットできる。これが青少年に悪影響を与えるかもしれないし、最近の凶悪犯罪との関わりもあるかもしれない。それに対し、本作品の中に出てくる80年代のゲームは素朴な感じがして、安心して楽しめる。

 「車内の化粧や飲食は止めよう」という地下鉄の注意ポスター(このポスターのシリーズは筆者は大好きである)もあり、筆者もそう思う。さらに、学生や若いサラリーマンが「車内で必死にゲームをやっている」のを見ると、日本の将来が不安になるのは筆者だけではないのではと思う。

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