(T2 TRAINSPOTTING/2017年)
90年代に社会現象を起こした『トレインスポッティング』(1996年)の続編。非常に刺激的な作品で、音楽がポップだったのを鮮明に覚えている。ちなみに、単語としてトレインスポッティング(Trainspotting)とは「鉄道マニア」の意味。確かに主人公の部屋の壁紙は列車だったし、良く駅のシーンが出てくる。ヨーロッパでは駅にそのような人がいたからか、転じて「ドラッグ中毒者」の意味である。
『スラムドッグ$ミリオネア』で作品賞・監督賞等8部門のアカデミー賞を受賞したダニー・ボイルが今回も監督。『トレインスポッティング』は彼の2作目。今や大スターとなったユアン・マクレガーと数作組んで、彼を世界に送り出した。
前作から20年後、荒んだ人生を疾走するの主人公たちの再会から始まる救いのない物語を描く。勿論、本作も世界中が熱狂したポップな音楽がイカしている。
スコットランドのエディンバラが舞台。かつてレントン(ユアン・マクレガー)は、麻薬の売買でつかんだ大金をこの仲間と山分けせずに独り占めして逃亡した。彼が20年ぶりにオランダから故郷スコットランドのエディンバラの実家に戻ると、すでに母親は亡くなっており、父親だけが地味に暮らしていた。
表向きはパブを経営しながら、売春・ゆすりを稼業とするシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)。家族に愛想を尽かされ、孤独に絶望しているドラッグ中毒者スパッド(ユエン・ブレムナー)。刑務所に服役中のベグビー(ロバート・カーライル)といったおなじみのメンバーが再集結。96年の『トレインスポッティング』のハチャメチャな展開は相変わらず。
荒んだ人生を送るこの4人はいわゆる社会の下層の方々で、20年たってもそこから抜け出ることができない。いわゆる「格差」問題である。彼ら4人はさらに下層に落ち続けているようである。特に先進国における最近の経済問題がこの「格差」である。米国のトランプ大統領の当選や、まさに英国のEU離脱の投票など暇がない。今後、欧州の国政選挙が注目されている。
"意外"な展開が続くのは、いわゆる世論調査の問題である。一流紙やマスコミが行う世論調査は、上流・中流の意見は吸い上げられるが、庶民(下流)の意見は吸い上げるチャネルがほとんどない。彼らは投票日に"突然"登場するのである。(トランプの支持基盤もそういった方々である)ダニー・ボイル監督も、また庶民の労働者階級の出身である。
この経済における格差が拡大しさらに危機的な状況になり、大きな力となって意外な結果になったのである。東欧からの移民がシック・ボーイの彼女になっているのも、まさに最近の状況の一旦を示している。
現在は英国の一部のスコットランドであるが、歴史的な問題や、その格差問題をベースとして、英国からの独立運動が継続しており予断を許さない。
本作でも、そのスコットランドの首都エディンバラがその舞台となっている。エディンバラ城をはじめとして街の魅力も満載されている。筆者も行きたくなった。そういう意味で「ご当地映画」ともいえる。
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