人は、人工知能といかにして付き合うか?--人工知能学会で議論

6月2日まではこだて未来大学で開催された人工知能学会で、人工知能と社会とのかかわりを考える公開討論が開かれた。「人工知能の影響で仕事は増える?減る?」など

 みずほ銀行は今年2月、IBMが開発した「ワトソン」をコールセンターでオペレーター補助として導入した。Googleが開発を進める自動運転車が起こした事故は6年間で1件もなく試験走行したという。

 「人工知能」(※1)が社会の中で使われるようになってきた。

 6月2日まではこだて未来大学で開催された人工知能学会で、人工知能と社会とのかかわりを考える公開討論が開かれた。人工知能の影響で仕事は増える?減る?」「人工知能を規制するべき?」などの問いをもとに、パネリストと会場の研究者らが議論した。

 昨年の学会誌「人工知能」1月号の「表紙問題(※2)」を受けて、昨年9月に設立された同学会倫理委員会が主催し、委員会メンバーがパネリストとして登壇した。

 倫理委員会の東京大学准教授の松尾豊氏は、冒頭で「人工知能は、人間社会のサブシステムとして使われるべきだ。人工知能をどう使うかという目的は人間があたえる。何が社会で大事なのか?個人の幸せや社会全体の幸せはどのように考えればいいのか?これらは人文社会学でずっと議論されてきたが、もう一度こういった議論が必要になる」と述べ、活発な議論を促した。

■人工知能が雇用を奪う?

 一般に、「人工知能に雇用が奪われるのではないか?」という懸念は根強い。実際、歴史を振り返れば、機械は人がやっていた仕事を代替してきた。

 これに対してパネリストからは、「今ある仕事は減るが、個人にカスタマイズされた仕事やクリエイティブな仕事は増える」といった見方が多かった。

 一方、会場の研究者からは「クリエイティブな仕事は人間がやる、最終的な判断は人間がするべき、という前提に皆さん立っているが本当にそうなのだろうか。人間にしかできないことは、食べて寝ること。合理的で頭を使うところは機械に任せて、人間はどんどん野生に戻るということもあるのではないか」として問題提起をする意見も飛び出した。

 これまでも、技術が進み社会や生活にはいってくると、人は慣れて価値観を変えてきた。

「未来の話を描くテレビ番組が放送されていたが、そこでは技術は未来だが、登場人物(の価値観)は今のまま。現状はこうだから、今後こうする、という還元論的にはならない。(実際にやってみてからわかっていくという)構成論的にやっていくしかないのではないか」(電気通信大学教授の栗原聡氏)

■人工知能を規制すべきか?

 これまで、インターネットやコンピュータなどの情報技術は、軍事や戦争を背景に大きく発展してきた。近年でも米国防高等研究計画局(DARPA)は人の脳の神経細胞を再現する半導体の開発を進めている。

 「人工知能を規制すべきか?」という問いに対して、研究者からは研究をしている立場から、「(研究は)規制すべきではないし、できない」とする声が多かったが、社会で使われる上で考え議論していくことは多い。

「人工知能が世界を大きく変えるという見方に立つと『見えているリスクがあるので規制すべき』となるが、技術と社会との相互作用を考えて、議論を積み重ねる努力をすることがまず必要で、それがあったうえでの規制だ」(立命館大学准教授の服部宏充氏)。

「それぞれの目的に対して、規制をどうするか。突き詰めると善悪とは何かということになる。人工知能を使って自国を守るのはいいが、戦争はどうか、自国領土拡大はどうなのか。人工知能は汎用的なので、目的に応じて議論してくべきだ」(共創基盤取締役の塩野誠氏)。

 また塩野氏は規制と権力との関係についても指摘。「人工知能そのものが権力となる。万人に権力を持たせなくないとなったら(支配者は)規制をする。懸念しているのは、国際的な動向。国際的なルールを海外が作ると、『人工知能後進国はそれ以上開発するのは禁止』ということだってありうる」

 人工知能は、使い方に寄っては原子力と同様に、抑止力にもなりうる。

■社会と議論する

 倫理委員会ではこれまで2回の会合を開き、「人間の知能を大きく上回る人工知能は今の技術では糸口すらつかめていない」という現状を確認した上で、「人工知能による社会へのインパクトを社会と対話する」といった倫理委員会の役割を確認してきたという。(※3)

 会場には多くの研究者が参加し、ディスカッションでも発言が相次ぎ、人工知能の社会的影響について多くの研究者が考えているようだった。一方で、公開討論にもかかわらず、学会参加者以外の参加は少ないようだった。

 人工知能を使ったプロダクトやサービスを開発する事業者や、それらを将来利用する一般の人たちにも、今後は議論が広がっていくべきだろう。

(※1)人工知能学会による人工知能の説明はこちら

(※2)学会誌「人工知能」2014年1月号の表紙のイラストで、女性型ロボットが掃除をしている姿が、性差別だなどとしてネットで批判された。

(※3)倫理委員会のこれまでの議論はアーティクル「人工知能学会 倫理委員会の取組み」を参照。

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