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2016年04月16日 16時59分 JST | 更新 2017年04月15日 18時12分 JST

極東アジアの核セキュリティ問題 〜 「日本の核物資管理は万全」、「北朝鮮には再度査察を」(IAEA関係者)

オバマ米大統領が2009年4月に「核兵器のない世界の実現を」と訴えたプラハ演説での提案を機に、2010年4月に始まった核セキュリティサミット。今春、その第4回目(3月31日〜4月1日)が開催された。

オバマ大統領にとっては、任期期間中の最終回を迎えた。2年ごとに予定通り開催され、地球規模の政治活動としてはそれなりの成果を挙げたと言えよう。

ロシアは参加しなかったが、55ヵ国及び3国際機関から約40名の首脳級が参加し、ベルギー・ティアンジュ原子力発電所が狙われたとされる先のベルギーテロ事件を踏まえ、国際テロ組織による核テロの脅威に、世界全体で取り組むべきとの認識は共有された。

各国が連携して具体的措置を講じる必要性を再確認した上で、今後はその活動をIAEA(国際原子力機関)に引き継ぎ、今年12月にウィーンで開かれる核セキュリティ国際会議などで展開することとなった。

振り返ってみれば、核兵器転用物質を保有する国は、1992年には52ヵ国だったが、2010年には35ヵ国、現在は24ヵ国にまで減ってきている。核兵器原料の世界総量は500トン程度でほぼ横這いだが、12ヵ国以上の国がその貯蔵量を減らしている。

しかも、核物質防護条約の改正については、発効要件である現締約国の3分の2(102ヵ国)で締結がなされ、今後数ヵ月以内に発効する見通しだ。これによる、核セキュリティ強化に向けた世界の取組みが更に進むことになる。

今回の核セキュリティサミットには、日本からは安倍首相が参加した。

2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の経験を踏まえた国際協力や、利用目的のないプルトニウムを持たないという原則を再度言及した。更に、茨城県東海村にある高速炉臨海実験装置(FCA)での核燃料全量撤去完了や、大阪府熊取町にある京都大原子炉実験所の学生訓練用の原子炉「京大臨界集合体実験装置」(KUCA)での高濃縮ウラン燃料全量撤去決定を表明した。

こうした日本側の意思表示が、4月10~11日のG7外相広島会合や、同11日のケリー米国務長官の原爆死没者慰霊碑(広島市・平和記念公園)での献花に繋がったこと、今年5月26〜27日の伊勢志摩サミットや、2020年に予定される東京オリンピック・パラリンピックへの効果を考えても、大きな成果であった。

オバマ大統領が日本について、「500キロを超える高濃縮ウランやプルトニウムの撤去計画を進めており、歴史上最大規模の取組みだ」と高く評価したことが、まさにそれを現している。

だが、今回のように国際的な場でのアピールがうまくいったと思われるからと言って、日本は"楽観論"に陥ることがあってはならない。核不拡散を目指しながらも、各国はそれぞれ自国の利益を追求することに変わりはない。

それは、厳しい国際社会の現実だ。日本が置かれている環境は、全然甘くない。

最近発生した非常に重たい出来事が二つある。

一つは、ただ単に日本バッシングを行おうという国の存在と、その国の近年のプレゼンスの拡大に裏付けられた国際社会での日本への誹謗中傷の情報発信だ。もう一つは、米国などでの一部の核不拡散至上主義者の存在を背景とする日本のジャーナリストの誤解や意図的恣意的な誤報道の展開とその影響である。

先ず前者。

それは、昨年10月20日の国連総会で起きた。

中国の傳聡軍縮大使は演説で、日本の核物質蓄積と日本国内における核武装論を批判した。中国は核兵器保有国であるが、核兵器・兵器原料の所有実態を「国防に必要な最小レベル」と勝手に正当化し、一切明らかにしていない。

原子力発電所の建設を世界で最も推進し、再処理工場の建設も推進していることを棚に上げた上で、「日本が保有する核物質は核弾頭1350発に相当し、核セキュリティと核不拡散の観点から深刻なリスクを生んでいる。所有量は正当な必要量をはるかに超えている」、「日本の原子力発電所の再稼動と六ヶ所再処理工場の稼働は世界を安心させるのではなく事態を悪化させる行動だ」、「核兵器を保有すべきだと日本の一部の政治勢力が主張し、核兵器開発を要求している」などと強く批判した。

これに対し、日本の佐野利男軍縮大使は「日本は専守防衛の基本方針を守って来た、非核三原則も堅持している」と述べ、中国の主張の否定に努めた。菅官房長官は「中国の批判は全く当たらない」と述べた。

しかし、総じて日本勢は防戦一方。平和利用に徹して原子力利用を進めることは日本の原子力開発の原点だ。

例えば、青森県六ヶ所村にある六ヶ所再処理工場では、平和利用に関する「保障措置(セーフガード)」に万全を期している。これは、原子力が平和的利用から核兵器製造など軍事目的に転用されないことを確保するため、IAEA憲章に基づいてIAEAが当該国の原子力活動について実施する査察を含む検認制度のことだ。

IAEAの査察官が常駐し、24時間体制で厳しい査察を行っている。核物質の流れを自動検証し監視するシステムや、IAEAと日本の当局が現地でタイムリーな核物質分析を行うためのオンサイトラボが整備されている。

こうした点については、私は先日現地で確認した。核兵器転用の恐れはないと断言できる。

更に、六ヶ所再処理工場で発生するプルトニウムを消費し、使用目的のはっきりしないプルトニウムを持たないことは平和利用に徹する日本の基本方針。

2018年7月に予定される日米原子力協定の改定も念頭において、プルトニウムを確実に消費するプルサーマルを実施する原子力発電所の稼動申請は現在10基。このうち、審査が終了したのは関西電力の高浜原子力発電所3・4号機で、その次と目される四国電力の伊方原子力発電所3号機では再稼働に向けた使用前検査が始まっている。

中国などに対して、もっとインパクトのある反論ができないかと考え、日本の核物質査察現場を統括しているIAEA関係者に先日面談した。

その時の彼らのコメント趣旨は以下の通りであった。

(1)今回の核セキュリティサミットについて、IAEAの活動を認めたくれたことは一つの大きな成果。ただ、日本では既に高濃縮ウランも含めて全ての核物質が完全に管理されているので安全である。日本はIAEAのセーフガードに従っており、セーフガードの専門家である我々の査察を完全に受けているので既に十分な体制下にある。今回の核セキュリティサミットのようなものは、政治的理由から必要だったのだろう。

(2)日本の核物質管理は、既にセーフガードのプロが全てをチェックしているので万全。今回の核セキュリティサミットで新たに決まったことを否定はしないが、日本の全国の原子力施設現場は既にしっかりしている。

(3)六ヶ所再処理工場で使用済燃料から抽出されるプルトニウムについては全て、日本の原子力発電所で燃やすという説明を受けており、そう理解している。日本の全ての原子力施設がIAEAの監視下にあり、検証している一定のクライテリア(規範)の中にある。日本は、非常にストロングな保障措置システムを採用している。それを我々が確認し、そういう現状にあることを正確に把握している。

(4)そのために我々IAEAは大変な努力を注いでおり、技術的苦労もさることながら、IAEAの予算と労力の3分の1を日本のために費やしている。結果として、日本の核物質は全てIAEAの管理下にあり、全てNPT(核不拡散条約)の中に収まっていると認識している。

彼らは、自らの主義主張を一切語らず、技術者として技術的観点から現場感覚で語っていた。そうした彼らの言には大きな説得力があると感じられたことは言うまでもない。

他方で、極東アジア情勢に関しては、「北朝鮮について以前は保障措置を行っていたが、2008年に査察官が追放された。今後そう簡単に査察再開が認められるわけではないだろう。もしも北朝鮮での査察再開を要請されることがあれば喜んで現地に赴き、核兵器のない世界のために貢献したい」と語っていた。

こうした現場の担当者たちの言葉こそ、国連総会に集う世界の面々、特に中国政府には是非とも聞かせたいものだ。

次に後者。

3月18日付け読売新聞ネット記事「日本の核燃料サイクル政策、米高官が異例の懸念」と、3月19日付け朝日新聞「日本の核燃サイクル 合理性ない 米高官、異例の懸念」のことで、いずれもワシントン発の報道。要するに、米政府高官が"日本の核燃料サイクル"に懸念を示したという記事だ。

事実関係だが、3月17日の米上院外交委員会のコーカー委員長(共和党)が「米国が(中国・韓国)と締結した原子力協定が再処理のことを扱わず、むしろ奨励しているのは理解できない」と発言・質問したのに対して、カントリーマン国務次官補が「米国がプルトニウム生産を奨励している政策を持っているとの発言には同意できない」、「再処理は核セキュリティや核不拡散上の懸念を増大させる。

米国はこの再処理政策を援助も奨励もしておらず、これは米中協定でも米韓協定でも同じ。私としてはあらゆる国がプルトニウム再処理事業から撤退する姿が見られればどんなに幸せだろう」と述べた。

つまり、日本のことには一切触れず、むしろ中国・韓国のことを指し、あくまでも一般論として、民間で行う再処理事業に関する米国政府の従来からの見解を述べたものに過ぎなかった。

それにも関わらず、誤解なのか恣意なのか、勝手に"日本の"というフレーズを付け加え、結果として「米国政府高官が"日本の"核燃料サイクル政策は、核安全保障と不拡散にとって懸念をもたらすため事業停止されるのが望ましいとの認識を示した」と報じたわけだ。

話はこれだけでは収まらず、この事実上の大誤報の影響の大きさを重視したカントリーマン米国務次官補は、3月28日に電話記者会見で、日本の核燃料サイクル政策について、「日本が核不拡散の政策から外れる懸念はない」、「日本は原子力エネルギーの民生利用の先駆者だ。この分野で日本以上に重要で緊密なパートナーはいない」、「(日本はプルトニウム保有について)世界全体にわかるように透明性のあるやり方で進めてきた」と発言した。

これは、3月29日付け読売新聞で報じられた。

米政府首脳の本音は、核不拡散の維持のために原子力平和利用の優等生の国を求めているが、日本はその優等生であり、今後もそうあってほしいと考えているということだ。

カントリーマン国務次官補の会見を読売新聞は軌道修正としているが、むしろ事実上の誤報道を米国政府高官に修正してもらったわけであり、今回の報道に関わった報道関係者は猛省すべきだ。

いずれにしても、今後とも日本は、核不拡散と原子力平和利用をIAEAの厳重な監視下で着実に実践していることを、効果的な方法で継続的に世界に訴えていく必要がある。それが日本の真の姿だからだ。