先月24日付けの拙稿でも紹介したように、先月、再稼働が見込まれる関西電力高浜原子力発電所3・4号機と九州電力川内原発1・2号機の再稼働差し止め仮処分申請について、対極的な司法判断が下された。
高浜原発については、福井地方裁判所(樋口英明裁判長)が、新規制基準を「緩やかにすぎて合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない」と批判し、再稼働差し止めの仮処分申し立てを認める決定を下した。
川内原発については、鹿児島地裁(前田郁勝裁判長)が、新規制基準を「最新の調査・研究を踏まえており、内容に不合理な点は認められない」とし、再稼働差し止めの仮処分申し立てを認めない決定を下した。
この違いはいったい、どこから来るのだろうか??
福井地裁は、新規制基準について「深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な基準にすべき」と、原発に"ゼロリスク"を求め、裁判官自らが原発の安全性について判定した。
鹿児島地裁は、新規制基準について「専門的知見を有する原子力規制委員会が相当期間、多数回の審議を行うなどして定めたもの」と評価し、安全性が保たれるか否かではなく、その審査プロセスに問題があるか否かを判断の根拠にしている。
裁判所はどこまで立ち入って判断を下すべきなのか?
最高裁判所は、1992年に四国電力伊方原発の原子炉設置許可取り消しを求めた訴訟で、「裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである」、「現在の科学技術水準に照らし、・・・調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の判断に不合理な点があるものとして、・・・違法と解すべきである」と述べ住民の訴えを棄却した。
即ち、裁判所は高度な科学的判断が必要な原発の安全性を直接審理するのではなく、行政が行う審査のプロセスに不合理な点が有るか無いかを審理するとしたわけだ。
鹿児島地裁は、この最高裁判決を踏まえた審理方法によって判断を下した。
福井地裁は、独自の審理方法によって、昨年5月の大飯原発3・4号機に係る再稼働差し止めの仮処分申し立てを認めた。関電が保全異議を申し立てたことから、今後、福井地裁で再審理される。この再審理は、樋口裁判長とは別の裁判長によって行われる。
再稼働差し止め決定が維持された場合、関電は名古屋高裁金沢支部に抗告することになり、最終的には最高裁まで争うことになるのだろう。そうなった場合、最高裁はどのような判断を下すだろうか。
筆者は、日本原子力発電敦賀原発が生け贄になりつつある経緯を逐一調べている。敦賀原発敷地内の「活断層」を認定した有識者会合の評価書については、科学的根拠に乏しい判断であると確信するだけでなく、その審査プロセスにも相当大きな問題があると見ている。
日本原電は、「敦賀発電所の敷地内破砕帯の評価に関する事実関係について」(その1〜8)を公表している。有識者会合の位置付け(その1)、ピア・レビュー会合でのやり取りや実施方法(その2・その3)、評価会合での議論(その4)、事業者からの申入れへの対応(その5)、原子力規制庁との面談(その6・その7・その8)など、いずれも規制委・規制庁や有識者会合の審査プロセスの問題点を指摘している。
これらは、将来の訴訟に向けての証拠作りなのかもしれない。これらに対する規制委・規制庁からのスタンスを示す資料はないので、規制委・規制庁については評しようがない。
日本原電が規制委・規制庁に対して訴訟を起こし、これらの公表資料を証拠として出した場合、裁判所はどのような判断を下すだろうか?
先に述べた最高裁の考えが採用されるとなれば、規制委・規制庁や有識者会合の審査プロセスに不合理な点があると判断されるのではなかろうか。それは即ち、規制委・規制庁が敗訴するということではないだろうか・・・。