中学受験の結果は能力の全てを表すわけではない

加熱する一方の中学受験。大学の入試がAO入試や推薦による合格者が増え、人材をスクリーニングする役割として「大丈夫か?」という事例が増えてきた反動でしょうかね。親も大変でした。

加熱する一方の中学受験。大学の入試がAO入試や推薦による合格者が増え、人材をスクリーニングする役割として「大丈夫か?」という事例が増えてきた反動でしょうかね。親も大変でした。

確かに、目標に向かって頑張り続ける、努力をする習慣を身に付ける、という意味では受験はとても意味があると思います。

また、「丸暗記への批判」もありますが、イノベーションを生み出す知恵のベースには、ある程度知識も必要でしょう。

「学ぶ事は、まずまねる事」とも言われるように、創造性を発揮する前に、ある程度は頭の中に知識を叩き込むことも必要でしょう。

ただ、当たり前ですが、受験が全てではない。

私がショックを受けたのは、算数でさえも、特に超一流校対策では、解法の暗記が必要とされるケースが見られること。

大人である自分でさえ頭を悩ます難問を、1問あたりわずか10分足らずで解くことが求められているのです。

受験の頂点に立つような、いわゆる塾の超難関クラスの子の算数が少なからず「暗記」であることは、ショックでした。

周期性の問題が典型です。私が問題を見たら、周期性があることを証明することから始めてしまいますが、それでは時間が全く足りないのです。

自然界も社会も、そもそも答えがあるかどうかさえわからない。

まず、法則や習慣、既成概念を疑ってかかり、何らかの「法則」を使う場合にも、法則を証明してから問題を解く必要がある。

しかし、それは中学受験の範囲外だし、イチイチ法則を証明していては、時間内に問題を解くことはできない。

現実の入試では、問題は解けるようにできているから、この問題は「周期性があるはずである」と判断する。そして、周期性があることを前提に、問題を解くのです。

これで答えは出ますし、受験としては成功するのですが、良いのでしょうか?

決められた時間で行わざるを得ない受験の限界でしょう。

少なくとも科学者・技術者としては、こういうタイプの子はある程度までは行っても、大成功するとは思えません。

むしろ、一つの問題にこだわり、徹底的に自分の腑に落ちるまで考え抜く子の方が、大成すると思います。受験では全くダメですが。

結局のところ、受験は短い時間で正解のある問題を解く、「ゲーム」です。

根本的な法則などにこだわるより、「ゲームのルール」に従う方が、少なくとも「難関校に合格する」というゲームには有利。

ただ、怖いのは、「世の中はそういうものだ」と、こういう考え方が習慣化してしまうこと。

「これは受験に合格するための、特殊なテクニック、ゲームのスキルに過ぎない」と自覚していれば良いのですが、ひょっとしたら答えはないかもしれない、ということに疑問さえ感じなくなるのは、非常に危険なことです。

本当は自分が証明して、完璧に理解していない法則や規則性を使うことなど、「気持ち悪い」と思ってもらいたいのです。

しかし、子供のころから「答えがある問題をいかにすばやく解法を見つけるか」ばかりやっていると、自分がやっていることに疑問さえ感じなくなる子も出てくるのではないでしょうか。

しかも、こういう子は「神童」と自分も思うし周囲も持ち上げるから、自分の問題点を気づく機会を持ちにくい。

こういう子が20年くらいたつと、「昔天才、今は凡人」という人になるんでしょうね。

偏差値70を軽く超えるような、受験の頂点に立つ子の中には難問をさっさと問いてしまって、試験時間の大半を落書きしたり、遊んでいるような子もいるようです。その話を聞いて、私はとても悲しい気持ちになりました。

この子は本当は算数に興味などなく、点を稼ぐことだけしか興味ないのだろうな。もし算数が本質的な意味で好きだったら、余った時間で自分が使った解法が本当に正しいのか、証明をしたくなるでしょう。

受験で成功したからといって、必ずしも、仕事で創造性を発揮するわけではないのは、こういうカラクリがあるのではないかと思わされた受験でした。

とはいえ、受験に失敗するのも悔しい。当事者としては、綺麗ごとばかりを言っている訳にもいきません。受験は勝負ですから、負けた人間がいくら文句を言っても始まらない。

自分は子供にこう言いました。

「解法の丸暗記なんて全く下らないけど、仕方ないから、一ヶ月限定でやってしまおう。そして、受験が終わったら、解法は全て忘れなさい。だって、そういう奴らに見下されるのは嫌でしょ。世の中には理想的にできないことも多いんだよ。短時間に解いて、公平に採点するには仕方ないんだよ。」

(2015年2月6日「Takeuchi Laboratory」より転載)

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