(前回の記事:ルワンダ、福島、そしてルワンダ(1))
マリー・ルイーズさんは、日本で出産経験がある。その時に彼女は新生児の死亡を防ぐには、日本式の出産前後のケアと母親の教育が必要だと確信したという。
彼女の直感は、実はとても正しい。新生児の死亡を減らすには、分娩前後の母子のケアと施設分娩が必須である。さらに母親の教育は子どもの死亡を下げる最も大きな要因であることも知られている。
ルワンダ政府の招待で、福島で再会したマリー・ルイーズさんと僕は再びルワンダに飛ぶことになった。僕は、ルワンダの新生児の死亡を防ぐ為にどういう施策をすれば良いかアドバイスをする役目だ。
現地では、地方の保健センターや病院を訪問した。村の保健師から保健大臣まで様々な人と議論をした。
目覚ましい経済成長を経験しているルワンダは、保健医療や教育でもアフリカの優等生だ。アフリカ諸国では初めて皆保険制度も導入した。さらに、村の保健師から保健センターや病院へ携帯電話を用いてデータを送信するシステムが導入されている。
皆保険制度が導入され、僕たちの研究による推計でも、下痢やマラリア等による死亡が減ったために、5歳未満の子どもの死亡率は過去20年間で約6割も減少している。
しかし、5歳未満の子どもの死亡のうち6割以上は1ヶ月以内の新生児に集中している点が問題だ。これは、妊婦健診をきちんと受けている妊婦が少なくハイリスク妊娠がなかなか見つからないことや、山岳地帯が多く妊婦に急変があった場合には病院での分娩が難しいことや、不潔な環境のために赤ちゃんに感染してしまうこと等がその原因としてあげられる。
まずは、妊婦と一番身近な村の保健師が双方向にやり取りできる仕組みが必要だ。
せっかく、ITが進んだルワンダであるならば、それをシステムに載せることも可能であろう。さらに、そこから保健センターや地域の病院、さらには皆保険のデータへとつなぐことも将来的には可能だ。
ルワンダの保健大臣と朝食を一緒にした時に、母子手帳のIT化のアイディアを話すと、彼女は「それはいい。是非やりましょう」とその場で次々に電話をして、あれよあれよと言う間に話が進んで行った。
こういうスピード感と合理性は今のルワンダの特徴だ。女性や障害を持った人々が社会で活躍する国でもある。なんと国会議員の実に6割以上が女性である。
ルワンダは、来年2014年に虐殺から20周年を迎える。あの壮絶な現場に医師として立ち尽くした時のことが一瞬脳裏に浮かんだ。
とてつもない苦しみから立ち直った人々から、震災復興にある我が国が学ぶことがあるのではないか。
今回は小川和也駐ルワンダ大使にも多くお世話になった。ご夫妻でルワンダに自然にとけ込んでおり、現地の信頼を確実に得ており、非常に頼もしかった。日本とルワンダがお互い学びあい、新しい関係が築けたら素晴らしいと思う。