「女性は子どもを産んだら、
今までの仕事を手放さないように毎日ギリギリの状態で生きるか、
専業主婦になって社会から切り離されたあと補助的なパートをするか、
その二択しかないのだろうか」
こんにちは。キャリアコンサルタントの小橋友美です。
冒頭のような気持ち、きっと、たくさんの女性が感じたことがあるのではないでしょうか。
このふたつの生き方は正反対で、同じ女性同士なのに遠く離れた存在のようですね。
でも私自身が子どもを持ち、キャリアコンサルタントとして活動するうちに感じたのは、働くママと専業主婦のママの悩みは、まったく違うようでいて、本当は地続きなんだということです。
働くママも、専業主婦のママも、ただ同じ川のこちら側とあちら側を歩いているだけのような気がしてきたのです。
その川の流れはやっと、誰でもぽんと飛び越えられる、緩やかなものになり始めているのかもしれません。
専業主婦だって、キャリア観はさまざま
先日、ママ向けのキャリアセミナーを開催したのですが、参加してくださったみなさんの話を聞いて、「専業主婦のママのキャリア観も、いろいろなんだ」ということに気づかされました。
専業主婦がキャリア?
と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
私も、今の仕事を始める前、仕事と家庭のバランスをどうすればいいか悩んでいたところ、転職会社で
「専業主婦になっておもしろおかしく生きていくのもいいじゃないですか」
と言われたことがあります。
これは今から5年ほど前のことですが、キャリア支援を仕事とする一部の人でさえ、専業主婦は仕事とはもう無関係の人たち、と考えていた時代が長くあったのです。
でも、私が実際に話を聞いた専業主婦のママたちのキャリア観は実にさまざまでした。
- これまでのスキルを活かしたいが、家庭も大切にしたい
- 子どもの受験が終わるまでは育児に専念、その後はバリバリ働きたい
- これまでと違う仕事で自分の力を試したい
専業主婦と言ってもバックグラウンドはさまざまです。
家族のために力を尽くしたいと望んでその道を選んだ人もいますし、子どもを育てながら今の仕事はできないだろうと後ろ髪を引かれながら仕事を辞めた人もいます。海外赴任も含め夫の転勤で仕事を辞めざるを得なかった人もいます。
だから、これから仕事とどう付き合うかという考えも、みんな違って当たり前なのですよね。
でもその当たり前のことがあまり知られていないことを痛感しました。
それは、これまで専業主婦が就く仕事が限られていたということと、そんな現実を知るママ自身が「どうせ希望する仕事なんてできないだろう」と諦めてしまうことが多かったからではないでしょうか。
だから、この当たり前の気持ちを言い出すこともできなかったことを知りました。
専業主婦の再就職が示すのは、誰にとっても継続可能なキャリア
でも今、人材不足を追い風に、専業主婦のママの再就職の状況が変わってきています。
2017年の国民生活基礎調査(※)によると、末子が児童(18歳未満)の世帯のうち、母親が働く世帯の割合は70.8%でした。
この割合は上昇傾向にあり、例えば10年前の2007年は59.4%だったので、この10年で10%以上も増加していることになります。
さらに、同じデータを末子の年齢ごとに見ていくと、
末子が0歳時点で仕事をしている母親の割合は42.4%、1歳時点では53.9%ですが、
3歳のときには66.5%、7~8歳のときには76.4%と、幼稚園や小学校入学のタイミングでブランクを乗り越えて働き始める母親も相当数いることがわかります。
しかしこの調査からは、末子の年齢が高くなるにしたがって非正規社員の割合が上がっていくことも明らかになりました。
こうした現状を受けて、ブランクがあっても高いスキルを持つ主婦に注目した職業紹介サービスも生まれてきています。
例えば、株式会社Waris(ワリス)では、事務系総合職の経験を持つフリーランスの女性と企業とのマッチングサービス「Warisプロフェッショナル」を展開しています。
さらに離職中の女性の再就職支援事業として2016年に「Warisワークアゲイン」をスタートさせたそうです。
多様な働き方のニーズに応えてくれる職業紹介サービスも充実してきており、例えば2002年に主婦向けのパートタイム型人材派遣事業を開始した株式会社ビースタイルでは、現在はパートだけでなく、スキルを活かしつつ正社員で時短勤務など、応募者のスキルや希望に合わせて様々な働き方が可能な求人を紹介しています。
また、育児や介護でいったん離職した主婦向けの「リカレント教育」も誕生しました。
もともと「リカレント教育」とは、学校を卒業して働き始めてもまた学び直し、獲得した知識や技能を活かして再度働き出す、という生涯教育システムのことです。
日本では2017年に安倍政権が掲げた「人づくり革命」の中で、離職女性の復帰を含めた様々な人たちの活躍の足掛かりとしてリカレント教育の重要性が指摘されました。
ブランクのある主婦の再就職に向けたカリキュラムは、日本女子大学、明治大学などで行われており、それぞれ実務に活かせる講座が開催されています。
また最近では、フリーランスとして活躍するママの姿をメディアで目にすることも増えてきました。
(実際そんなことができるかどうかは別として)赤ちゃんをあやしながらPCに向かう姿にはインパクトがありますよね。
フリーランス実態調査によると、フリーランスの人口は1119万人で、調査を開始した2015年と比較すると22.6%増となっています。
主婦という区分でのデータはありませんが、出産を機に独立したワーカーを「自由業系フリーワーカー」と分類していること、フリーランスのモチベーションとして最も多いのが「時間や場所に縛られず、自由で柔軟な生活ができる」であることから、主婦もフリーランスとして活躍していることが窺えます。
これらの動きからは、ブランクを経て再就職するママや、子どもが小さくてもスキルを活かしてフリーランスや在宅ワークなどで仕事を続けるママが増えつつある実態が見えてきます。
これまで専業主婦のママ自身が「どうせできない」「ワガママかも」と思って諦めてきたワークスタイルが、ここ数年で急速に実現可能になってきているのです。
この変化は、専業主婦だけのものでしょうか?
人生100年時代と言われる今、仕事と生活を融合させ、自分らしさを活かしながらいかにスキルを発揮し続けるかということは、男女問わず共通のテーマになりました。
こうした働き方の先には、誰もがライフステージに合わせて働き方を変えられるようになる、そんな継続可能なキャリアがあると感じています。
仕事も子育ても、同時にちゃんとできなければいけないと思っていた私
結婚する前、私は残業も厭わず「バリバリ」働いていました。
その頃、「仕事と家庭の両立」というのは、「家事や育児をいかに効率的に回すか」にかかっている、と思っていました。
家事はパートナーと完全分担、子どもは生後数か月で保育園に預け、場合によっては地方に住む母に東京に一時移住してもらう......
そんなイメージを持っていました。
「自分らしい働き方」とは「甘えた働き方」と同じ意味だと思っていましたし、仕事とは会社の要求に応えるもの、と考えていました。
それは、一度正社員という場所を失ってしまうと、もう二度と戻れないという恐怖感があったからです。
例えば、
「これまでのスキルを活かしたいが、家庭も大切にしたい」
という、ある専業主婦のママの願い。
その時の私だったら、
「そんなワガママな働き方、よっぽど高いスキルを持っていないと会社は認めるわけないよね。専業主婦で世の中を知らないから言えるんだよね。」
と切り捨てていたと思います。
でも、心の奥では、
「自分だってそうしたい!!」
って思っていたはずなのです。
だって、シンプルにそれが一番幸せそうですもんね。
私がいた会社はその後合併しましたが、それに伴う様々な変化を私は乗り越えることができず、このままではいずれ身体も家庭も壊してしまうような気がして、退職願を出しました。
その後、
「あんなに頑張ったのに結局退職するしかなかった自分に、できる仕事はもうないのだろう」
という考えから抜け出すまでには随分時間がかかりました。
でももし、
「会社を辞めても、自分のスキルを活かす道がある」
「少し休んでリフレッシュしたりスキルアップしたりしたあと、職場復帰できる」
「数年間子育てに集中したあと、また自分の力を発揮できるチャンスがある」
という働き方が一般的だったら、わざわざ「もうできる仕事はない」なんて思い込んで落ち込むことはなかっただろうなと思うのです。
勤めていた会社を辞めたとき、私には子どもがいませんでしたが、今になって働くママと話していると、「わかる!」と言いたくなることがよくあります。
「仕事も子育ても中途半端で、何をやってもダメな自分」
そんなセリフを聞くときです。
私は、仕事も子育ても中途半端になる、と思って会社を辞めた側の人間です。
だから「わかるよ!」と口に出しては言えません。
でも私も、仕事も子育ても同時にちゃんとしなければいけない、と思っていたという点で、同じところに立っていたと思うのです。
「女性は産んで、育てて、働け」の風潮の中で、それらを同時に手にしなければ女性として劣っていると言われるような、そんな不安と焦りの中にいたのです。
柔軟な働き方はもう「わがまま」ではなくなった
最初に紹介した専業主婦のママのキャリア観。
- これまでのスキルを活かしたいが、家庭も大切にしたい
- 子どもの受験が終わるまでは育児に専念、その後はバリバリ働きたい
- これまでと違う仕事で自分の力を試したい
こうした働き方が男女問わず一般的になれば、もっと多くの人が、仕事と家庭の両立に苦しむことなく、自分の力を発揮し続けることができると思いませんか。
私が話を伺った専業主婦のママは、仕事を辞める前、専門職だったり海外を飛び回っていたり、また管理職として部下を抱えて働いた経験も豊富だったりと、相当の職歴を持っている方も多かったのです。
そうした方々が、仕事や会社というものの厳しさを知っていながら、一見「わがまま」と一蹴されそうなキャリアを目指すという勇気に、私は目が覚めたような思いがしました。
仕事を続けるために重要なことは、他の何もかもを犠牲にして会社に尽くすことではなくなった。
結婚したり、子どもができたり、そうした人生の変化に対応しながら、自分の力をどう発揮するかを考え続け、実行していくことこそ大切になった。
そんなことに気付いているんだと思いました。
「キャリア自律」という考え方があります。
キャリアを組織任せにするのではなく、個人が自律して構築する、という考え方ですが、2000年代から重要性が指摘されながら、経営層からは社員の求心力が低下すると誤解されたり、働く側からは人材育成コスト削減の口実だろうと
思われたりして、なかなか浸透していません。
それが、いったん仕事を辞め、自分と家族の生き方を見直すなかで、専業主婦のママたちが自然と「キャリア自律」している姿には、未来の働き方を予感させるものがあります。
例えば、「これまでのスキルを活かしたいが、家庭も大切にしたい」と言う社員がいたら、今現在の多くの会社は「使いづらい」と感じるでしょう。
でも、これまでのスキルを活かしたいと思えるのは仕事を一生懸命頑張ってきた証拠でもあり、この気持ちを自分自身がただのわがままだと抑え込むのはどうなのでしょうか。
最近は、「ワーク・ライフ・バランス」を一歩進めて、「ワーク・ライフ・インテグレーション(統合)」という言葉や概念が使われることが増えてきました。
これは、ワークとライフを50%ずつなどうまくバランスをとるというのではなく、ワークとライフ、お互いにいい影響が出るように柔軟に人生を過ごすという考え方です。
「会社は辞めても仕事は辞めない」。
そんなワークスタイルが普通になれば、叶うのです。
私もあなたになれるし、あなたも私になれる
共働きが推奨される風潮のなか、専業主婦でいることに負い目を感じているママがたくさんいます。
私も子育て中心の生活をしていると、時々、家事や子育てなんてさっさと外注すればいい、早く労働力になれ、という無言の圧力を感じることがあります。
一方で、働くママに厳しい企業はまだまだたくさんあります。
無制限の転勤や残業を前提にした出世モデル、硬直的な勤務スタイル。
そして管理職になれというプレッシャー。
出産前後の会社の対応に「このままこの会社で働くことは難しいかもしれない、と感じた」という話を聞くことは少なくありません。
きっと、仕事なんて適当にやればいいと思えればもっと楽なのでしょう。
同じように、子育てなんてお金で解決すればいいと思っていれば両立に悩んだりしないはずです。
でも、仕事も子育ても大切に思うから、悩みが尽きないのですよね。
それなのに、子育てや家事に力を注げば働いていない負い目を感じさせ、仕事に打ち込めば母親としてちゃんとやっているのかと自問自答を迫る。
「女性は、産め、育て、働け。しかも同時に。」
そんな雰囲気がイヤになること、ありませんか?
私たちはただ、仕事も子育ても大切にしたいだけです。
でも、今の日本の社会システムの中で、100%同時にこなすのは無理です。
これは何も、ママだけの話ではありませんよね。
どんなに頑張っていても、病気になることもあれば、会社の都合で環境が変わることもあります。
自分だけでなく、子どもを含めた家族の状況が変わることもあるでしょう。
それでも、今の会社にしがみつくしかないとすれば、これほど不幸なことはありません。
でももし、好きなだけ家族との時間を過ごしても、また自分のスキルを評価してくれる場所があれば。
自分や家族のために在宅中心の仕事をして、その後また通常の勤務に戻れる道がいくつもあれば。
そんな風に、ライフイベントのたびにワークとライフの割合を自分で選ぶことができ、いつでもスキルを発揮できるチャンスがあれば、仕事と子育てはもっと楽しくなる、そんな気がしませんか。
キャリア理論の専門家のなかでも、人生100年時代と言われるこれからの時代に、どんなキャリア構築が適しているのかということは議論が始まったばかりです。
どんな専門家に聞いても、「こうすればうまくいく」とは教えてもらえなくなりました。
それでも毎日仕事はあるし、子どもは日々大きくなっていくから、私たちは正解を待つわけにはいかないのですよね。
だから働くママも、専業主婦のママも、みんな迷い、それでも毎日頑張っているのです。
仕事と育児をどう大切にするかと思い悩みながら、同じ川を挟んで歩いているようです。
ときどき、川の向こうの人に話を聞いてみるのもいいのかもしれません。
自分もそちら側へ行けるし、またいつでも戻って来れる。
誰でもそう思えるようになれば、仕事と家庭の両立が普通のことになるのだと思います。
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キャリアカウンセラー小橋の「越えていこうよ、ワーママもやもや期」
小橋友美
米国CCE, Inc認定GCDF‐Japanキャリアカウンセラー
1979年香川県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、銀行勤務を経て、2015年から
キャリアコンサルタントとして活動を始める。
採用実務経験を活かした若年層向けの就職支援を行う一方で、自分自身の子育て生活で実感した「ママが働くこと」に対する悩みを共に解決したいと考え、仕事も子育ても大切に毎日を過ごすためのママ向けキャリア支援活動を行っている。
「キャリアに自分らしさのエッセンス」https://ameblo.jp/careessence
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ワーママを、楽しく。LAXIC
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