これまでのゴミ問題のアプローチは間違っていた? 1800万個超のゴミ拾いアプリ「ピリカ」代表・小嶌さんが語る「ポイ捨てとマチの関係」 #umizero

ゴミ問題が解決されない理由のひとつにゴミのポイ捨てとゴミ拾いに関するデータがないことがあります。ゴミ拾いの可視化やデータを地道に集めることには意義があるのです。

株式会社ピリカ代表の小嶌不二夫さん(左)と取締役の高橋直也さん(右)

なぜ、ゴミのポイ捨て問題は解決されないのでしょうか?

それは、拾われるゴミの数よりも捨てられるゴミのほうが多いから。そうであれば、拾われるゴミを増やそう、という考えで開発・運営されているのが、ゴミ拾いアプリ「PIRIKA」です。

PIRIKAは、今回マチノコトとNPO法人グリーンバードが海の日に合わせて企画する「海の日ごみゼロプロジェクト2015」とも連動。拾ったゴミを写真で記録し、地図と連携するPIRIKAは、ゴミ拾いの可視化に大きく貢献しています。

ゴミ問題が解決されない理由のひとつに、そもそもゴミのポイ捨てとゴミ拾いに関するデータがないことがあるそうです。そのため、全国でゴミ拾い活動が盛んに行われても、実際のところポイ捨てゴミが本当に減っているのかわかりません。そういう意味でも、ゴミ拾いの可視化やデータを地道に集めることには意義があります。今回、株式会社ピリカ代表の小嶌不二夫さんに、ゴミのポイ捨てとマチの関係について聞きました。

福井県の利用から1年、拾われたゴミは365万個

――ゴミ拾いアプリ「PIRIKA」の現状について教えてください。

小嶌:PIRIKAは2011年5月の(テスト版)リリースから、4年が経ちました。現在、アプリは4万ダウンロードを超え、ぼくらが一番大事にしている「拾われたゴミの数」は世界中で1800万個を超えるまでになっています。

PIRIKAは、「捨てられるゴミ<拾われるゴミとなれば、ポイ捨てゴミが地球から減っていく」というシンプルな考えに基づいて事業を展開していますが、ゴミ問題の深刻度や現状を把握できるデータがないことは大きな課題のひとつです。

だからこそ、できるだけ多くの個人や企業、団体にPIRIKAを利用していただき、正確なデータを集めていけたらと考えています。そうすれば、ゴミ問題を可視化し、データ分析を行うことでより適切にゴミ問題にアプローチできるのではないかと考えています。

「クリーンアップふくい」トップページ

――PIRIKAは世界74ヵ国で利用されていて、国内では行政との連携も始まっています。2014年5月、福井県庁が県内の清掃活動にPIRIKAの導入を開始しましたが、1年経ってみてどうでしたか?

小嶌:福井県での利用に関しては、「クリーンアップふくい」というサイトを立ち上げリアルタイムに拾われたゴミの数字やPIRIKAに投稿された様子をマッピングすることで利用を把握することができます。現在時点で、福井県のPIRIKA投稿ユーザーはのべ1万8000人を超え、拾われたゴミの数は約365万個となっています。

さきほど、PIRIKAを通じて1800万個のゴミが拾われていると言いましたが、福井県が5分の1を占めるほど存在感があり、大阪と東京に次ぐ数です。福井県の人口は80万人と東京や大阪の10分の1以下の規模ですが、局地的にここまで熱心に利用していただいているのは、福井県環境政策課の担当の方々のおかげです。

(参考)ごみ拾いアプリ「ピリカ」を使用した清掃活動 | 福井県ホームページ

http://www.pref.fukui.jp/doc/kankyou/ee/pirika.html

県の職員の方々は地道に説明会を開催するなど周知を徹底してくださり、今春には多くのゴミを拾った個人や企業の表彰式を開くなど、PIRIKAが長く使われるように取り組んでいただいています。福井県の導入から1年が経ち、参加する企業や団体は100以上となりました(PIRIKA全体の登録企業や団体は300ほど)。やはり、県が推進力となって動いてくださることで、PIRIKAという一民間企業では到底できないようなスピードでの導入や広がりにつながったのだと思います。

福井県の事例ができたことで、検討してくださる自治体も増えましたが、福井県ほどのスピード感で動いているところはまだありません。やはり、担当者さんのマインド次第であることや、タイミングの問題もあります。福井県では、2018年に開催する「福井しあわせ元気国体・大会」に向けて、県内の美化に取り組むためにPIRIKAを導入し、清掃活動への意識を高めようとしたようです。一般的に、ポイ捨てゴミや美化に関する取り組みは、県ではなく市区町村など基礎自治体の管轄となることが多いため、県単位での利用・導入となると国体などの大きな理由が必要になりがちです。

――福井県をはじめ地方での利用を見ているなかで、なにか発見はありましたか?

小嶌:まず地方に関しては、街の中心地が駅周辺であるとは限りません。街の中心地は大規模の幹線道路であることが多く、大都市のような街の中心地=駅周辺の場合とはゴミの分布にも違いがあります。また、地方では主な移動手段が車であるため、歩行者が少ないことも特徴です。そういう意味では、個人の活動よりも企業や団体のゴミ拾い活動が盛んになっています。ほかにも、PIRIKAではどうしようもないのですが、降雪がある冬場(11月~3月)にはほとんどゴミ拾いがおこなわれないことも顕著にわかっています。

植え込みがある道路上には2.5倍のゴミがある

――PIRIKAはゴミ拾いアプリだけでなく、ポイ捨て調査用アプリ「フクロウ」も提供しています。この目的や仕組みを教えてください。

小嶌:PIRIKAを引き続き伸ばしていくだけでなく、ポイ捨て調査の事業にも力を入れていこうと考えています。「捨てられるゴミよりも拾われるゴミを増やす」という考えで事業を展開していますが、そもそもどれだけのゴミが捨てられているのかを知らないと、どれだけゴミを拾えばいいのかは把握できません。

端的に言えば、これまでのゴミ問題に対するアプローチは間違っていたと思います。どういうことかというと、環境問題でもどんな問題でも、取り組みの最初には測定をします。そして、数値に問題があれば、施策を打ち、もう一度測定をすることで施策の効果を確かめる。これが多くの問題解決に共通する基本的なアプローチです。

しかし現状は、ポイ捨てゴミ問題に関する有効な計測手法がないため、効果が不明確な施策をやみくもに行うことしかできません。その結果、どれくらいのペースで回収すればゴミ問題はなくなるのか、そもそも拾うことで問題が解決するのか、といったことが明確にはわかりません。誰かかが悪い訳ではなく、皆頑張っているのに結果が出ないことが問題なのです。だからこそ、安価で有効な測定手法を開発し、調査をおこなう必要があると考えています。そうすることで、ゴミ問題の把握と同時に、既存の取り組みの効果の有無も見えてくるので、効果的かつ効率的に解決へと向かうのではないでしょうか。

「フクロウ」による調査については、自分たちが企画する場合もありますが、自治体からの依頼を受ける場合があります。代表的な例は、昨年11〜12月にかけて実施した東京23区の調査です。これは私たちだけでなくPIRIKAユーザーや環境団体の方にもお手伝いしていただき、総勢25名ほどで、各区の乗降人数の多い駅周辺(計345地点)を調査しました。

――23区を調査してみて、どのようなことがわかりましたか?

小嶌:ゴミ拾いに参加している方には当たり前のことかもしれませんが、植え込みにゴミが捨てられているケースが圧倒的に多いことが数字で明らかになりました。植え込みの有無で道路上のゴミの数が2.5倍違うのです。もっと言えば、植え込みのデザインや植物の種類によっても、捨てられるゴミの数が違ってくるのかなとも考えています。

23区の調査を通じて、改めてゴミ問題を考えたときに、街のデザインは人間の行動に大きな影響をもたらしていると思います。ということは、ポイ捨てしづらい街のデザインの研究の余地はかなりありそうです。街の景観のデザインを改善し、環境美化のための維持管理コストがぐっと下がるとすれば、行政にとってもよいことではないでしょうか。

私たちとしては、道路舗装や建築物、側溝やゴミ箱、喫煙所の有無など環境要因を数字で解き明かし、有意義な議論ができる地盤を作っていきたいです。たとえば、ゴミ問題に関して「ゴミ箱があるからゴミがポイ捨てされるという意見と、ゴミ箱がないからゴミがポイ捨てされる」という意見があります。どちらの意見ももっともらしいですが、主張を裏付けるデータがなく、感情論や個人の限定的な体験をもとにした議論となっていることがよくあります。だから、もっと正しい議論をするためには定量的なデータが重要になってくるのです。ちなみに、フクロウを活用した調査はこれまで東京以外にも、千葉県、福井県、福岡県、大阪府などで実施してきました。

いまはデータを収集し現状を正確に把握する段階

――調査に関して課題はありますか?

小嶌:人力で調査をやってみて、調査者の注意力によって結果がバラつくということがわかりました。たとえば、同じ草むらを調査したとしても、人によって見つけられるゴミの量が違えば、調査の精度が下がってしまいます。ほかにも、人力の場合、大勢の協力者が必要になり、人件費などのコストがかさむため、別の方法を考えているところです。

新しいアプローチとしては、自転車にカメラを付けて、町中を走りながら調査するという方法を考えています。撮影した画像中のゴミをコンピュータで解析し、ゴミがどこにどれだけ落ちているのかをヒートマップで表します。ちょうど今開発を進めているところですが、これまでよりもかなり安いコストで調査することができるようになると思います。

――最後に改めてPIRIKAのこれからについて教えてください。

小嶌:何度も強調しますが、ぼくらはポイ捨てされるゴミよりも回収されるゴミを増やしていきたいと思っています。そのために、捨てられるゴミと拾われるゴミの双方の数字をきちんと把握し、解決に向けた本質的な取り組みをしていかなければなりません。

これまでに1800万個以上のゴミがPIRIKAを通じて回収されていますが、PIRIKAの力で地球上から回収されるゴミが1800万個増えたというわけではなく、もともと熱心にゴミ拾いをしていた企業や団体、個人の方々の活動が可視化された部分が大きいと思います。今はまだ、拾われるゴミの数を増やすというよりも、データを収集し現状を正確に把握する段階で、そこから得られた情報をもとに、環境美化やゴミ問題解決のための正しい取り組みが何なのかを見つけていけたらと考えています。

全国でゴミ拾い活動が盛んに行われているのに、ゴミ問題が解決していないのはなぜなのか。そして、そもそも解決に向かっているのか。ゴミ問題がない世界に向けて、まだまだ道のりは遠いです。せっかくのゴミ拾い活動が自己満足で終わらないよう、ちゃんと問題解決に結びつくためにデータをおさえていくことが重要です。

現在は都市部を中心に事業を展開していますが、今後は地方の大都市、さらには小さな市町村へと広げていく予定です。ゴミは最終的に海や川に流れていくものも多く、海辺では特にゴミの容積が大きいので、どこかのタイミングで河川部や海辺での活動や事業も考えていかなければならないと思っていました。そういう意味では、今回の「海の日ごみゼロアクション2015」プロジェクトは、PIRIKAにとっても貴重な機会であり、とても大きな意味のあるチャレンジになると考えています。ぜひ、みなさんもPIRIKAを使って海辺や川辺のゴミ拾いを行っていただけると嬉しいです。

小嶌不二夫(こじま・ふじお)

株式会社ピリカ代表取締役。1987年、富山県生まれ。2009年、京都大学大学院エネルギー科学研究科に入学、半年で休学(後に中退)。ベトナムでインターン生として営業職に従事し、2ヵ月目から営業成績1位に。2010年、かねてからの夢であった環境問題解決事業を立ち上げるためのヒントを探すべく世界一周の旅に出発、18ヵ国を旅する。帰国後、「地球からポイ捨てごみを無くす」ことを目的に、ごみ拾いの見える化と記録を行うスマートフォンアプリPIRIKAを開発、2011年に会社化。ピリカはこれまでに世界74ヵ国で利用され、累計1800万個以上のごみが拾われている。2013年、ドイツで行われた「eco summit 2013」で金賞を受賞。 http://www.pirika.org/

(2015年7月15日の「マチノコト」より転載)

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