「東日本大震災」から約4年。
現在では、震災が起きていなくても、「どう自分たちが住んでいる場所と向き合い、行動していくか」を一人ひとりが考える必要に迫られる時代になってきています。その流れは、様々な行政や民間企業、市民が協同したまちづくり推進活動、という形で表出してきています。
被災した地域のひとつ、福島県いわき市でも復興に向けた活動が進んでいます。いわき市での活動から、日本の別の地域が学ぶべきことも数多くあり、また別の地域での活動がいわき市にとって役立つこともあるはず。
マチノコトでは、福島県いわき市にキャンパスを構える東日本国際大学と協力して、各領域の先端で活動している実践家と、現場の視点を共有するイベント「地域と個人の関わり方のこれから〜〈郷土・地域〉とは何かを考える〜」を2月2日にSHIBAURA HOUSEで開催しました。
実践と俯瞰、具体と抽象
まず、マチノコトの江口晋太朗さんから会の趣旨の説明。
江口さん「マチには色んな切り口があります。デザイン、教育、建築、行政。マチノコトでは、そのうちどれか一つに限定するのではなく、様々な切り口からマチについて考えられるよう、情報発信やワークショップ、トークイベントを行っています。今回のイベントは、地域での活動を実践している人と思想家である先崎さんをお呼びし、実践と俯瞰、具体と抽象という、両方の視点を持って、考えていく連続イベントの第1回です。」
続いて、今回のイベントを共同で企画している、東日本国際大学の教授を務める思想家の先崎彰容さんによる挨拶。
先崎さん「東日本大震災を受ける中で、私が所属する大学や東洋思想研究所などでも「まちづくり」というものとの関わりが必然的に深まっていき、日々考えています。私は、現場に詳しいわけではなくて、日頃は明治時代以来、この国は無意識のうちにどういう価値観を前提として生きてきたのだろうか、というところに関心を持って、思想や哲学、文学などの本を読みあさっています。
それに対して、今日お呼びしたお二方は、現場で現代の危機を感じ取って、具体的にアクションに移している方です。今日は彼らから具体的な事例を聞き、私が少し俯瞰したところから、話を組み立てていきたいと思います。興味関心が現場にある参加者が多いと思いますが、一体、自分たち自身は何を前提として前に進んでいるのか、また進もうとしているのか。思想というのを一枚入れることで、よりわかってくるといいかなと思っています。」
江口さん、先崎さんからのお話を終えた後、あらためて、今日のテーマである「コミュニティ」という言葉について、近くにいる人同士でブレスト。参加者には若い人も多く、活発に発言がされていました。近くの人とのブレストを終えた後、ゲストからのプレゼンテーションの時間にうつります。
よき隣人を生み出すために
最初はHITOTOWA INC.の代表の荒昌史さんです。
荒さんは、東日本大震災後、自助だけではなく共助も可能な「よき避難者」を育てる「Community Crossing Japan」を立ち上げ、共助のコミュニティづくり「ネイバーフッドデザイン」事業を進めている日本の第一人者です。
荒さん「今日はネイバーフッドデザインのことについて話そうと思います。大きな震災のときに、本当に頼りになるのは遠くにいる親族より、近くにいる人(隣人)だと思います。ただ、その近くにいる人との間に、知り合うきっかけも心持ちもモチベーションもない、というのが実状です。この状況を改善しようと活動をはじめました。」
この後、荒さんが現在取り組む象徴的なプロジェクトを二つ紹介。まず1つ目は、西新宿にできるマンションのコミュニティプログラム「西新宿CLASS in the Forest」。この名称は、暮らしの「クラス」、そして学校における「クラス」を意味しているそうです。
荒さん「このプロジェクトは、都会のタワーマンションの中に、学校があり、新しいライフスタイル、住民が互いに助け合えるライフスタイルというものを学びながらコミュニティが生みだしていくというものです。プログラムを通して住民たちが、自分たちの暮し方について考えながら、互いに繋がっていくことに挑戦しています。」
もう一つのプロジェクトは、一般社団法人「まちにはひばりが丘」での、団地の再生プロジェクト。全体で1万人ほどの人々が住んでいるこの団地では、マンションを高層化し、空いた土地に老人ホームや新しい保育施設、分譲マンションと、戸建てをつくるという大開発が始まっているそうです。
荒さん「再開発が始まっている団地の、新住民と旧住民の間に私たちが入り込んで、コミュニティを作り直すということやっています。具体的には、施設運営やマチの情報を発信するメディアづくり、イベントを通して交流を促したり、住民がやりたいことを引き出して実現のお手伝いする、ということをやっています。」
多様な活動を行っている荒さん。この活動にはどのような価値があると考えているのでしょうか。
荒さん「ネイバーフッドデザインという活動には、3つの価値があると感じています。一つ目はこれまで紹介してきたような「都市・地域の課題解決」。
二つ目は「楽しい、趣味、学びの充実」です。マチを楽しいと感じるためには、友人関係が大事です。にも関わらず、お年寄りや子育て世代などは移動がストレスになり、自由に移動ができないため自由に友人に会うことができません。だったら、会いたい人が近くにいればいいよね、ということで、そのためのキッカケづくりを行っています。
最後に、「管理の円滑化」です。分譲マンション特有かもしれませんが、マンション管理はコミュニティづくりと密接な関係にあります。管理費をどう使うかといったことを住民で話し合って決めており、コミュニティがないと、建設的な議論ができないという事態になります。必要になってからコミュニティをつくりはじめては遅いので、最初のタイミングからつくっていく、というのが重要です。」
カラフルな社会構築を目指して
次に、空間設計や市民参加型の建築設計などを行っている建築集団ツバメアーキテクツ代表の山道拓人さんによるプレゼンテーション。
まずは、山道さんがツバメアーキテクツを始めた背景から。山道さんが南米チリの設計事務所で働いていたころまでさかのぼります。
山道さん「チリという国は、縦に長い国土を持ち、北部と南部で気候が大きく異なっています。経済的状況が厳しいという環境の中、2010年に大きな地震がありました。僕は、その中で建築家がどういう活動をしているのか、を見に行きたいと思い、2011年にアレハンドロ・アラヴェナさん率いるエレメンタル建築事務所の門をたたいてきました。この人物は、元々スラム街での新しい建築のプロジェクトを手がけていました。
「スラムの居住空間に対して、費用を抑えて、半分だけ建物を建てます。一見、歯抜けのように建築になりますが、半分だけにすることで、通常の経費で倍の範囲の建築をつくることができるようになっています。その住居に住む人たちが、自分たちでもう半分の空間を作るため、その人の個性が家を彩るのです。」
山道さん「太平洋の反対側での建築的な実践を見てきて、こういったことを日本でもできないかな?ということで、「カラフルな社会構築」と自分たちのコンセプトを名付けました。
例えば、建築のプロや専門家が半分ぐらいつくって、残り半分をその地域の人の実践で埋めていくことで、ハードウェアをつくるだけではなく、地域的、コミュニティ的になります。ネットワークとかつながりみたいなものを建築でつくっていけないか、ということを考え、「ツバメアーキテクツ」という活動を2013年から始めています。」
"つながり"を生み出す建築
この後、山道さんはツバメアーキテクツの象徴的な建築ケースを紹介。
「半分だけつくる」をコンセプトにした。八百屋さんの空間デザイン。
野菜の段ボールの数をヒアリングし、後ろの壁をあえて前に競り出させた設計。はみ出た野菜を介して、向かいのバス停でバスを待っている人と八百屋が繋がりやすくした地域と繋げていくような設計。
朝日新聞さんのメディアラボオフィス設計。
ブレストの原点であるギリシャ時代のアゴラという都市の形式を取り入れながら、そこは遊びと働くことが渾然一体となっているオフィスをつくった事例。既存のオフィス家具をほとんど入れず、11個の完全に新しいオリジナルの家具をデザインしたそう。
「ワークショップを使う」というところで地域的なことを考えるという荻窪で高齢者向けの新築シェアハウス計画。現在も進行中。
工事が始まったところで、高齢者だけだとサステナブルじゃないということで、若い人も住めるシェアハウスに変更。そこから参画し、若い人と一緒にワークショップをしながら、つくりかえていった事例。「この建物をあなたはどう使いますか?あと、どういうのがあったらいいですか?」というワークショップを3回ほど実施し、集まった30のアイデアを実直に反映した。
最後に、山道さんは、これまでの活動から総じて感じていた問題意識とそれに対するアクションをお話くださいました。
山道さん「これまで実践してきた個人のプロジェクトやNPOのプロジェクトから得られたアイデアやインテリジェンスを、より大きなプロジェクトにどんどんフィードバックしていかないといけない、と思っています。九州のとある公共建築のプロジェクトでは、今まで培ってきたアイデアを統合していきました。公共建築にも「遊び」を提案していくことで、どんどん柔らかい公共建築がつくれるんじゃないか、と考えています。」
最後に、山道さんが、最初の江口さんの問題提起に答えます。
山道さん「コミュニティって「復興」の話をする際によく登場しますが、日本の復興ってコンテナハウスを一気につくるとか、数の論理、時間の論理によりがちです。ですが、それは短期的な話であって、その先に、どういう人たちが、その場所で暮らし、誰とつながっていくのか、という関係性の質や束を考えていくのがこれからのコミュニティじゃないかと思っています。地域の名産品とかゆるキャラで売っていきますよ、というのとはちょっと違う、これからの関係性というものを考えていきたいなと思っています。」
2人のプレゼンテーションを踏まえて、先崎さんがコメント。最後に再び二人に問いを投げかけていきます。
先崎さん「聞いているだけでワクワクするような話ばかりで、自分の勉強を辞めて、建築学科いけばよかったかなぁ、って思ったりもしました(笑)まとめというか、一つ感想を言わせてもらいたいと思います。今日の話は、大都市圏・東京のど真ん中との対比になっていると思います。対して、福島県のような場所には、その場所にがっちり根付いているような共同体、繋がり方もあります。」
福島県の共同体の事例からコミュニティの再生を考える
先崎さん「それももう一つの共同体のモデルとして提示しておく必要があると思います。具体例ですが、例えば、福島県の石油の例を上げます。震災が起きる前まで、地元でやっている石油屋さんは、在庫を置かない大型店舗に価格競争で勝つことはできませんでした。それが、震災が起きたときには人々が石油があるこのお店にも殺到しました。ですが、この石油屋さんはその人々には石油を売らなかった。そうしたら「なぜ、おれたちに売らないんだ?」と言って文句が出たそうです。当然、危機的状況になったときは日頃来ている友人など親しい人々を助けたいから、そういう人々に優先的に売りますよね。
私たちは、つながりが大事だと思いつつも、普段の生活では、それと逆の行動をとっている。つながりよりも、価格の安さを優先してしまっている。私たちは、人との積み重ねでつくられてきたつながりを大切にし、多少値が高くても買いに行こうとする感覚を忘れているわけです。今、地域で価格よりも、つながりを優先してモノを買いに行こうとするようなコミュニティをどう再生していくか?というところが一つ大きなポイントになるんじゃないないか?と思います。」
先崎さんが出した問いは、言い換えると、「単なる"安さ"ではなく"隣人"との関係性に重きを置いた消費者コミュニティをいかにつくるのか?」という問いかけではないでしょうか。
現代では、"生きづらさ"の原因を「資本主義」というものに集約させ、それを批判し、無理に退けようとする論調が生まれがちです。ただ、そうするのではなく、資本主義社会で生きることを一旦受け止め、その上で、その"資本"の流れ方を私たち自身が変えていくことで、社会をいつのまにか前よりいいもに変えようとするということも可能なのではないでしょうか。
先崎さんの問いは、その変革を具体的に進めていくための問い、優しい革命に向かうために私たちが今、直面している問いなのではないでしょうか。
今回、マチというテーマをどのように捉えていくのかについて、参加していた学生などからも活発な議論がありました。
その場で無理に答えを出そうとするのではなく、互いの異なる視点をていねいに理解していくことが、一つの視点に閉じずに「学際的」にこれからのマチを考えていくために重要なことだと考えています。
マチをどのように見つめ、どのように行動していくか、を考えるイベントはこのまま第2回に続きます。第2回は、「行政と市民のあり方のこれから〜〈郷土・地域〉とは何かを考える〜」です。
次回は、地域と人のつながりを研究する地域SNS研究会の発足や国内のオープンデータコミュニティづくりから、行政などへの政策提言を行う国際大学GLOCOM主任研究員で一般社団法人オープンナレッジファウンデーションジャパン代表理事の庄司昌彦さん、そして、テクノロジーを活用した地域のコミュニティづくりを行い、行政と技術者の橋渡しを行うcode for japanの関尚之さんをお呼びし、情報学を基礎として、政治家、行政の視点を提供いただきながら、マチについて考えていきたいと思います。
(写真:加藤甫)
(協力:東日本国際大学)
(2015年2月18日の「マチノコト」より一部修正して転載)