「セックス・アンド・ザ・シティ」や「ゴシップ・ガール」の主人公たちが住んでいる街。天下のブロードウェーを誇る街。エンタメとファションの中心地であるニューヨークに住む俳優って、いったいどんな暮らしをしているのでしょう。
世間に名の知れた有名俳優たちは、テレビや雑誌で紹介されるようなスタイリッシュで華やかな毎日を、本当に送っているのかもしれません。でも、そんな「スター」ではない、この街にごまんといる俳優たちは、どうなのでしょうか?
演技の仕事で食べていくのって、本当のところ、どのくらい大変なの...?
今回は、知られざるニューヨーク俳優たちの家計簿を紐解き、その真相にぐっと迫ってみたいと思います(全2回)!
☆ 俳優たちの家計簿:支出編
仕事をとれるとれないに関わらず、俳優でいるだけで、否応無しにかかってくる費用はこちらです。
- クラス代:約30〜100ドル/1回(毎週〜)
- プライベートコーチ代:約80〜200ドル/1回(オーディションごと〜)
- ヘッドショット:約200〜1800ドル/1回(約1年ごと。撮影代、メイク代、デジタル修正代、複製代等)
- 俳優データベースの登録費:約70ドル/1サイト(1年ごと)
- 個人ウェブサイトの管理維持費:約20ドル/1サイト(1年ごと)
- 映画鑑賞、舞台観劇代:約7〜150ドル/1回(不定期)
- 研究費/プロモーション費:―(職業カウンセリング、セミナー、イベント、オンライン教材、本など。不定期)
- 衣装小物代:―(不定期)
- 労働組合の年会費:約200ドル〜(1年ごと。加盟者のみ )
- 労働組合の新規加入費:約1100〜3000ドル(1組合1回きり、加盟者のみ)
これに加えて、生活費がかかります。残念ながら、ここは空気を吸っているだけでお金がかかる大都市であります。
「Manhattan Rental Market Report」の2014年12月の報告によると、マンハッタンの平均家賃は、ひとり暮らし向けのドアマンなし・スタジオアパートでも、ひと部屋2,366ドル/月だそう。
郊外のルームシェア+自転車移動+冷房なし+自炊+禁酒+洗濯は月1回のみ+プリペイド旧式携帯電話+お隣さんのWiFiをこっそり拝借」という捨て身の合わせ技で、1ヶ月の生活費を1000ドル強に切り詰めたとしても、前述の俳優独特の出費と合わせて、最低でも、1年で合計約230万円以上(1ドル=120円として)のお金が飛んでいくことに...(遠い目)。
遠くを見つめている場合ではありません。渡米まもない日本人俳優のみなさんの場合は、語学学校(約200〜400ドル/週)や英語のコーチ代(約40〜100ドル/1回)も必要です。
さらに、外国人がアメリカで働くためには就労ビザも必要です。「O-1ビザ(俳優が一般的に取得する「アーティスト・ビザ」と呼ばれるビザ)」や「EB-1永住権(アーティスト・グリーンカード)」を取得するためには、弁護士費用と申請費(合計約3000〜9000ドル)がかかります。「O-1ビザ」の場合は、1〜3年ごとの更新費(約3000ドル〜)が追加でかかります。
あ、日本に一時帰国することだってあるかもしれませんよね。予定がないとしても、必要に迫られたときのために、往復の航空券代(約1200〜2000ドル)は常にキープしておきたいところ。...
...
...
...もしもし?
まだオンになっていますよね。
ひとまず、呼吸を整えましょう。ふぅ。
お金は出ていくばかりではありません。もちろんです。
さぁ、気を取り直して、次は俳優の収入について見ていきましょう。
☆ 俳優たちの家計簿:収入編
俳優は、一定以上の仕事をすると、俳優のための労働組合に加盟する資格を与えられます。「スター」と呼ばれる有名俳優たちはもちろん、ブロードウェー舞台、テレビ、映画などでみなさんが目にするほとんどの俳優が組合に加盟しています。
そこでは、俳優が仕事で受け取るべき最低賃金(=スケール)が定められているので、参考にしてみましょう。
例えば、舞台俳優の契約を運営する組合「AEA (Actors' Equity Association)」によると、オフ・ブロードウェーの舞台に出演することでもらえる最低賃金は、577〜1,028ドル(約7万〜12万円)/週、天下のブロードウェーだと1,861ドル(約22万円)/週です。
映画俳優の契約を運営する組合「SAG(Screen Actor's Guild、現在は「SAG-AFTRA」)」の規定によると、2.5 million ドル以上の予算で国内制作された「ハリウッド映画」だとすると、日雇い契約で880ドル(約11万円)、1週間契約になると3,053ドル(約37万円)が最低でも俳優に支払われます。(すべて2015年1月現在)
これらの数字は一見すごそうですが、 エージェントの仲介手数料をどーんと10%、加えてマネージメント料をどどーんと15%、さらに、だめ押しのアメ〜リケン・タァーックス!(=税金)...といった、避けられない経費もろもろを払っていくと、実際に俳優の元に届く小切手の額は、全体の40〜60%ほどになってしまいます。
しかも、俳優は基本的に単発で雇われますから、同じ仕事をまたできる、という保証はどこにもありません。人気のある役のオーディションは、書類審査を含めると何千人もの俳優が殺到する、ものすごい競争率になりますので、仕事までたどり着ける確率は、ほんのわずかしかありません。
そうです。栄えある「ブロードウェー俳優」や「ハリウッド俳優」でさえも、演技の仕事だけで生計を立てていくのは至難の業なのです。
もっと言うと、俳優組合に加盟していない「ノンユニオン」の俳優だって、ニューヨークにはごまんといます。彼らの仕事には、組合が定める最低賃金が適用されません。よって、州の規定する最低賃金【8.75ドル(1050円)/時間】で、ときには実質タダ働きの「ボランティア」として、雇われてしまうこともあり得ます。「AEA」や「SAG」のような組合に入るには、組合員の俳優たちと同じオーディションに参加し、一定以上の仕事を勝ち取らなくてはいけません。
ブロードウェー出演歴のある俳優でさえ、演技で食べていくのはたいへんなのに、キャスティングのプールには、まだ無名の、野心的な俳優たちが、わらわらうようよ、押し合いへし合い、ひしめき合って、いるの...で、、す、、...(虫の息)。...
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...まだ、ついてきてくださっていますね?
俳優の支出と収入の概要は以上です。もうこれ以上、付け加えません。
大きく深呼吸をして、対抗策を見ていこうではありませんか!
☆ 節約か、それとも...
さあ、どうしましょう。このままでは、俳優たちの家計は火の車ですよ。取り急ぎ、手元から出ていくお金を減らしましょうか。
わたし自身も、支出を極限まで抑えるために、 チャイナタウンの「闇市」や、スーパーの隅の「お勤め品」を巧みに利用した自炊で食費を月150ドルに押さえたり(1日5ドルですよ)、真冬にお湯と暖房が1ヶ月も止まって何度もポリスのお世話になるようなボロアパートでルームシェアをしてレントを節約したりしていた時期があります(マイナス20度の夜もですよ)。腐る寸前の果物でビタミン補給したり、ガスオーブンで芋を焼く熱を利用して部屋を暖めたり、ゴミ箱を使った足湯で寒さをしのいだり、中華鍋で温めたお湯に頭を逆さまに突っ込んで髪を洗ったり、世界有数の大都市在住とは思えないきわどい生活でしたが、貧乏くさくならないためのクリエイティビティがこのときに鍛えられたと自負しています。
しかしながら、みんながみんな、徹底した節約生活を送っているわけではもちろんありませんし、送らなければいけないわけでもありません。
では、経済的な制限がある中で、好きな演技をやり続けるためには、いったいどうすればよいのでしょう。
俳優たちが出した答えは、次回に続きます。
(2015年2月15日の「気まマホ日記」より転載)
たいへんお世話になったが、市の検査が入ってクリーンアップされてしまった。)
※2)残業代、印税など、その他で発生する金額は含みません。ご存知の通り、俳優の知名度や経験によって額が変動します。
※3)ノンユニオンの仕事の待遇のほうが、組合管轄のものより良い場合もあります。また、組合に加盟することが必ずしもすべての俳優のキャリアにとって有利になるとは限りません。これを書き始めると、とてつもなく長くなってしまうし、かなり細かい話なので、ここでは割愛させていただきます。