経産省の原発停止による火力燃料炊き増しはどのくらいが妥当?(意味は無いけど)

経済理論からすると無意味なことが、日本の電力政策に影響するようなことがないことを願うばかりです。
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私の前々回の投稿「原発停止による火力燃料炊き増しが年度で兆円だったのは、脱原発には良いニュース?」で、経産省の原発停止による火力燃料の炊き増しの試算が正しければ、それから算出される原発停止によらない非代替分と代替分の当たりの平均燃料費が極端に違うことを指摘しました。前回の投稿「経産省の原発停止による火力燃料焚き増し額についての試算を更に調べてみた件」で、経産省が推計に使った当たりの平均燃料費を年度の全体の火力発電量に適用して燃料費を計算したところ、実際に大手電力会社が支払った火力燃料費総額より、それぞれの年度で1兆円程度多くなりました。また、経産省の推計では年度の原発非代替分の3つの燃料別発電構成比率は、年度の構成比に比べれば石油火力は過少、石炭火力は過大になっており、結果的に原発代替分の中に燃料費の高い石油火力がより多く、安い石炭がより少なくなっていることも指摘しました。(今回の投稿を読む前にこれら二つの投稿を読むことをお勧めします。)

経産省のウェブサイトには「日本のエネルギーのいま」と題された箇所の「よくある質問と回答」の一つに「震災後に原子力発電所が停止している分を火力発電で代替しようとすると、燃料費にはどれくらいの影響があるの?」という質問があり、これまで取り上げてきた年度の検証結果を載せています。しかし、これは燃料費が高かった2014年度に対する試算であり、しかも2014年度は確定値ベースの試算は前々回の「原発停止による火力燃料炊き増しが年度で兆円だったのは、脱原発には良いニュース?」で見た通り3.4兆円となっていて、3.7兆円は恐らく前回の「経産省の原発停止による火力燃料焚き増し額についての試算を更に調べてみた件」で引用した、総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会、原子力小委員会の平成26年12月の11回会合の参考資料2にある通り推計段階のもののようです。このような試算は確定値ベースでも年度まで行われており、以下で引用する「年度冬季の電力需給にかかる対応を取りまとめました」の資料「今冬の電力需給に係る対応について」に1.3兆円となっています。何故、数値を改訂しないのかは不明です。そして、このような試算は何も修正されず最近までも有識者会合などに提出され続けています。

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直上の表は年度がまだ推計となっていますが、例えば経産省のウェブサイトの「年度冬季の電力需給にかかる対応を取りまとめました」の資料「今冬の電力需給に係る対応について」では同じ数値が年度の確定値になっています。年度の原発停止による火力燃料炊き増しの確定値ベースの経産省の試算はそれぞれ兆円で、年より大きく減りました。その理由の一つは燃料価格の低下であることは間違いないでしょう。(それ以外にも原発が稼働したことも少しは貢献します。)

年度以降の電事連のデータは電力自由化が始まったことにより公表されなくなくなりましたので、年度についてだけ、前々回「原発停止による火力燃料炊き増しが年度で兆円だったのは、脱原発には良いニュース?」と同じように原発代替分と非代替分に分けて当たりの平均燃料費を計算してみましょう。先の「火力発電に係る昨今の状況」からの表より、年度の原発代替の発電量(焚き増し)は(九電川内原発の稼働分により、基準となる年度から年度の年間の平均の原発の発電量より少ない)に対して兆円ですから、約円(=兆円/)です。これに対して、年の大手電力会社の総火力発電量は、火力燃料費総額は兆円ですから、原発非代替分は発電量で(=億-億)、燃料費で兆円(兆-兆)となり、従って当たりの平均燃料費は、約円(=兆円/)になります。従って、原発代替と非代替との差はまだ1円以上はありますが、年度に比べればだいぶ少なくなりました。

次に前回「経産省の原発停止による火力燃料焚き増し額についての試算を更に調べてみた件」と同じように、経産省が推計した原発代替分の2015年度の燃料別の当たりの燃料費を使って2015年度の燃料費総額を計算してみましょう。先の「火力発電に係る昨今の状況」からの表には、kWh当たりの燃料費は石油、ガス、石炭でそれぞれ11、8、4円となっています。これを前々回「原発停止による火力燃料炊き増しが年度で兆円だったのは、脱原発には良いニュース?」で用いた電事連の資料による、2015年度の燃料別の総火力発電量、799、3893、2797億kWhに適用してみると

2015年度、火力総発電量

  • 石油:11円/kWh×799億kWh=約0.9兆円
  • ガス:8円/kWh×3893億kWh=約3.1兆円
  • 石炭:4円/kWh×2797億kWh=約1.1兆円

となり、合計すると5.1兆円になって、実際の4.4兆円よりやはり高くなります。

前回の「経産省の原発停止による火力燃料焚き増し額についての試算を更に調べてみた件」では、年の火力発電における燃料毎の構成比を基準として、原発代替分と非代替分を計算し、それと比べると経産省の試算は原発代替分(焚き増し)に燃料費の高い石油火力の比率を多くし、燃料費の低い石炭火力の比率を少なくしているのではないか、と書きました。年度について、何よりも驚きなのは、電事連による大手電力会社の石油火力の発電総量がだけだったと報告されているにも拘わらず、経産省の試算の石油火力発電量は、原発代替分だけでそれを上回るとされていることです。どうしてそういう試算が可能なのか、これはもう私の理解を完全に超えています。

意味は無いけど、どのくらいが妥当か焚き増し額を計算すると

こうなってくると、原発代替分の火力燃料費は何円くらいか妥当か、推定してみたくもなってきます。前回やったように年の三つの燃料別の発電構成比を変えずに量を調整した分を原発非代替分の発電量とします。(前回の表から、年度は石油、ガス、石炭でそれぞれとなっています。年度も同様に数量のデフレーター(=)で計算しそれぞれ、となりました。)これらに経産省の試算に使われた燃料別の当たりの燃料費を乗じて原発非代替分の燃料費を計算します。結果は年度でそれぞれ兆円となりました。しかし、経産省の当たりの燃料費は高すぎる可能性があるので、経産省の燃料別の当たりの燃料費を使った燃料別の総火力発電量燃料費の合計(先に示したように年度のそれは兆円)と実際の燃料費の比率でデフレートします。(これをやらなければ、原発代替分の燃料費(焚き増し)はかなり小さくなってしまいます。)従って、この金額のデフレーターは年度でそれぞれ(=(=)、(=)となり、これらをそれぞれに乗じます。

その結果、原発非代替分の燃料費は年度でそれぞれ兆円となりました。これをそれぞれ実際の燃料費総額から引いた結果、原発代替分の火力燃料費の推定は、年度でそれぞれ兆円となります。経産省の試算は年度でそれぞれ兆円ですが、それらには原発停止で使用しなくて済んで原発燃料費兆円が各年度毎に考慮されていますので、それらを含めその差はそれぞれ、兆円となります。この結果、3年間の合計では経産省の試算は兆円でしたが、ここでの計算によると兆円となり経産省の試算はこれの倍大きくなります。更には、原発非代替分の構成比は年度を基準としましたが、原発非代替の構成比率を原発代替発電量の算出と同じようにから年度の3年平均とすると、年度の石油火力が大きかったため、結果原発非代替の燃料費はもっと高く、原発代替の燃料費は更に低く算出されることになります。

表 2013、14、15年度の火力発電量と(推定された)燃料費

電事連と経産省の資料を基に算出。[ ]内は経産省の試算による数値。

最近の試算の「誤差」が少なくなっているのは、燃料費自体が価格低下により下がったことがその一つでしたが、省エネ等により大手電力会社の発電量が減り、その結果石油火力を使わなくて済むようになったことも大きいように思います。従って、燃料費の問題は単に原発が停止しただけでなく、石油火力のような古い発電のリプレースを進めることでも解決されるかもしれません。また、現在のエネルギー価格でも年間1兆円程度多く火力燃料を輸入したとしても、原発が現在年間でも発電するという想定は絵に書いた餅、つまりフィクションでしかありません。安全基準に通って安全対策が完了した原発は数機しかありません。再稼働申請している原発が全て稼働し始めても難しい数字ですが、ましてや合格基準が厳しくなったため、申請している全ての原発が合格するとは限りません。試算はあくまで試算であり、石油、ガス、石炭の構成を原発代替(焚き増し)と非代替分にどのように割り振るかによってかなりの幅がでてきます。何よりも前々回「原発停止による火力燃料炊き増しが年度で兆円だったのは、脱原発には良いニュース?」で強調したように、経済学的にはこのような原発停止による輸入燃料費の増加を取り上げることにはほとんど意味はありません。前回のエネルギー基本計画には、原発停止の燃料増と貿易赤字が関連付けられていました。一方、アメリカではトランプ大統領が貿易赤字や対象国をやり玉に挙げ、保護主義政策を進めようとしていますが、経済学者からは強く批判されているようです。このような経済理論からすると無意味なことが、日本の電力政策に影響するようなことがないことを願うばかりです。

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