医学生の病院選びで大切なこと

医学教育に限らず、組織はトップ次第だ。
Shutterstock / wavebreakmedia

もうすぐ夏休みだ。医学生にとってはマッチングの季節である。

医学生向けのメディアは「大学病院か市中病院か」、「ジェネラル志向か専門志向か」などを判断基準に掲げている。

何れも大切だ。ただ、病院選びではもっと大切なことがある。それは「リーダーの実力」と「資金力」だ。

医学教育に限らず、組織はトップ次第だ。また、教育には金がかかる。経営が悪い病院には行くべきでない。これは一般企業への就活中の学生なら誰もが考えることだ。

一方、資金力があり、トップがしっかりしている病院は、必ず成長する。

この意味で、私が注目している病院がある。仙台厚生病院だ。一般財団法人厚生会が運営する409床の急性期病院である。

最終的には実現しなかったが、2011年1月、医学部新設を表明したので、ご存じの方も多いだろう。

仙台厚生病院という中規模病院が、なぜ、こんな大それたことを考えたのだろう。それは、資金力があったからだ。

13年度の仙台厚生病院の売上は182億円。利益は30億円で利益率は16.5%。全国トップである。

患者数も多い。12年度の全国DPC対象病院の退院患者数ランキングは24位。ちなみに23位は亀田総合病院、25位は近大病院だ。

この病院は古くから一流病院だったわけではない。1943年に設立された当初は結核、戦後は慢性疾患中心の病院で、隣接する東北大学病院から終末期患者を受け入れていた。

これでは経営も悪化する。倒産の危機に瀕したこともある。窮状を救ったのが、96年に心臓センター部長に就任した目黒泰一郎医師(現理事長)だ。

目黒医師が着任後、経営は改善し、10年には約25億円の黒字となった。そして、貯め込んだ200億円の資金が医学部新設の原資となった。

目黒医師の経営方針は「選択と集中」。東北大学病院と差別化をはかるべく、循環器・呼吸器・消化器にウェイトを置いた。

何れの領域でも患者数は東北地方で一番多い。例えば、12年度の循環器疾患の患者数は7980人。二位の東北薬科大病院の1523人を大きく引き離す。

この仙台厚生病院が困っている。今年度、初期研修医が一人しかこなかったのだ。枠は10名である。

仙台厚生病院は他の病院と連携しており、地域医療などの研修は可能だ。しかしながら、昨今の総合医ブームを考えれば、特定の診療科にウェイトを置く仙台厚生病院を敬遠する医学生が多いのはわからないでもない。

ただ、本当にそれでいいのだろうか。私は、程度の差こそあれ、初期研修でも「選択と集中」を考えるべきだと思う。

何を隠そう、私もそうやって生きてきた。私は血液内科医だ。しかしながら、研修医2年目の大宮日赤(現さいたま日赤)在職中には、循環器内科を8ヶ月ローテションした。血液内科医として生きる上で循環器救急に対応できるようになりたいと思ったからだ。武居一康先生をはじめ、素晴らしい指導医に恵まれた。今でもこの選択は正しかったと思っている。

話を戻そう。私は、リーダーの実力・資金力共に申し分ない仙台厚生病院の研修希望者が一名しかいなかったことは、我が国の医学教育を象徴していると思う。

それは、医学生たちが自分の頭で考えていないことだ。あまりにも厚労省や医学会の意向に影響されすぎている。

本来、医療は多様だ。医師にも多様性が求められる。どのような医師になれば、自らが生き残れるか、自分自身で考えるしかない。医学生に皆さんには、地に足の着いた選択をしてもらいたいと思う。

本稿は「医療タイムス」の連載に加筆修正したものです。

注目記事