90年代以降のインターネット普及から、フェイスブックやツイッター、インスタグラムをはじめとするSNSが当たり前の世の中になりました。その影響は、私たちの生活はもちろん、日々多くのお客様と接するアパレル販売員にとっても大きなものとなっています。
今回は販売歴20年のキャリアを持つベテラン販売員で、現在某ラグジュアリーブランドで働くWさんに、ここ数年のSNSの普及によって店舗での接客にどのような変化があったのか?お聞きしました。
今の消費者を動かすのは、圧倒的に雑誌よりもインスタグラム
−Wさんが新人販売員の頃と今では、かなり変化を感じられますか?
すごく変化を感じます。まず、お客様が来店されるきっかけが雑誌やブログからSNSに変わりました。それもほとんどの方がInstagramです。
お電話では「○○さんのInstagramに載っていた商品が欲しいんですけど...」というお問い合わせが多いので、お店のタブレットで確認することもあります。店頭にいらっしゃれば、もう少しスムーズに対応はできるのですが、なかには本当にチラッとしか写っていないアイテムについて聞かれることもあるので、すぐに該当する商品を見つけることができないこともよくあります。
−やっぱり「その人と同じもの」を買いたいという人が多いんですか?
両方いらっしゃいます。全く同じもの、同じ色が欲しいという方もいれば、きっかけはInstagramでもご紹介するうちに全然違うものを購入されるという方、どちらもいらっしゃいますね。
アイテムはレディトゥウェアより比較的購入しやすいレザーグッズや財布、シューズなどが多いです。
−ラグジュアリーブランドだと、どういう方のInstagramに影響されるお客様が多いんでしょうか。
意外と多いのが海外のブロガーやインスタグラマーと言われる方の投稿です。海外の方なので日本未入荷のものを載せていたりすることもあって、全く同じものをご紹介できないことも多々あります。ブランドを知っていただく良いきっかけなので嬉しいですが。
あとは、やっぱりモデルや女優、タレントの方が購入したものの投稿だったり、ウィッシュリストとして投稿した画像がきっかけで来店する方も多いです。
−雑誌の影響は昔に比べて少なくなりましたか?
そうですね。肌感としては減ったと思います。雑誌だとタイムラグがあったり載るものが限られたりしますが、そのあたりSNSは自由度が高いのでリアルタイムで購買意欲を高められるような気がします。
PRとして掲載することも効果的だと思いますが、やっぱり"誰々が持っているもの・買ったもの"というものの方が圧倒的に欲しいと思う方が多いようです。
MDも予測できない売り切れも続出
−そうなるとMDがそこまで数を積んでいなかった商品が突然足りなくなったりも?
そうですね。Instagramの効果は読めない部分が多く、数を積んでいない商品やカラーが、誰かがアップすることで拡散されて、一気に売り切れてしまうことも多々あります。
既に日本の入荷数は決まっているので正直な所、もっと追加で商品を入れられれば、と思うことはあります。でもそこは販売員の腕の見せ所でもあるので、若手スタッフにはきちんと他の商品まで幅広い提案ができるよう伝えています。
−長年キャリアを積まれて、SNS関連で面白かったエピソードなどありますか?
面白いというか、たまにあるのがInstagramで紹介されているアイテムを探しにいらっしゃった時、全然うちの商品ではない、恐らくコピー品だと思うのですが...そういう時はちょっと困ってしまいますね。せっかくいらしてくださったお客様にご説明するのが心苦しくなります。
変化に流されるのではなく、そこから販売員が新しい流れをつくる
−確かにそれは雑誌では確実に起こらなかったことですね。SNSによる変化をWさんはどう捉えていますか?
売り方に変化はありますが、圧倒的にお客様とブランドとの距離感が近づいたと思います。それはモノが売れないと言われている今の時代にはとても大切なことですし、SNSがもたらすプラスの効果だと感じています。
一方で、そのきっかけでいらしたお客様のリピート率は低いので、お店で働くスタッフがきちんとした意識で働いていないと"本当の顧客様"とを作っていくことは難しくなったのではないかと思います。
Instagramの影響でいらっしゃるお客様はある程度目的買いの方ですから、ある程度売り上げは取れても、その後にどうブランドのファンになっていただくか、そして自分に会いに来てくださるような関係性を築けるかどうかが重要だと思います。変化に流されるだけでなく、そこから販売員が新しい流れをつくっていくことが大切です。
−販売員の方も変化に伴って意識を変えていくことが大切なのですね。ちなみにWさんはプライベートでInstagramとかやっていますか?
いえ全然(笑)。ラグジュアリーブランドで働いている人は、やってないという方が結構多いんですよね。情報漏洩などコンプライアンスの面もありますが、プライベートを公開するということは、あまりしません。私もアカウントは持っていますが「見るだけ専門」で、ほとんど仕事の情報収集に使っています。
−ありがとうございました!
ここ数年で、消費者の私たちの買い物事情にも大きな変化をもたらしたインターネットの普及は、モノを提供する側である販売の立場においても大きな変化だったようです。
他業界に比べて未だアナログな部分の多いファッション業界ですが、近い将来に販売員の姿や売り方はどう変わっていくのか?注目していきたいと思います。