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2014年10月13日 15時12分 JST | 更新 2014年12月12日 19時12分 JST

腰を温めて便秘を解消する際に、最適な温度とは?【私達を支える看護学3】

看護学研究の世界へようこそ!

私達を支える看護シリーズ第3弾です!前回は「うつ伏せで寝ることによってもたらされる効果」について紹介させていただきました。

看護師の行う患者さんへのケアは看護学の根拠に基づいて行われています。そもそも「看護学」とは学問体系(知的)と実践体系(技術)の両面を持ち合わせた実践の学問(科学)です。

この学問は、あなたの生活にも活かせるだけではなく、周りの友人や親の健康に関する悩み解決へのヒントになるかもしれません。

便秘に悩む、日本人多数。

今回は便秘についてのお話です。日本において便秘症状を訴えている人の数は500万人にのぼり、このうちの70%が女性であると言われています。

排便は、ストレス、食事内容、水分摂取、生活の特性、月経などと関連があると言われており、女性は月経周期の1つである黄体期(排卵後、月経が始まるまでの時期) に便の通過時間が長くなり、便が硬くなると言われています。

 

毎朝快便を目指したい。便秘を解消するためには?

もちろん運動や食事などを考えることも一つの解消方法ですが、病院に入院している患者さんに対して、看護師は便秘を解消するために温罨法(おんあんぽう)を行っています。

温罨法については、看護界では長く研究も行われています。

温罨法が便秘解消になる理由は、腰やお腹の部分の皮膚を温めることで、その温熱刺激が腸管の運動を亢進させるからです。

これは、内臓の痛みを皮膚の痛みとして感じる放散痛の逆パターンである「体性-内臓反射」と呼ばれるものと同じ仕組みです。「体性-内臓反射」とは、脊髄において、皮膚からの刺激を伝える神経が自律神経にも情報を伝えるため、その自律神経が支配している内臓にまで作用することです。

温罨法の研究の中で、一番最初に報告されたのは、60℃の熱布を10分間 腰背部に当てる方法でした。しかし、最近は40℃の蒸気温熱シートを5時間あてたもの、1回のみから数日、4時間連続など、様々な方法のものが発表されており、どの方法が効果的なのかまとめられたものはありませんでした。

 

60℃と40℃、どちらの温罨法が効果的か?

臨床現場では、どちらの温度も臨床で効果があると言われていますが、果たしてどちらが本当に効果があるのでしょうか。

それを確かめたいと考えた看護師が、温罨法を行っている時と行っていない時の排便状況を比較する研究が行いました。

最初に提案された60℃で10分間の温熱刺激と、40℃で5時間の温熱刺激は、機能的便秘 (大腸の働きが原因で起こる便秘)の症状緩和に同等の効果があるのかどうか を明らかにするためです。

そもそも、皮膚が感知する温熱刺激の受容器は4種類あり、それらの反応閾値(刺激に反応するための最低温度)は、52℃、43℃、32~39℃、27~35℃と同定されています。

そのため、60℃の温罨法から出される温熱刺激は、全ての温熱受容器に作用しますが、40℃の温罨法から出される温熱刺激は、32~39℃、27~35℃を閾値とする温熱受容器にしか作用しないということになります。

ちなみに、今回紹介させて頂く看護学研究には温罨法の方法として「蒸気温熱シート」が用いられました。

もともと、日用品として目の疲れを取るための蒸気の出るホットアイマスクなど用いられていたものです。

この看護学研究では、

被験者は、便秘の自覚はあるけれども、普通に生活している健常な女性です。

方法としては、60℃の熱布と同様の温度曲線になる蒸気温熱シートの作成はメーカーに依頼し、このシートを10分間、40度の蒸気温熱シートを5時間貼用する方法を用い、被験者には自分で腰にそれを貼り、記録をしてもらいました。

まず、両方のグループに4週間ずつ罨法を行わない期間を設定し、便の回数、排便などがなかった日数、便の固さ、便の量、下痢の使用日数と一週間ごとの"便秘の自覚"を指標にしました。

"便秘の自覚"の記録方法は、「日本語版便秘評価尺度(CAS)」、8つの項目(お腹がはった感じ・膨れた感じ、排ガス量、便の回数、直腸に内容が充満している感じ、排便時の肛門の痛み、便の量、便の排泄状態、下痢または水様便 (ver.2.0))を用いた時の5点以上の場合としました。その後、温罨法を行っている場合も同様に 60℃の温罨法をするグループと、40℃の温罨法をするグループの2つに分けて行い、温罨法をしていない時と比較しました。

その結果、60℃と40℃のグループで、温罨法をしていない時の状況には差がありませんでしたが、温罨法をしている時の状況には以下のような差が見られました。

60℃のグループ内の罨法をしていない時期としていた時期の比較では、便の回数が18.9回から22.1回に増加し、下剤の使用日数が3.9日から2.0日に減少しました。

一方で、40℃のグル―プ内の罨法をしていない時期としていた時期の比較では、便秘のあった週数が3.1週から1.7週へ減少し、排便のない日数が13.0日から11.1日に減少し、便の回数が20.8回から22.9回に増加しました。

 

以上の事から、60℃の温罨法を行うことで排便回数は増加して下剤の使用日数が減少し、さらに40℃の温罨法で便秘の自覚症状が改善した、という結果がでました。

つまり、どちらの方法も便秘の症状緩和には有効ですが、便秘の自覚症状の改善を目指すには40℃で5時間の温罨法の方法を使用し、下剤の使用を減らすには60℃10分間の温罨法の方法を使用するのが有効であるという可能性が考えられる、ということです。

みなさんも、もし便秘に困るときがあったら、ぜひ温罨法も選択肢として入れてみてください!

ただし、忙しい毎日を送っていらっしゃる方は短時間で行える方が実用的でしょう。そんな方には私からは60℃で10分間の温罨法をおすすめしたいと思います。

 

最後に

いかがでしたでしょうか?これまでの研究では、温罨法によって腸管運動が促進されて便秘解消になるということは確かな看護技術とされています。

しかし、最低何分必要なのか、毎日連続することの長期的な効果はあるのか、時刻はいつが良いのか、どういう時に効果が大きいのかなど、まだ解明されていない課題も数多く存在しているようです。

そんな中でも、便秘で悩む人が減ることを願い、研究は日々進められています。

このように「看護学」とは私達を救ってくれるのです。

 

このシリーズも中盤となりました。私達を支える看護学シリーズ第4弾、こうご期待ください。

 

私達を支える看護学シリーズ

第1弾「寝たきりの人がいきいきと生活するためには【私達を支える看護学①】」

第2弾「うつ伏せで寝ることの効果と裏付け【私達を支える看護学②】」

 

文責:聖路加国際大学看護学部4年 松井晴菜

引用・参考文献 / URL

・菱沼典子・川島みどり編集(2013) , 看護技術の科学と検証 第2版―研究から実践へ、実践から研究へ―,株式会社 日本看護協会出版, p180-p187

・菱沼典子・山崎好美・井垣通人(2010),腰部温罨法の便秘の症状緩和への効果, 日本看護技術学会誌,9(3),p.4-10.

「市民と看護職をつなぐコミュニティサイト 看護ネット」 ,聖路加国際大学,看護の定義

  平成22年 国民生活基礎調査 の概要, 厚生労働省

CAS ( Constipation Assessment Scale )