真核生物での遺伝子転写の開始は、各遺伝子のプロモーターで転写開始前複合体(PIC)の働きによって厳密に制御されている。PICは基本転写因子群とRNAポリメラーゼII(Pol II)からなる大型の多サブユニット複合体で、プロモーターで組み立てられ、Pol IIが間違いなくプロモーターに結合してRNAへの転写のために二本鎖DNAを開裂させる働きをしている。今回、このPol II装置のニア原子分解能での詳細な低温電子顕微鏡構造が、2つの研究グループから報告された。E Nogalesたちは、転写開始の際の主要な段階全てにおけるヒトPICの構造モデルをニア原子レベルの分解能で示した。
これらのモデルから、プロモーター融解と転写バブル安定化の過程に関して、機構についての新たな手掛かりが示されただけでなく、二本鎖DNAに結合したPIC構成成分全てのほぼ完全な構造モデルが提案された。P Cramerたちは、酵母の開始複合体について、TFIIH以外の全ての基本転写因子に加えて閉じたプロモーターDNA、またはほどかれたプロモーターDNAのどちらかを含む構造を報告している。この結果から、DNA開裂がTFIIHなしで起こり得ることが示され、DNA開裂と鋳型鎖導入の機構についての知見が得られた。これらの構造は、酵母とヒトの転写開始系の間で構造が高度に保存されていることを明らかにしている。
Nature533, 7603
2016年5月19日
原著論文:
doi:10.1038/nature17970
doi:10.1038/nature17990
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