多芸多才なガリウム

周期表におけるGaの存在は、はっきり言って特別ではないが、魅力的な理由は...

携帯電話の部品にもいたずらにも使われる風変わりな元素ガリウム(Ga)について、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のMarshall Brennanが解説する。

©JOSELLE MCCRACKEN

化学の代表的なツールといえば周期表だろう。

1869年、Dmitrii Mendeleevは、当時知られていた元素を軽いものから重いものへと順に並べて配置し、配置済の元素と似た特性の元素が現れると新しい列を作って同じように並べていった。もちろん、こうして元素の整理を試みたのはMendeleevが初めてではなかったが、彼の周期表が今なお世界中の教室や実験室で使われているのには理由がある。

それはMendeleevが、周期表を既知の元素だけで埋めてしまわず、後に発見されるであろう新元素を入れるべき空欄を最初から設けていたからだ。

彼は、既知のどの元素よりもその場所にふさわしい未発見元素が存在するはずだと判断すると、そうした場所に、同族の最も近い元素の名前にちなんだ、「エカホウ素(Eb)」、「エカアルミニウム(Ea)」、「エカマンガン(Em)」、「エカケイ素(Es)」などの仮名を充てるとともに、周期表中の位置に基づいてそれらの特性や特徴を予測した。ちなみに「エカ(eka)」とはサンスクリット語で「1」を意味する。

エカ元素の第1号は1875年、フランスの化学者Paul-Émile Lecoq de Boisbaudranによって発見された。

閃亜鉛鉱の試料を分光法で分析したところ、Eaの特徴である1対の紫色の線が検出されたのだ。de Boisbaudranは同年、電気分解によってこの新元素の単離に成功し、母国フランスのラテン名ガリア(Gallia)にちなんでこれを「ガリウム(gallium)」と名付けた。

続いて、彼は実験でGaの特性を次々に明らかにしていったのだが、その結果はいずれもMendeleevが予測したEaの特性と酷似していた。そんな中、唯一大きな差が認められたのが密度で、6 g mlというMendeleev の予測値に対してde Boisbaudranの測定値は4.5 g mlだった。

見かねたMendeleevが誤りであることを書簡で指摘したところ、de Boisbaudranは後に密度値を訂正、最終的な値はMendeleev の予測値に極めて近い5.9 g mlとされた。Mendeleevが周期表に一連のエカ元素を配置したことの正当性が、このとき晴れて証明されたのである。

Gaは、銀色の軟らかい金属で、電気伝導率はさほど高くない。周期表では第4周期に属し、その位置から予想されるように、1つ上のアルミニウム(Al)と1つ下のインジウム(In)の中間的な性質を示す(参考文献1)。Gaの3d軌道の遮蔽効果はAlの2p軌道のそれよりも小さいため、Gaのイオン化エネルギーはAlよりも大きい。また同じ理由から、Gaの原子半径が、Alとほぼ同じ130 pmと予想より小さいことは重要だ。

金属にしては融点が低い、というGaの最もよく知られた特性は、この原子半径の異常な小ささにも起因している。Gaは室温だと軟らかい金属だが、イリノイ州のちょっと暑い日の気温や体温より数度低い温度では溶けて液体になる(融点は29.76°C)。この特性は、19世紀の化学者たちの間で、Ga製のスプーンを紅茶に添えて差し出すという典型的な悪ふざけに利用された。

何も知らずにスプーンで紅茶をかき混ぜた客は、スプーンがあっという間に溶けるのを見て仰天したという(イラスト)。一方、こうしたGaの融点の低さ(そして沸点の高さ)は、実用的な温度領域で金属特性を示す液体が容易に得られることを意味する。

Gaの特徴でおそらく最も重要なのは、さまざまな金属と合金化しやすいことだろう。これは、原子半径の小さいGaが、他の金属格子中に比較的容易に侵入することに起因する。Gaの低融点という性質はGa合金にも受け継がれることが多く、そのためGaとの合金化によって加工性と安定性が向上し、結果として費用効率が向上する。

Gaの応用例のほとんどが半導体業界で見られ、例えば、抜群の知名度を誇るGa合金「ガリウムヒ素(GaAs)」は高速論理チップや携帯電話の前置増幅器に、また「アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)」や「インジウムガリウムヒ素(InGaAs)」はブルーレイディスクプレーヤーの405 nmレーザーダイオードの発光材料として用いられている。

Ga化学は、こうした工学的進歩を可能にしているだけでなく、燃料・エネルギー科学の根本的な問題に対処する取り組みにも利用され始めている。初期の研究によって、Ga含有ゼオライトが、メチルシクロヘキサン(CHCH)を開環切断してアルカン小分子を生成する反応を効果的に触媒することが明らかになり(参考文献2)、この反応はガソリンの熱分解生成物のリサイクルに利用されている。Gaゼオライトはまた、n-デカンを芳香族化することもできる(参考文献3)。

さらに、窒化ガリウム(GaN)のナノワイヤーが、メタン(CH)からベンゼン(CH)を合成する反応を触媒することも、最近の研究によって明らかになっている(参考文献4)。メタンのC-H結合を切断することは決して容易ではなく、そのためこうした反応は、比較的反応性の低い埋蔵メタンやガソリン生産の不要な副産物を有用な石油化学製品に変換する重要なステップとなり、燃料貯蔵や精密化学合成の分野にとって重要な意味を持つ。

周期表におけるGaの存在は、はっきり言って特別ではない。何かに特に秀でているわけではなく、融点や密度を含め、特性はいずれも中程度なのだ。

だが逆に、Gaのこうしたほどほどの特徴が、他元素との間の凝集力や相転移特性が高く評価される半導体業界で、根本的に重要な地位を確立するのを可能にしたともいえる。

Gaは、初期の化学理論の裏付けから最先端技術まで、実にさまざまな役割をこなし、化学全体に多大な影響を及ぼしてきた。今後も、応用探索が進むにつれてGaの重要性は増す一方だろう。

著者: MARSHALL BRENNAN

参考文献:
  1. Greenwood, N. N. & Earnshaw, A. Chemistry of the Elements 2nd edn, 217-267 (Butterworth-Heinemann, 1997)
  2. Raichle, A., Moser, S., Traa, Y. & Hunger, M. Catal. Commun.2, 23-29 (2001).
  3. Pradhan, S. et al. Chem. Sci.3, 2958-2964 (2012).
  4. Li, L., Fan, S., Mu, X., Mi, Z. & Li, C-J. J. Am. Chem. Soc.136, 7793-7796 (2014).

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Nature Chemistry5, 546(2013年6月号) | doi:10.1038/nchem.1656

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