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2015年09月24日 15時56分 JST | 更新 2016年09月23日 18時12分 JST

「バイオシミラー医薬品」としての承認に踏み切る米国FDA

バイオシミラー(バイオ後続品)は、先行品より低価格というメリットがあるが、科学、規制、特許のそれぞれの局面で課題を抱えている。

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ヒト成長ホルモン「ソマトロピン」のバイオシミラー(サンド社)のタンパク質構造。バイオ医薬品は複雑な構造であることから、後続品は同一ではなく類似(シミラー;同等/同質)かどうかで評価される。ソマトロピンのバイオシミラーは、欧州連合では2006年に、日本では2009年に承認された。

Thinkstock

米国食品医薬品局(FDA)が、数年にわたる議論を経て、バイオシミラーの販売承認に踏み切る見通しだ。バイオシミラーとは、がん、自己免疫疾患などの治療に用いる複雑で高価なバイオ医薬品の「後続品」のことで、先行品より低価格で販売される。がん治療に用いられているアムジェン社(米国カリフォルニア州サウザンドオークス)の免疫増強薬フィルグラスチム(ヒト顆粒球コロニー刺激因子製剤、商品名ニューポジェン)にはバイオシミラーが複数存在しており、FDAの諮問委員会は2015年1月7日、スイスの製薬大手ノバルティス社のジェネリック医薬品事業部門であるサンド社(Sandoz)のバイオシミラーをフィルグラスチムの代替薬として承認すべきであると決定した。全会一致であった。

こうした後発品がジェネリック医薬品ではなくバイオシミラーと呼ばれるのは、その先行品に当たるバイオ医薬品が生細胞内で合成される複雑な分子によって構成されており、その正確なコピーを作製することが不可能なために「類似(同等/同質)」という考えに基づき評価されることに由来する。バイオ医薬品の場合、実際には、正確なコピーどころか、正確とはいえないコピーを作ることすら極めて難しい。サンド社のバイオシミラーは承認される見通しになったが、バイオシミラーの作製と評価には難しい点があるため、市場への浸透が制約される可能性がある。また、この分野では数多くの特許紛争が起こっており、特に製造方法に関する特許をめぐる紛争が多い。フィルグラスチムの事案でも、後発品を作るサンド社は、医薬品の承認に関する米国法の要件に異議を申し立てている。

「バイオシミラーに関しては、一から始めなければなりません。科学的に不確実な点が数多く残っているからです」。こう話すのは、シートンホール大学(米国ニュージャージー州ニューアーク)に所属する法学者でテクノロジー関連法を専門とするJordan Paradiseだ。

バイオ医薬品とは、遺伝子組換え生物が産生する高分子量のタンパク質分子を有効成分とする薬剤のことで、生化学的製法によって得られる比較的低分子量の分子を用いた標準的な医薬品とは異なる。生体の細胞は、いったん産生したタンパク質の特定の部位に複雑な糖分子やその他の化合物を付加することで、そのタンパク質を化学修飾することがある。こうした化学修飾のパターンとそれに付随するタンパク質分子の構造と挙動は、細胞の培養条件に厳密に依存する。それゆえバイオ医薬品は極めて複雑であり、その特性を十分に解析することは不可能とはいえないまでも困難なことである。

正確なコピーではないバイオシミラーについては、通常のジェネリック医薬品よりも詳細な試験を行う必要がある。欧州連合では、この10年間、バイオシミラーの評価と承認を行ってきた。しかし米国では、2010年の規制法案の可決まではそうするための手段がなく、バイオテクノロジー企業はFDAによるバイオシミラーの評価結果を待ち望んでいた※。

患者を支援する人々は、バイオシミラーによる競争の活発化で薬剤費が低減することを期待している。バイオ医薬品は高くつく。例えば、転移性大腸がんの患者にベバシズマブ(商品名アバスチン)を投与し延命を試みる場合、治療に要する薬剤費は年間で約7万5000ドル(約900万円)と試算されている(V. Shankaran et al. Oncologist19, 892-899; 2014)。また、ランド研究所(米国カリフォルニア州サンタモニカ)が2014年に発表した報告書によれば、バイオシミラーによる費用節減効果が2024年の時点で442億ドル(約5兆3040億円)に上ると見積もられている。

フィルグラスチムの場合は話が比較的簡単で、低分子量のタンパク質であり、糖分子は付加されていない。それでもサンド社は、同社のバイオシミラーの体内分解性がフィルグラスチムと類似しており免疫応答を誘発しないことを実証するために、388名の乳がん患者と174名の健常者を対象とした臨床試験のデータをFDAに提出した。

FDAは2015年5月までに最終決定を下す見込みだ。サンド社は米国内での販売準備を進めているのだが、アムジェン社との特許紛争にも巻き込まれている。米国法では、バイオシミラーの製造者であるサンド社に対してその製造法の詳細をアムジェン社に開示することを義務付けているため、アムジェン社は自社特許の侵害の有無を調べることができる。だが、EU法にはそうした規定がないことを盾に、サンド社は情報の開示を拒否した。Paradiseは、こうした前例ができてしまうことに失望していると話す。「初めてのバイオシミラーの承認申請なのに関係メーカーが協力しないのです」とParadise。

一方、メーカーはそうした懸念を深刻に感じている、とニューハンプシャー大学法科大学院(米国コンコード)で特許法を専攻するNicholson Priceは話す。製薬会社は、医薬品の製造方法を秘密扱いにすることが多く、複雑な医薬品を製造すれば、製法や分子解析法に対する特許申請を行う余地も大きい。「後続品メーカーは、先行品を手探りで再現しようとしています。実際に存在している特許を侵害したという問題やそうした特許が存在しているのではないかという危惧によって頓挫したバイオシミラーは少なくないと思います」とPriceは話す。

たとえそうした障害が克服されたとしても、先行品に類似しているだけのバイオシミラーに対するユーザーの反応が不透明だ。FDA諮問委員会の会議では、多数の患者グループが、バイオシミラーへの支持と高額の薬剤費から解放されることへの期待感を表明した。その一方で、バイオシミラーに先行品と同じ一般名が付けられることで、患者に投与されているのが先行品なのか後続品なのかが分かりづらくなることへの懸念も示された。サンド社のバイオシミラーの承認に関しては、これをフィルグラスチムと呼ぶことをFDAが許すのかどうかに多くの人々の注目が集まっている(訳注:サンド社のフィルグラスチム後発品は欧州では「Zarzio」という商品名で販売されている)。

諮問委員会の一員であるマサチューセッツ大学(米国ウースター)の腫瘍学者James Liebmannは、そうした懸念に驚きを隠さない。「このバイオシミラーがフィルグラスチムであることは、かなりはっきりと確認されています。それ以外の名前にすれば誤解が生まれると思います」。

※編集部註:米国はこれまでヒト成長ホルモンやフィルグラスチムの後続品を承認・販売してきた。これは2010年の規制法案可決以前のことであり、バイオシミラーとしてではなく、新薬や生物製剤としての承認であった。

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150415

原文:Nature (2015-01-15) | doi: 10.1038/517253a | First biosimilar drug set to enter US market

Heidi Ledford

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