カリホルニウム(Cf)が放つまばゆい緑色光の起源とその明るい未来について、フロリダ州立大学のThomas Albrecht-Schmittが説明する。
FROM REF. 5, NATURE PUBLISHING GROUP
98番元素カリホルニウム(Cf)は、アクチノイド系列の後半に位置する人工の超ウラン元素(ウランよりも原子番号の大きい元素)で、天然には存在せず、同位体は20種類が知られている。この元素は1950年2月、カリフォルニア大学バークレー校(米国)のGlenn Seaborgらによって、直径60インチのサイクロトロンでキュリウム242(Cm)にヘリウム(He)イオンを衝突させることで初めて合成・確認された。「カリホルニウム」という名前はもちろん、カリフォルニア州にちなんで付けられたものだが、超ウラン元素を多数生み出した同大学の業績を称えてもいる。
今でこそ知られている事実だが、実はCfが観測されたのはこの時が初めてではなかった。1940年代に行われた初期の核実験で、ちりの中にフェルミウム(Fm)までのアクチノイド系列後半元素が確認された、との情報があるのだ。ところがこの情報は、長年にわたって機密扱いされてきた。
Cfより原子番号の大きい元素の同位体は、寿命が短く、半減期が1年に満たないものが多い。つまり周期表上で見れば、マクロ化学的な研究をそれなりに行うことのできる最後の元素がCfなのである。しかし、Cfは大量合成が難しく、周期表ですぐ隣に位置するアインスタイニウム(Es)でも、これまでマイクログラム量でしか作られたことはない。現在合成されているCfはほとんどがCfだが、Cfは自発核分裂率が異常に高く、1 μg量で毎秒230万個もの中性子を放出するため、取り扱いには危険が伴う。従って、トレーサーレベルを超えるCfの化学的性質を調べることは基本的に不可能である。
幸い、Cf合成では同時にバークリウム(Bk)の同位体Bkも生成し、これは他の中性子捕獲生成物から高い化学的純度、放射化学的純度で分離が可能だ。Bkは寿命が短く(半減期320日)、β崩壊してCfに変わる。このCfは半減期が351年と十分に長く、化学的にははるかに有用である。そのため、Cfに関するほぼ全ての化学的研究は、このCfを用いて行われている。研究対象として理想的なのは、半減期がCf同位体中で最長の約900年というCfだが、残念ながらCfは合成が困難である。
初のCf化合物(Cf同位体混合物を含む)は、1960年代にマイクログラムスケールで合成された(参考文献1)。しかし、単結晶X線回折研究や詳細な物理的特性の測定が可能になったのは、オークリッジ国立研究所(米国テネシー州)の高中性子束同位体炉(HFIR)で有意義な量の純粋なCfが合成されるようになってからだ(参考文献2)。Cf化合物の研究は1970年代初期になってようやく実を結んだが、その立役者であるJohn BurnsとRichard Haireのアクチノイド化学への貢献は、残念ながらあまり知られていない。
Burnsは、3価のCf が3価のガドリニウム(Gd)と同等のイオン半径を持つことを確認した。これは注目すべきことである。なぜなら、このイオン半径では、溶液中で8配位アクア錯体と9配位アクア錯体が迅速に平衡に達するるフラクショナル(流動的)な挙動が起こるからである。この挙動があるために、Gd(III)はMRIの造影剤として用いられているのだ。また、こうした性質に起因して、三塩化物が六方晶構造と斜方晶構造の両方をとり得るという点でも、Cf(III)とGd(III)は似ている(参考文献2)。
Cf化合物の中には自己発光するものがある。強い放射線放出によってf電子が励起された結果、緑色の光を放つのである。この緑色光(Cf[BO(OH)]の発光の様子を図に示す)は美しく、それ自体は無害だが、目に見えない放射線には十分な注意が必要だ。
Cfは、厚さ2 cm以上の鉛を通り抜けるほど強力な高エネルギーγ線(388 keV)を放出する。例えば、5 mgのCfサンプルを手に持ったとすると、10分もしないうちに年間しきい値を超す放射線量を浴びてしまうだろう。そのため、Cfの化学研究は専用の放射線施設の中でしか行うことができない上、被曝時間が最小限になるよう慎重に実験計画を練らなければならない。
現在、発電用の商用原子炉の使用が増えていることから、Cfやその関連アクチノイドであるキュリウム(Cm)とアメリシウム(Am)の化学が見直されつつある(参考文献3)。多くの国が使用済み核燃料のリサイクルを目指しており、こうした燃料にはCfやCm、Amが含まれているためだ。使用済み核燃料はさまざまな元素と同位体が入り混じった複雑な混合物で、リサイクルの実現には、各元素を工業レベルで分離する精巧な化学プロセスの開発が不可欠となる。
1940年代の「マンハッタン計画」で得られたデータからは、アクチノイド元素の原子価軌道が共有結合に関与している可能性が示唆されたが、これはアクチノイド系列後半の元素でイオン性が予想されることとは対照的だ。
一方、理論と実験を組み合わせた最近の研究からは、中ほどから後半のアクチノイド元素では、6d軌道や5f軌道を意図的に共有結合の形成に用いることが可能で、また、そうした結合の様式は酸化状態が同じであっても隣接アクチノイド間で大きく異なる可能性がある、という強力な証拠が得られている(参考文献4, 5)。核廃棄物から放射性核種を捕獲・識別するための選択的な抽出剤や材料の設計においては、こうした結合の制御がカギとなることから、Cf化学の未来はその輝きに引けを取らないくらいに明るいといえる。
Nature Chemistry6, (2014年9月号) | doi:10.1038/nchem.2035
doi:10.1038/nchem.2035
著者: THOMAS ALBRECHT-SCHMITT
- Copeland, J. C. & Cunningham, B. B. J. Inorg. Nucl. Chem.31, 733-740 (1969).
- Burns, J. H., Peterson, J. R. & Baybarz, R. D. J. Inorg. Nucl. Chem.35, 1171-1177 (1973).
- Neidig, M. L., Clark, D. L. & Martin, R. L. Coord. Chem. Rev.257, 394-406 (2013).
- Polinski, M. J. et al. J. Am. Chem. Soc.134, 10682-10692 (2012).
- Polinski, M. J. et al. Nature Chem.6, 387-392 (2014).
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