犬や猫は私たちより先に逝くことが宿命づけられた小さな命といえ、彼らを無条件で愛しいと思い、一緒に暮らすことを望んだり不幸な境遇にあれば助けたいと思ったりするのは多くの人にとって自然な感情ではないでしょうか。
少子高齢化が進む日本では、飼育される犬と猫の数は2千万頭と人間の子どもの数(15歳未満人口:1617万人)を大きく上回っています。
犬や猫はいまや家族の一員として扱われるようになっていて、「ペット(愛玩動物)ではなく人生のパートナー(伴侶動物)」や「ペットは子育てを終えた夫婦をつなぐかすがい」という人もいるほどです。
ところが、古い公団住宅ではペット禁止が当たり前で、民間の分譲マンションでも10年以上前ならペット飼育可能物件は1割もありませんでした。
それが、最近分譲されるマンションのほとんどでは、体長や体重、頭数の制限などの条件付で犬や猫が飼えるようになりました。戸建て住宅の特権だった犬や猫との同居が、分譲マンションでも可能になったのです。
1997年に建設省(現国土交通省)が、ペット飼育を認めるか認めないかをマンション管理規約に定めるべき事項としてから20年近くを経て、ようやく分譲マンションでのペット飼育が一般的になったといえます。
一方、アパートや賃貸マンションでも、ペット飼育可能物件は増えてきているものの数は非常に少なく、「ペット飼育可」でも犬はオーケーだが猫はダメという物件がほとんどです。
ある不動産会社によると、賃貸住宅でペット飼育可能物件は全体の5%程度しかないとのことですから、猫の飼育可能物件はさらに少ないとみるべきでしょう。
一般社団法人ペットフード協会の調査では、猫を飼いたくても飼えない阻害要因の1位は「集合住宅(賃貸・分譲)に住んでいて禁止されているから」で、3人に1人が理由として挙げています。
また、犬を飼いたいのに飼えない理由についても住宅事情が阻害要因の1位になっていますが、理由に挙げた人は4人に1人ですから、猫の飼育不可の集合住宅の多さがうかがわれます。
なお、年代別にペット飼育の阻害要因をみてみると、「集合住宅に住んでいて禁止されている」が1位なのは、20歳代(50.0%)、30歳代(42.4%)、40歳代(38.5%)と若い世代に偏り、自宅所有の割合が高い50歳代以上は住宅事情よりも、「別れがつらい」、「死ぬとかわいそう」、「最後まで世話ができない」など高齢世帯特有の理由が1位になっています。
猫の保護活動に取り組むNPO法人東京キャットガーディアンが日本で初めて考案した「猫付きマンション」と「猫付きシェアハウス」が注目を集めているのは、猫を飼いたくても飼えない賃貸住宅が多すぎる現実の反映ともいえそうです。
最近、空き家の増加が社会的な問題になっていますが、全国に820万戸ある空き家の過半数は賃貸住宅が占めています。
一方、相続税改正を背景に節税対策として賃貸住宅を建てる動きが活発化しており、住宅需要を支えてきた世帯数の増加が見込めないだけに、賃貸住宅の空き家が今後さらに増えるのはほぼ確実です。
このような厳しいマーケット環境で賃貸住宅経営を続けるためには、顧客が求めるさまざまなニーズにきちんと向き合う必要があるはずです。
しかし、賃貸住宅の主な顧客である若い世代を中心に猫の飼育可能物件に対する潜在的なニーズはかなりありそうなのに、そういった物件が少ないのはなぜなのでしょうか。
(次回「猫と暮らせる住まいを考える-(その2)障害は大家さんの誤解」に続く)
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(注)このコラムは3回連続で、2015年11月17日発売予定の光文社新書『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス~(山本葉子・松村徹共著)(*1)』の内容の一部を加筆修正したものです。山本葉子は猫カフェ型の開放型シェルターの運営を行う特定非営利活動法人(NPO法人)東京キャットガーディアン代表です。同団体は、設立から7年を迎えた2014年度末時点で里親への譲渡総数は4164頭、2015年9月末では4501頭という実績を上げている動物保護団体です。
(2015年11月4日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 不動産研究部長
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