総務省情報通信政策研究所が5月に公表した「平成26年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、消費者の主なメディアの利用状況および平日・休日の1日あたりの平均的な利用時間では、全年代とも「テレビ(リアルタイム視聴)」が最も多く、「インターネット」が続いている。
年代別にみると、10~20代では平日・休日ともに利用率(行為者率)、利用時間のいずれもが「インターネット」は「テレビ(リアルタイム視聴)」を上回っており、なかでも「ソーシャルメディア(*1)」の利用が多くなっているさまがみてとれる。
同調査のなかで平成25年調査と比較した結果からは、「ソーシャルメディア」は30代以上でも利用時間が増加していることも示されている。これらの結果からみても、消費者の日常生活においてソーシャルメディアは今後も確実に浸透していくものと思われる。
このような消費者側の生活行動やメディアへの接触状況の変化に対して、企業側では十分に対応できているのだろうか。
総務省の「通信利用動向調査(企業編)」から企業のソーシャルメディアの活用状況についてみると、全体では平成23年調査の12.2%から概ね増加傾向にあるものの、最新の平成26年調査でも17.6%と2割に満たない結果となっている(図表)。
平成26年調査の結果について業種別にみると、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、サービス業、その他では2割を超えて全体に比べ高く、企業規模別では概ね大企業ほど高くなる傾向がみられているものの、大企業でも4割に満たない結果となっている(*2)。
業種や企業規模によりやや違いはあるものの、ソーシャルメディアを活用する企業は、未だ少数派であり、今後の拡大も緩やかなものに留まるものと思われる。
一方、ソーシャルメディアを活用している企業について、ソーシャルメディアサービスの活用目的・用途を尋ねた結果をみると、全体では「商品や催物の紹介、宣伝」が63.3%で最も多く、「定期的な情報の提供」(59.2%)、「会社案内、人材募集」(32.3%)の順となっている。
時系列で比較すると、「定期的な情報の提供」が一貫して増加し、「商品・催物の紹介、宣伝」も平成24年から25年にかけて増加する一方、「会社案内、人材募集」「消費者の評価・意見の収集」は減少傾向にあることがわかる。
平成24年調査からの3時点間で業種別に比較すると、平成24年から25年にかけて、卸売・小売業、サービス業、その他で「商品や催物の紹介、宣伝」が、サービス業、その他で「定期的な情報の提供」が、それぞれ10ポイント以上増加している。
また、「定期的な情報の提供」は、平成25年から26年にかけて製造業、卸売・小売業でも10ポイント以上増加している。
これらの結果は、企業におけるソーシャルメディアの活用目的が、広報活動や消費者の評価・意見の収集から、より積極的に情報を発信することで、自社商品・サービスの利用の拡大や消費者間のコミュニケーションの誘発につなげる取り組み(*3)にシフトしてきていることを表しているものと考えられる。
本稿冒頭にもあげたとおり、ソーシャルメディアは消費者の日常生活において確実に浸透しつつあるのに対し、現在のところソーシャルメディアを活用する企業はまだ少数派である。一方で既に活用している企業のなかには、より積極的な取り組みを進めるところもでてきているようである。
このことは、ソーシャルメディアの活用が、一部の企業のなかでは経験の蓄積が急速に進んでいる(*4)のに対し、多くの企業においては取り組みが遅々として進まず、潜在的に大きな経験の差(較差)を産んでいることを意味している。
ソーシャルメディアへの取り組み較差が企業業績や顧客との関係性において競合他社との格差につながる前に、まずは取り組みを始める必要があるのではないだろうか。
【関連レポート】
(*1) 同調査ではLINE, Facebook, Twitter, mixi, Mobage, GREE, Google+, YouTube, ニコニコ動画, Vineの10のサービスを列挙してそれぞれの利用の有無を尋ねているのに対し、後述する通信利用動向調査では調査票上は「ソーシャルメディアサービス」と表記し、記入の手引でも「ブログ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、動画共有サイトなど」とし、具体的なサービス名称は示していない。
(*2) 詳細は情報通信統計データベースより各年の調査結果を参照されたい。
(*3) 該当する先進事例では、来店誘導や商品トライアルを企図した各種のソーシャルメディアキャンペーンや、消費者間で話題となることを狙ったスペシャルムービーの公開や消費者参加型のキャンペーンなどがある。
(*4) ソーシャルメディアを売上拡大や消費者との関係強化につなげる取り組みは、インターネット上に先進事例として公開されているものも少なくないが、こうした事例の背後には、開示されることのない貴重な経験も蓄積されているものと考えられよう。
(2015年8月11日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 准主任研究員