2月15日に内閣府が公表した2015年10-12月期の実質GDPは、前期比0.4%減、年率換算で1.4%減だった。その要因は、企業の設備投資が増加したものの、冬物衣料等の販売が不振であったように個人消費が低迷したことや住宅投資が減少したことのようだ。
一方、2月16日には日銀が企業の設備投資や個人消費を促進して2%のインフレ目標を実現するためにマイナス金利政策を導入した。
マイナス金利は国民生活に様々な影響を与えるだろう。若年層の場合は、住宅ローン金利が低下し、住宅購入意欲が高まるだろう。金利が低下したことで身の丈に合わない物件を購入して、ローン破綻しないよう注意が必要だ。
一方、高齢層の場合は、歳を重ねると欲しいモノは少なくなり、預貯金の金利低下から金融資産の目減りが年金生活の不安を膨らませ、消費は抑制されるのではないか。
日銀の「資金循環統計」によると、2015年9月末現在の日本の家計金融資産残高は1,684兆円に上り、「現金・預金」が887兆円と全体の52.7%を占めている。
個人金融資産の7割近くは、世帯主年齢60歳以上の世帯が保有している。これら金融機関に眠るシニア層の膨大な個人資産を一般消費の拡大につなげるにはどうすればよいだろう。
先日、私は久しぶりに映画を観た。料金は一般1,800円、60歳以上のシニアは1,100円だ。62歳の私は、半分嬉しく半分寂しく感じながらも、シニア扱いのおかげで一般料金の4割引で入館できた。
年金暮らしになると外出に伴う交通費の負担も軽くないため、1,100円というシニア料金の設定は、高齢者が映画を楽しむ上での経済的ハードルをかなり低くすると思われる。
シニア向けの優遇料金の設定はさまざまある。旅行系では、飛行機・鉄道の運賃やホテル・旅館等の宿泊費、レジャー・教養系では映画やテーマパーク、美術館や植物園等の入場料、買物系では割引価格の感謝デーの設定などだ。
また、シニア層は時間の融通が利くため、需要が集中するピーク時を避けることで、より安価な料金でサービスを享受できるのだ。
個人金融資産の多くを占めるシニア世代の消費を促すためには、社会保障の充実により将来不安を低減するとともに、旅行や映画をはじめとする時間型の消費サービス拡充が有効だろう。
"時持ち"のシニア世代は、暮らしに豊かさを加える体験を妥当な価格で享受できれば喜んで財布を開くだろう。老後の不安に備え貯蓄にばかり励んでも、将来、何が起こるかは誰にもわからない。
超高齢社会では、『今を豊かに生きる』ための時間型消費が"デフレマインド"融かす「特効薬」になるのかもしれない。
関連レポート
(2016年2月23日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員