「えひめ方式」未婚化への挑戦(1)-世界ランキングお年寄り大国第1位日本・少子化社会データ再考-地方を揺るがす「後継者問題」:研究員の眼

えひめはなぜ未婚化に立ち向かっているのだろうか。

【はじめに】

平成27年国勢調査の速報集計結果で日本は今や「世界一のお年寄り大国」であることが示された(図表1)。1950年からの人口に占める65歳以上人口の割合の上昇度合いには驚くものがある。

最新の国勢調査結果からは65歳以上人口は27%であり、日本は4人に1人以上がお年寄りの国となった。確かに筆者が子どもの頃に比べると、大都会で若者が最も集中している東京でさえも道行く人が随分「年をとって」しまった。

お年寄り人口の割合が増加する要因としては、15歳未満の子ども人口がこれまた世界最低、という減少し続ける子ども現象、すなわち少子化がある。15歳未満人口の割合は12.6%であり、同じく少子化が続くドイツ、イタリア、韓国よりも低水準、すなわち世界最下位となっている(*1)。

なぜ次世代を担う子どもが産まれないのか、についてはデータからは未婚化が大きな要因となっていることは「2つの出生力推移データが示す日本の『次世代育成力』課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造」で説明したので、本稿ではその未婚化に立ち向かう人々にとって参考となるデータを紹介したい。

中でも全国に広がりをみせる「えひめ方式」については、日本各地における今後の活用が十分に行われるためにも、シリーズで取り上げることとする。

本稿では愛媛県における取組をあえて「えひめ」と標記する。これは「愛媛県の取組」とするとさも官製であるかのような大きな誤解をもつ読者が発生する可能性があると考えたためである。

愛媛県という行政エリアにおける、そのエリアの人々からの自然発生的な取組であることを大前提としていることを示すため、愛媛県という行政区に住むエリアの人々を「えひめ」と総称する。

【なぜ未婚化問題に立ち向かっているのか】

えひめはなぜ未婚化に立ち向かっているのだろうか。シンプルな疑問であるので、本シリーズの最初で示しておきたい。

まず、えひめの結婚支援活動の旗振り役を担っているのは「えひめ結婚支援センター」である。このえひめ結婚支援センター(以下、センター)を運営しているのは、一般社団法人愛媛県法人会連合会(以下、法人会)である。

愛媛県において結婚支援活動が盛んであることを知っている人は少なからずいるが、法人会が運営していることを知っている人は多くないようである。

ではなぜ、法人会が運営をしているのか、というのが次なる疑問となる。

センターが開設されたのは実に今から約9年も前の平成20年11月である(*2)。結婚支援が国全体で大きく取り上げられるようになったのは2016年であることを考えると、かなり先進的な取組であるといえる。えひめの法人会がなぜ早期に未婚化対策を開始したのか。

これへの回答は、国の経済センサスの愛媛県の事業所状況結果をみると明らかである(図表2)。

図表2からは愛媛県の事業所の約6割が4人以下の従業員の事業所であり、従業員が9人以下の事業所も合わせると約8割が小規模事業所であることがわかる。

19人以下の事業所で9割を超える愛媛県の事業所。

東京の未婚男女が口にする「自然な出会い」「社内恋愛」といったものは、ある程度の人数が事業所に勤務していればまだ見込みがある。しかし、高齢化が進む中、従業員が10人に満たない事業所においてこの「自然な出会い」を求めるのは当然、ハードルが高すぎる、といえるだろう。

働く人の従業上のステータスを見ても、自営業者とその家族従業者で2割を超えている(平成22年国勢調査結果)。

愛媛県は、後継者に結婚相手が見つからず子どもが生まれない、孫が生まれない、といった一般的な後継者問題が、そのまま深刻な会社・家業・伝統などの存続問題となりかねないエリアなのである。

実際、筆者が愛媛県でヒアリングを行った際も、素晴らしい日本酒を製造する酒造などにおいて後継者問題が深刻化しつつある、との声を耳にした。

社長や役員のポジションを巡って激しい競争が起こりうるような大企業文化のある都会の人間からは想像もできないことが「地方のリアル」である。

そして、そのリアルとの戦いが既に10年程度も前から始まっていることを、都会という「全国への発信基地」の集約されたエリアの人々もよく知っておかねばならない。

あるエリアの人々が、全くエリア事情の異なる人々の活動に対して、想像力の問題から「そんな活動など必要ないのではないか」といった間違った指摘や発信をする可能性は低くはないだろう。

以上の様に、えひめの「深刻な後継者問題」解消に向けて、企業の適正な納税を啓発・普及する企業のサポート団体である「法人会」がその会員の日頃の悩みをうけ、センター設立に立ち上がったのである。

(*1) B総務省「平成2 7 年国勢調査人口等基本集計結果」

(*2) 愛媛銀行「ひめぎん情報」2013年秋号

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(2017年4月10日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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