最近、「仕事と介護の両立」が大きな社会的課題になっている。その背景には、介護している有業者が291万人、過去5年間(平成19年10月~24年9月)に介護・看護のために離職した人が48万7千人に上ることがある。
離職する人は、40代から50代の企業の中核を占める人材の場合も少なくない。しかし、企業における介護離職を防ぐための対応は、まだ緒についたばかりだ。
昨年11月、東京都と東京経営者協会が、『ワーク・ライフ・バランス推進で備えよう!仕事と介護の両立』というシンポジウムを開催した。そのなかで先駆的な取り組みを行っている企業の実践報告があった。
いずれの企業も、第一に従業員の介護状況を把握するためのアンケート調査を行っている。これまで企業内の介護実態はあまり知られておらず、「隠れ介護」という言葉もあるほどだからだ。
実態把握に続き介護支援情報の提供が重要だが、先進企業では介護休業や介護休暇などの社内制度および介護保険制度の利用方法の周知に努めている。
また、介護経験者の話を紹介するなど、介護に直面したときの物心両面のサポートをしている。その他にも従業員が安心して介護制度を利用できるように、介護休業後の復職支援を行っている企業もある。
これから団塊世代が後期高齢者になると、日本は大介護時代を迎える。少子化の進展や単身世帯の増加と相まって、老親介護のために離職に直面する従業員が急増し、介護離職は深刻な経営問題として表面化するだろう。
企業は人口減少時代に介護離職を防止することが重要な経営課題だと認識する必要がある。そして、介護離職対策は従業員にとっても性別を問わない重要な課題となる。
介護離職を防止するにはどうすればよいだろう。最も重要なことは、介護保険サービスと家族介護を巧く組み合わせて、要支援・要介護レベルが低い安定した状態をできるだけ長く維持することである。介護程度が重くなると介護時間が長くなり、必然的に離職に追い込まれる可能性が高くなるからだ。
介護を未然に防止するに留まらず、要介護状態になった場合も安定した状態の維持・改善を促すことを「介護予防」と考えるなら、その実践に努めることが介護離職に至らないための重要なポイントだ。
個人も企業も社会も、大介護時代を乗り越えるためには「介護予防」を徹底的に取り入れることだ。それが介護保険制度を持続可能にし、介護者と要介護者の生活の質(QOL)を高めることにつながる。
日々、親の世話をする中で「介護予防」の重要性を学んだが、それこそが介護離職を防ぎ、大介護時代を切り拓く私の"持論トロジー"(Gerontology:老年学)でもある。
*2 東京都生活文化局<http://www.tokyo-wlb.jp/seminar/tokyo_h26_3.html>
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(2015年1月19日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員