1――はじめに~消防団とは?
「消防団」という言葉を聞いたことのない人はいないだろう。実際に入っている人や、勧誘を受けた人もいるかもしれない。またニュースなどでは、火災よりもむしろ台風や豪雨の時などに、堤防に土嚢を積んだりするとかの活動をしている場面が報道されることも多い。
その消防団とは何か。その活動そのものは、地域の消火活動や、災害時の救助活動などほぼ想像通りのものであろう。一方、消防署と何が違うのかなども含め、消防全体の中での位置づけと現状をみてみる。
消防団の歴史を遡ると、江戸時代の町奉行・大岡忠相にまで行き着くという。当時の江戸には木造家屋が密集していたこともあり、1718年に大岡忠相が「町火消組合」という地域の防火・消火組織を作って、防火体制を整えた。
明治になると、東京府(当時)に消防局が設置されて、町火消は廃止される一方で、同様の活動を行う「消防組」なる組織が創設されたが、これは東京だけの話。
地方では、藩ごとの経緯を持つそれぞれの消防制度があったが、これも明治中期には全国一律に消防組が設置され、府県知事の管理のもとにおかれるようになった。
第二次大戦時には、アメリカ軍による空襲があったわけだが、これに対応するため、全国各地で「警防団」という組織がおかれ、消防組はそこに改編された。
戦後は、警防団は戦争協力団体とみなされて、GHQによりいったん廃止されたが、1947年に消防団令、1948年に消防組織法が公布され、それが今日の消防団へと繋がっている。
2――わが国における消防等の態勢
1|常備消防~消防本部と消防署
消防団などの組織については、消防組織法により定められている。この法律では、まず
「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする」(消防組織法第1条)
とある。
国レベルでの消防の組織は、まずトップに、総務省の外局である消防庁があり、教育訓練機関である消防学校、消防大学校などが置かれる。
実地の消防は、費用の負担も含め、市町村が責任をもって実施される(消防組織法第6~8条)。
市町村は、消防事務のため、消防本部、消防署、消防団(のうち、全部または一部)を設けなければならない(消防組織法第9条)とされ、ここに初めて消防団というのが出てくる。
このうち、消防本部と消防署は「常備の」消防であり、消防団は「非常備の」消防である、と位置づけられている。どの地域でも消防はできるだけ常備化するように整備されてきた。しかし離島など人口の少ない地域で、消防団に実質的に常備消防を託さざるをえない地域もまだ存在する。
消防署(という言葉)に比べて、消防本部というのは言葉としてはあまりなじみのないものかもしれない。多くの市町村では消防本部は「○○市消防本部」のごとく、普通の?名称であるが、「○○市消防局」という名称を使う地域もあり、役割は同じである。
東京都については、特別に規定が設けられており、東京23区における連合組織である「東京消防庁」が消防本部にあたる。(消防組織法第26条など)、
消防本部(の長である消防長)の指揮監督の下に各地の消防署がある。
こうした常備消防の現在の方向としては、消防の広域化、というのが挙げられる。先に見た通り、もともと消防の責任は市町村にあるとされているものの、近隣の市町村の消防本部がいくつか共同で消防事務を行うほうがいいことがある。
というのは、消防部隊数が増えるため、初動・増援いずれの場面においても体制が強化される。これは人員配置の増強や専門化にもつながる。また広域の内部の消防署の配置の見直しにより、現場到着時間の短縮化が図られる。財政面でも、規模の拡大により車両・設備の計画的な整備がやりやすい、といったメリットがある。
こうした広域化に関しては2006年に消防組織法ほかの法的な整備がなされたとき以降、全国各地で進められ、このおかげで消防の非常備を解消した地域もある。
2|非常備消防~消防団
さて次に非常備である消防団のほうだが、消防団の設置、名称、区域は条例で定められる。消防本部を置く市町村では、消防長、消防署長の所轄の下に行動する(消防組織法第18条)。
消防団はほとんど全ての市町村に設置されており、現在全国に2,200団・85万人(うち女性2.5万人)がいる。
また大阪市には(名称としては)消防団なるものがない。かわりに、「大阪市消防局災害活動支援隊」という組織があり、消防団に相当する役割を担っている。このように、別の名で消防団的な組織をもっている市町村もいくつかあり、実質的な違いはない。
3|消防団の活動内容と現状
消防団の活動は、先に挙げた消火活動、救助活動、水防活動のほか、防火・啓蒙活動、救命講習など、災害等の発生に日頃から備える活動も含まれる。
また、いわゆる国民保護法(正確には「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成16年)」)においては、消防団が避難住民の誘導などの役割を担うことが規定され、ますます果たす役割が重くなってきている。(いわゆる国民保護法第97条)
消防団員は昭和30年代には200万人近くいたようだが、減少の一途をたどり、現在では85万人程度となっている。団員の平均年齢は統計のある昭和40年には33歳だったのだが、高齢化がすすみ、平成29年では40歳程度となっている。
また全体の人数が減少する中にあって、女性団員数は増加しており、平成15年の1.2万人から平成29年に2.4万人とこの15年間に倍増している。
もうひとつ消防団の活動に影響する状況として、被雇用者団員(簡単にいえばサラリーマン)の比率が上昇しているということがある。昭和40年には26%程度だったが、現在では73%程度にまで上昇している。
消防団員数の減少の背景のひとつは、常備消防が充実してきており、特に都市部では消防団という前に、消防署からすぐに駆けつけてくれる体制になっているということもあり、それはそれで望ましいことではある。
一方で、やはり消防団に加入すると、各種の訓練、会合などで時間を割かれるので、上にあげたようにいわゆるサラリーマンが多くなると、なかなか入団するにも躊躇するといったことにもなるだろう。
特に、一部では時代遅れとも評される消防操法の訓練や、その競技会に向けた準備において、団員の体力・時間の負担が相当に重い、との感想をよく見かける(これはネット上の個人の感想をみただけではあるが、さもありなんという気がする。)。
(筆者自身も、入団の勧誘を受けたことはあり、気軽に入ってもいいかなとは思っていたが立ち消えになった、という経験はある。その時深く考える機会はなかったが、一旦入団すると、かなり時間と体力などを割かれるようなので、今思えば、会社員ではなかなか厳しいものだったのかもしれない。)
そうした最近の傾向を踏まえながらも、消防団の力を保持しようということで、2007年より消防庁等で検討され、各市町村が順次運用を始めた「消防団協力事業所制度」なるものがある。
これは、被雇用者が活動しやすい環境を整備する目的で、勤務時間中の活動への便宜を図ること、従業員の入団促進など事業所が消防団活動に協力すること、あるいは災害時に資材などを消防団に提供すること、などの点で基準をクリアすれば、そういった表示証を交付するなどして、企業側のイメージアップもでき、何よりも地域防災体制が一層充実する、という仕組である。
(この仕組だと、自宅のある市町村というよりは職場のある市町村の消防団に協力することになる。)
3――おわりに
消防団についてみていくと、その過程で水防団とか海防団というのも見かけた。結論からいうと、消防団が相当部分を兼ねていることにはなるのだが、次回は、水防に関する現状について述べる予定である。
関連レポート
(2018年4月18日「基礎研レター」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主任研究員