平成28年12月16日の佐賀新聞によると、上峰町に「全国の善意を(議員が)自分の懐に入れるのは納得できない」等、苦情が計39件寄せられたらしい。ちなみに、同記事によると、上峰町は平成28年11月末時点で、寄附件数12万3,746件に及ぶ。
苦情の内容とそれに関する筆者の意見は別のレポートに記した通りである。実は、このニュースを読み、筆者はふるさと納税の意義を高める方法を思いついた。そこで、今回はその方法を提案しようと思う。
ふるさと納税は、税金の使われ方を考えるきっかけになる制度と目されている(図表1)。しかし、上記の報道によると、12万件以上もの寄附に対し、苦情件数は39件と0.05%に満たない。
もちろん、税金の使われ方を考えたが苦情を入れるには至らなかった人もいるだろう。とはいえ、税金の使われ方をチェックする寄附者は極めて少数であろう。
税金の使われ方をチェックするのにも労力が必要だからだ。筆者は、実際にふるさと納税の使われ方をチェックし、苦情を入れるに至った寄附者のエネルギーに驚いている。
それに、税金の使われ方を考える寄附者が大多数ならば、寄附額に対する返礼品の価格割合を3割までとするよう通達が出される事もなかっただろう。理念と異なり、ふるさと納税は税金の使われ方を考えるきっかけとはなっていないのではないだろうか。
返礼品で寄附先を選択している寄附者であっても、より小さな労力で税金の使われ方をチェックできるのであれば、その使われ方を考えるかもしれない。
そこで、寄附を受領した自治体に対し、寄附者の居住地自治体と寄附先自治体との行政サービス比較レポートを送付する義務を課してはどうだろうか?「見える化」ではなく「見せる化」により、税金の使われ方を考えるきっかけとなる可能性を高めるのが狙いだ。
試しに、平成27年度の寄附受入金額上位10自治体並びに、ふるさと納税により税収が大きく減ったと報道される横浜市並びに世田谷区の計12自治体を対象に行政サービスを比較する。
比較項目は①水道料金、②認定保育所月額利用料、③介護保険の第1号保険料(月額)、④市区町村職員の初任給基準額(大学卒)、⑤市区町村長給料月額、⑥議会議員の平均報酬月額とした(図表2~図表7)。
介護保険の第1号保険料(月額)や市区町村職員の初任給基準額(大学卒)のように、さほど差がない項目もあるが、他の項目は市町村によって大きく異なる。
税金の使われ方に興味がなくても、何か感じるのではないだろうか。行政サービスの「見せる化」により、期待できる効果は納税意識の高まりだけではない。
ふるさと納税の第二の意義は応援したい地域の力となること、第三の意義は自治体間の競争が進むことである(図表8)。
第二の意義については、返礼品がきっかけであっても、「見せる化」により寄附先自治体を更に応援したいと思うかもしれない。逆に、他の自治体を応援している場合ではないと、気が付くかもしれない。
第三の意義については、ふるさと納税による自治体間の競争は進んでいる。しかし、返礼品競争に偏り、その激化が問題視されている。
返礼品競争の場合、その恩恵の多くは高額所得者に集中する。一方、行政サービスの「見せる化」により、行政サービスやその効率化において競争が進めば、その恩恵は地域住民に広く行き渡る。
「見せる化」の公平な比較項目や比較方法など検討すべきことが多いものの、ふるさと納税の意義がより高められると思うのだが、いかがだろうか。
【関連レポート】
(2017年6月1日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員