読めない未来と若者のキャリア~「働き方の未来2035」に思う:研究員の眼

AIによる労働力代替の可能性は計り知れず、人材需要の構造に対して、まさに読めない未来が待ち受けている。

「少子高齢化により、悲観的なシナリオだと、2030年には労働力人口が872万人減少する(*1)。この2~5年、人材獲得競争が熾烈になってきている(*2)のは、構造的な人口減少に起因する面が大きい。」

よく紹介される一般的なフレーズであり、筆者も講演などでこのように説明している。ただ、講演時間の制約ゆえに、いつも頭によぎりながらもなかなか説明しきれないことがある。

「労働力人口の減少」が「人手不足」に直結するのは「人材需要が今の前提のままであれば」という条件付きであり、今の前提が大きく変われば、労働力人口が減少しても、必ずしも人手不足になるとは限らない。

前提条件を大きく変える可能性を持つ要素として、真っ先に頭に浮かぶのが「技術革新」である。

厚生労働省が主催した「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会の報告書が2016年8月2日に公表された。読めない未来にあえて向き合い、2035年に向けた提言をまとめた貴重な報告書である。

報告書では、AI(Artificial Intelligence、人工知能)等の技術革新を悲観的に捉えず、チャンスととらえて先手を打っていくことの重要性が強調されている。

逆に言うと、先手を打てなければ、人材需要の構造変化に対応できない企業や人材が、苦境に陥ることが懸念されるということだろう。

また、第2回の懇談会で提出された東京大学大学院工学系研究科・松尾豊特任准教授の資料にある「(ディープラーニングは(筆者註))AIにおける50年来のブレークスルー/認識や運動の習熟は、何十年もずっとできなかった。/それがここ3年くらいのあいだに一気にできるようになった。」という説明は印象的だった。

AIによる労働力代替の可能性は計り知れず、人材需要の構造に対して、まさに読めない未来が待ち受けている。

報告書の「おわりに」には「一人ひとりが輝く未来をつくるには、子どもの頃から挑戦と失敗を繰り返して学び、"無から有を生み出す"ことの大切さを教えることが不可欠である。

単に物事を「覚える」よりも、「考える」「友達を作る」「力を合わせる」「人と喜ばせる」といったソーシャルスキルや人と接する能力を子どもたちに身につけさせる方が、実社会では通用する」とある。

夏休み、我が家の受験生が、語呂合わせで年号や歴代のアメリカ大統領の名前を懸命に覚えているのを、複雑な気持ちで見つめる。

受験のテストには特定の解があるけれど、その後社会に出れば読めない未来が待っている。心折れることなく、自分なりの解、キャリアを探し続けてほしい。

関連レポート

(*1) 労働政策研究・研修機構『労働力需給の推計―労働力需給モデル(2013年度版)による政策シミュレーション―』(資料シリーズ No.129、2014年5月)より。「ゼロ成長、労働市場への参加が進まないシナリオ」だと、2012年は6,555万人の労働力人口が、2030年には5,683万人まで減少すると推計されている。

(*2) 労働政策研究・研修機構「人材(人手)不足の企業の7割超が、いっそうの深刻化や慢性的な継続を予想/職場の人材(人手)不足を感じている労働者の約4人に1人が転職等を志向」(記者発表資料、2016年6月)によると、人材(人手)不足であるという企業は4割強にのぼり、そのなかの4割強が「2年超5年以内」に不足し始めたと回答している。

(2016年8月12日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 主任研究員

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