医療保険制度にはどんな種類があるの?:基礎研レター

医療保険制度はなぜこんなに多くの種類があるの?

1―医療保険制度にはどんな種類があるの?

日本の医療保険制度は、大きくは被用者保険と地域保険という2本立てで構成された「国民皆保険」制度となっています。

ただし、2本立てとはいっても、10の保険制度、3000を超える保険者から構成され、多数の制度や保険者が存在する複雑な制度となっています。さらには、2008年4月1日からは、基本的に75歳以上の者を対象とする後期高齢者医療制度がスタートしています。

1|被用者保険(職域保険)

被用者保険」とは、その名が示す通り、「被用者」を対象とする保険のことです。ここで、「被用者」とは、企業や個人事業主等に雇われた人々で、いわゆるサラリーマン等の会社員や公務員、さらには船員が含まれます。「職域保険」ともいいます。

被用者保険の場合、雇用に伴う給料支払等を通じて、被用者の所得等が把握されるため、雇用主からの拠出や被用者からの保険料徴収が相対的に容易に行えるというメリットがあります。

被用者保険は、大きくは、(1)健康保険(一般被用者保険)、(2)特定被用者保険、の2つに分かれます。

(1)健康保険(一般被用者保険)

健康保険はいわゆるサラリーマンとして民間企業に勤めている人とその家族が加入する医療保険制度です。これには、①組合管掌健康保険(組合健保)②全国健康保険協会組合管掌保険(協会けんぽ)、があります。

①組合管掌健康保険(組合健保)

主として、大企業(やそのグループ企業)の会社員及びその家族が加入する健康保険です。

組合管掌健康保険は、健康保険組合によって運営され、健康保険組合が保険者となっています。

組合管掌健康保険には、「単一型(企業が単独で設立)」、「総合型(同業種の複数の企業が共同で設立)、「地域型(同一都道府県内に展開する健保組合が合併した場合)」があります。

②全国健康保険協会組合管掌保険(協会けんぽ)

主として、中小企業の会社員及びその家族が加入する健康保険です。

全国健康保険協会組合管掌保険は、以前は国(社会保険庁)が保険者として政府管掌健康保険と呼ばれていましたが、2008年10月1日から、全国健康保険協会によって運営され、全国健康保険協会が保険者となっています。

なお、近年では大企業であっても、健康保険組合を持たず、あるいは健康保険組合を解散して、全国健康保険協会組合管掌保険(協会けんぽ)に移行する例が増えています。

(2)特定被用者保険

特定被用者保険とは、公務員、私立学校の教職員、船員を対象とした医療保険です。制度の歴史や海上での保障という特殊性等を考慮して、一般被用者保険とは異なる制度となっています。

これには、①国家公務員共済組合②地方公務員共済組合③私立学校教職員共済制度④船員保険、があります。

①国家公務員共済組合

国家公務員共済組合は、公務員のうち、国家公務員が加入する共済組合です。

財務省や外務省等の省庁に加えて、衆議院や参議院の共済組合等の20団体が、国家公務員共済組合の連合組織である国家公務員共済組合連合会に加入しています。

②地方公務員共済組合

地方公務員共済組合は、公務員のうち、地方公務員が加入する共済組合です。

東京都職員、地方職員(*1)、指定都市職員(*2)、市町村職員、都市職員(*3)の共済組合に加えて、都道府県警察職員と警察庁職員等が加入する警察共済組合や、公立学校職員や都道府県教育委員会とその教育機関の職員が加入する公立学校共済、という64団体が、地方公務員共済組合の連合組織である地方公務員共済組合連合会に加入しています。

(*1) 地方職員共済組合は、道府県職員・地方団体関係団体職員を組合員として構成されます。

(*2) 指定都市職員共済組合は、政令指定都市職員を組合員として構成される共済組合です。ただし、仙台市以降に政令指定都市になった市は該当せず、仙台市以降に政令指定都市になった市については、仙台市については都市職員共済組合に、その他は市町村職員共済組合に加入しています。

(*3) 都市職員共済組合は、特定の市の職員を組合員として構成される共済組合です。市町村職員共済組合に加盟していない一部の市に1組合置かれています。仙台市、愛知県都市、北海道都市、札幌市、名古屋市職員共済組合があります。

③私立学校教職員共済制度

私立学校教職員共済制度は、私立学校の教職員が加入する制度です。

私立学校教職員共済制度は、日本私立学校振興・共済事業団によって運営されています。

結局、以上の①から③の共済組合は、現在85団体あります。

④船員保険

船員保険は、船員として船舶所有者に使用される者を対象としている制度です。

船員保険については、1940年の創設以来、国が保険者となっていましたが、2010年からは、全国健康保険協会が保険者となっています。

2|地域保険

地域保険は、自営業者、農林水産業者、無職者等被用者保険に加入していない人を対象としています。

これには、①国民健康保険(市町村国保)②国民健康保険組合(国保組合)、があります。

①国民健康保険(市町村国保)

国民健康保険は、自営業者、年金生活者、非正規雇用者やその家族など、被用者保険に加入していない国民を対象とする保険制度であり、市区町村が保険者となっています。

国民健康保険(市町村国保)には、被扶養者という概念はなく、家族も被保険者となります。かつては自営業者が加入者の中心でしたが、現在は、退職者等の無職者が加入者の約4割を超えております。

②国民健康保険組合(国保組合)

国民健康保険組合は、自営業であっても同種同業の者が連合して、作ることが法律上認められている健康保険組合です。同じ事業や業務に従事している300人以上の人で構成されています。

国民健康保険(市町村国保)が、住んでいる場所で加入資格が得られるのに対し、国民健康保険組合(国保組合)は、職種や業務によって加入資格が得られる点が異なります。ただし、国民健康保険組合の大半は加入できる地域も限定しています。

歴史的な経緯もあって、国民健康保険組合がある業種は限られています。すなわち、市町村国保を原則とする立場から、1959年(昭和34年)以降、原則として新規設立は認められていませんが、特例として認可されることもあります。

2018年4月1日時点では、「建設」32組合、「三師(医師、歯科医師、薬剤師)」92組合、「一般」39組合、「全国土木」1組合で、合計164組合が存在しています。「一般」業種に属する国民健康保険組合には、弁護士・美容師・大工・芸能に従事する人などが、知事の許可を得て同業者間で都道府県ごとに設立した健康保険組合が含まれています。

なお、国民健康保険(市町村国保)の被保険者が3,300万人程度いるのに対して、国民健康保険組合(国保組合)の被保険者は約300万人程度です。

3|後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度は、75歳以上の者と後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者を対象とする医療保険制度(ただし、生活保護受給者を除く)であり、2008年(平成20年)4月1日からスタートしています。

保険者は各都道府県の全市区町村で構成される後期高齢者医療広域連合であり、財源は被保険者の払う保険料、健康組合等が拠出する後期高齢者交付金、国、都道府県、市区町村の補助や負担金により担われます。

75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた国民健康保険(市町村国保)や被用者保険(健康保険や共済組合等)等から後期高齢者医療制度に移ります。 このとき、特別な手続きをする必要はなく、誕生日と同時に自動的に後期高齢者医療制度に加入することとなります。

なお、地域単位で運営される国民健康保険(市町村国保)と後期高齢者医療制度は、全く別の制度です。75歳に到達して、それまで国民健康保険(市町村国保)に加入していた人でも、後期高齢者制度に移行することで、例えば以下のように制度の内容や取扱が変更になります。

・保険料について、国民健康保険(市町村国保)では、運営する市区町村毎に設定されるのに対して、後期高齢者医療制度では、後期高齢者医療保険広域連合毎に設定されます。そのため、同一広域連合内(都道府県内)であれば、後期高齢者の保険料は原則同一になります。

・保険料について、国民健康保険(市町村国保)は世帯主が世帯の分をまとめて払いますが、後期高齢者は被保険者一人ひとりが払います。

以上で述べてきた各制度のうち主要なものの概要と加入数は、以下の図表の通りです。

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2―医療保険制度はなぜこんなに多くの種類があるの?

日本の医療保険制度は、なぜこのように多くの制度に分かれているのでしょうか。これは、国民皆保険制度を実現していくまでの歴史的な経緯に関係しています。ここでは、現行の医療保険制度が形成される過程について、概略を説明します(*4)。

(*4)平成23年版「厚生労働白書」等を参照しました。

1|健康保険法の制定

健康保険法は、第一次世界大戦後の不況によって、工場の閉鎖や企業の倒産等が相次ぐ中で、労働運動が高まっていたことを背景に、労使関係の改善を図り、労働者を保護するために、1922年に制定されました。

健康保険法の当初の適用対象は、工場法、鉱業法の適用を受ける10人以上の従業員を有する事業所で、被保険者もその従業員で報酬が一定額未満の肉体労働者(ブルーカラー)に限定されていました。また、健康保険の保険者については、常時300人以上の被保険者を使用する事業所は健康保険組合を設立できるとしましたが、このような組合の設立ができない場合には政府管掌健康保険を適用することとなりました。

その後、常時10人以上を使用する会社や銀行、商店等で働く「職員」(ホワイトカラー)を被保険者とする職員健康保険法が1939年に制定され、1942年の健康保険法改正で同法と統合されました。

また、戦時体制下で、国防上の観点で物資の海上輸送を担う船員の確保が急務であったこと等から、船員を対象とする「船員保険制度」が1939年に創設されました。

公務員等に対する共済組合の起源は、明治末期から大正期にかけて創設された官業労働者の共済組合でした。第二次世界大戦後には、健康保険制度とは別に、①国家公務員共済組合、②地方公務員共済組合、③私立学校教職員共済制度、等の共済組合が創設され、公務員等の職域における医療(短期給付)・年金(長期給付)・福祉の三事業を担っていました。

現在は、例えば、国家公務員共済組合については、1958年に制定された国家公務員共済法によって、原則として各省庁単位で共済組合が設けられています。

また、地方公務員共済組合については、1962年に制定された地方公務員等共済組合法によって、都道府県や指定都市等の単位で設けられています。さらに、私立学校教職員共済制度については、1953年に私立学校教職員共済法が制定されています。

2|国民健康保険法の制定

国民健康保険法(旧法)は、大正時代末期の戦後恐慌に引き続く、昭和恐慌等の相次ぐ発生により、また東北地方を中心とした大凶作等の発生を背景に、農村における貧困と疾病の連鎖を切断し、併せて医療の確保や医療費軽減を図るために、1938年に制定されました。

当時の保険者は国民健康保険組合であり、任意加入の制度であったため、医療保険に加入しない国民が多く残りました。

3|国民皆保険の実現

戦後の経済成長が始まる1955年頃においても、国民の約3分の1が健康保険にも国民健康保険にも加入していませんでした。これらは、主として、被用者5人未満の事業所の被用者及びその家族と、国民健康保険を実施していない市町村に居住していた被用者保険の対象となっていない人々でした。

1958年に新たな国民健康法が制定され、全ての市区町村に国民健康保険事業の実施が義務付けられて、健康保険等の被保険者とその被扶養者を除き、市区町村の区域内に住所を有する者は全てが国民健康保険の被保険者になりました。この結果、1961年までに、全市区町村において、国民健康保険が実施され、国民皆保険が達成されました。

このように、公的な医療保険制度は、一定の規模を有する事業所における相互扶助的な共済組合を源流としており、それ以外の中小事業者の労働者を政府管掌健康保険でカバーするという形で、被用者保険からスタートしました。

一方で、農村を基礎とした国民健康保険を、全市区町村をカバーする地域保険とし、被用者保険ではカバーされない被用者や自営業者、無職者等に適用することで、国民皆保険制度を達成しました。

こうした歴史的な経緯から、現在も複数の制度が存在する形となっています。

3―自分はどの医療保険制度に加入することになるの?

それでは、国民はどの医療保険制度に加入したらよいのか、ということになります。これについては、基礎研レター「医療保険制度には全ての国民が加入しなければならないの?」(2018.3.1)においても説明しましたが、概略、以下の通りとなっています。

1.75歳未満の被用者及びその扶養者は、その使用される事業者に適用される被用者保険に加入する。

2.被用者保険の中で、大企業等の健康保険組合がある適用事業所に使用される者は当該健康保険組合に加入し、公務員、私立学校教職員、船員はそれぞれに適用される共済組合又は船員保険に加入し、それ以外の被用者は協会けんぽに加入する。

3.75歳以上の者は、居住している都道府県広域連合の後期高齢者医療制度に加入する(*4)。

4.以上の各制度の対象にならない者は居住している市区町村の国民健康保険又は国民健康保険組合の国民健康保険に加入する。

(*4) 後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者も対象となります。

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(2018年4月23日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

常務取締役 保険研究部 研究理事