■市場は2015年3月期の業績予想を不安視
2014年3月期の決算発表がピークを迎えている。アベノミクスや日銀の異次元緩和による円安効果もあって、輸出企業を中心に大幅増益を達成することが見込まれる。ただ、これは株価に織り込み済みで、市場の関心は既に約1年後の2015年3月期(今期)に移っている。
今期の業績予想は「1割程度の増益」が市場のコンセンサスだが、ここにきて慎重な見方が増えており、市場には「企業側が発表する今期予想を確認するまで様子見」といったムードもある。
6月に予定される成長戦略の内容は十分か、消費税率を8%に上げたことによる国内景気の腰折れは本当に大丈夫か、GPIF(年金資金管理運用独立行政法人)は日本株への投資比率を引き上げるのか、それはいつ発表されるのか。
海外に目を向ければ、米国の金融緩和縮小(テーパリング)終了とその後の米金利上昇や為替レートへの影響はどうなるのか、中国をはじめとする新興国経済の先行きは大丈夫か、TPP交渉の着地点や今後の日米関係はソフトランディングできるのかなど、今後の企業業績や市場動向を左右する要因には事欠かない。
こうした状況を踏まえれば、「本当に1割の増益が見込めるのか?」と市場が疑心暗鬼になり、企業側の見通しをきちんと確認したいと考えるのも分からなくはない。しかし、仮に現時点で会社側が発表する今期の業績予想が1割増に満たなくても、失望する必要はないと考えている。その理由は次に述べるとおりだ。
■企業自身の予想はホンネよりも慎重になりやすい
図は、東証1部に上場する3月決算の主要企業(約400社)について、企業自身が発表した予想経常利益の合計額を示したものだ。
東証のルールにより3月決算企業は5月中旬までに前期の決算発表を行う。同時に多くの企業が今期の業績予想も公表するが、その後も中間決算を発表する時などに最新の予想値を公表する。当然、期初(5月)時点の予想から増額/減額することがある。
過去10年について企業自身が発表した業績予想の推移を振り返ると、うち7年は最終的に増額された。
特に中間決算の発表タイミングである10月~11月に大きく修正したケースが多い。下方修正はリーマンショックが起きた2008年や東日本大震災に見舞われた2011年など少ない。
こうした増額修正の傾向が見られる理由は経営者の心理で説明できる。
先ほども述べたように、期初の発表後も企業自身が業績予想を公表する場面は何度かある。経営者の心理としては、年度途中に下方修正するよりは上方修正するほうが良いと考えるのが普通だろう。下方修正は株式市場からのネガティブな評価に直結するうえ、自然災害などの理由がなければ経営責任を問われかねない。
企業を取り巻く経営環境は変化が激しくなっており、向こう1年に何が起きるか分からないといっても過言ではない。こうした不確実性が高い中、約1年先の決算見通しを強気に出すのは危険が大きい割に大したメリットが無いと考えるのは自然だろう。むしろリスク要因で割り引いた控えめの業績予想こそが企業側のホンネだろうか。
そうだとすれば、期初の企業予想がコンセンサスより低いからといって失望するのは短絡的かもしれない。特に2014年度は復興特別法人税が1年前倒しで廃止されたことも企業業績を押し上げる要因となるはずだ。
目先の値幅取りを狙う短期志向の投資家はともかく、NISA口座を活用するような中長期の投資家ならば、冒頭で述べたような大きな流れに神経を配りつつ、大局的な見地から市場と向き合うのが賢明ではないか。
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員
(2014年4月24日「研究員の眼」より転載)