「育休3年」の是非を問う前に?(久我尚子)

女性の活躍を推進するための施策として「育休3年」があがっているが、その是非を問う前に、安定した雇用の確保や、女性だけでなく男性も育休を取得しやすい環境の整備など、優先すべき事項があるのではないだろうか。

5月に成長戦略の第一弾として女性の活躍が位置づけられた。現在、女性の活躍を推進するためのいくつかの施策について議論が進められている。その中でも特に「育児休業期間の3年への延長」については注目度が高い印象がある。これまでの様々な報道を眺めると、本当に女性の活躍を支援する施策になっているのかという疑念の声が多いようだ。「変化の激しい現代社会では3年もブランクがあっては復帰が難しいのではないか」「キャリアを望む女性にとって3年は長く、利用する者がいないのではないか」「女性の採用を控える企業が増えるのではないか」「3歳児神話の再来ではないか」...。

女性の第1子出生後の就業継続率は38.0%と非常に低く、女性の社会進出が言われて久しい現在でも出産後に6割の女性が退職する1。そして、子育てが落ち着いてから仕事に復帰する女性が多い。しかし、終身雇用を前提に人材育成をする企業が多い日本社会では、一度キャリアを中断すると再就職は難しく、雇用条件を下げて働くケースが多い。よって、「育休3年」が実現できれば、これらの層の雇用を保障でき、女性が出産後も就業を継続しやすくなる可能性もある。

しかし、この「育休3年」の是非を問う前に、「育休3年」を自分ごととして捉えられる女性はどれくらいいるのかと疑問に思う。

1990年代後半から、長引く景気低迷や労働者派遣法の改正などにより、雇用者のうち非正規雇用者が占める割合は上昇傾向にある。現在、女性では15~24歳の50.6%、25~34歳の40.9%が非正規雇用者として不安定な立場で働いている(図1)。非正規雇用で働く女性の多くは「育休3年」を自分ごととして捉えられないのではないだろうか。

もちろん、正規雇用者だけでなく非正規雇用者も育休を取得することができる。厚生労働省の「育児休業や介護休業をすることができる期間雇用者について」によると、育休を取得するには3つの条件をクリアしていればよい。(1)同一の事業主に引き続き1 年以上雇用されていること、(2)子の1 歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること、(3)子の2 歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないこと。しかし、(1)は明確な事実として提示できるとして、(2)や(3)のように将来の雇用の可能性を問うような条件は、経営に余裕のある企業以外は明示することが難しく、結局、退職せざるを得ない女性が多いのではないだろうか。

雇用形態別に女性の出産後の就業継続率をみると、実際には正規雇用者(52.9%)と非正規雇用者(18.0%)では3倍程度の開きがある1。また、育休取得率をみると、正規雇用者(81.5%)と非正規雇用者(22.2%)では、さらに差は広がる。やはり、非正規雇用者では就業継続が難しいケースが多いのだろう。

一方、比較的、育休が取りやすい正規雇用者でも、出産後は約半数の女性が退職している。この背景には、日本では家事・育児の負担が女性に偏っていることがあるだろう。日本人男性の家事時間は欧米諸国より著しく少なく、6歳未満児のいる家庭で、米国人男性は1日平均3時間13分だが、日本人男性は1時間だ(内閣府「男女共同参画白書 平成24年版」)。日本では子育て世代の男性の労働時間が長いという問題もあるが、女性に家事・育児の負担が偏っていることは事実だ。

「育休3年」は女性の活躍を推進するための施策として提案されている。しかし、非正規雇用という雇用形態であるために、そもそも育休の取得が難しい女性も多い。また、正規雇用者であっても、家事・育児の負担感により退職する女性も多いようだ。

女性の活躍を推進するための施策として「育休3年」があがっているが、その是非を問う前に、安定した雇用の確保や、女性だけでなく男性も育休を取得しやすい環境の整備など、優先すべき事項があるのではないだろうか。

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