2014年は、二つの点で「日本の企業統治改革元年」と言われている。
一点目は、会社法改正に伴う社外取締役導入の実質的な義務化。
二点目が、機関投資家の行動規範となる「日本版スチュワードシップ・コード」の導入である。
同コードについては、投資先企業との対話や議決権の行使を通じて経営改革を促すもので、金融庁によれば、この5月末で127の国内機関投資家が導入した。
これは日本株を保有する機関投資家の大半をカバーするという。法的強制力をもたないコードではあるが、経営監視力を高め、日本企業の活性化と企業価値向上につながることに期待したい。
他方、日本企業の外国人持株比率が上昇している。
1990年代前半には10%に満たなかったが、それから20年を経た今年3月末には約30%となった。国内の個人株主を抜き、金融機関などの機関投資家と肩を並べるに至った。
一口に外国人株主と言っても、短期志向から長期保有までいくつかのタイプがあるが、いずれも手元資金の有効活用や企業統治改革を通じた企業価値向上を求める。特に、議決権のある株式に対する持株比率が高まると、企業経営に関与する「物言う株主」としての存在感が高まる。
外国人株主が増えると、どのような変化が起きるのであろうか。
少し古い話だが、1990年代後半に相次いで発覚した欧米アパレル業界のアジアにおける孫請工場での児童労働と強制労働は、世界中にショックを与えた。これを契機に、欧米の投資家は、投資先企業の雇用差別や長時間労働なども含めた人権侵害を強く意識するようになった。
日本企業は、日本社会特有の人権問題には敏感である。しかし、海外進出や海外調達においては、世界の常識となったこれらの人権・労働問題を、自らの問題とはあまり考えていない。
その無防備さゆえに、近年、途上国・新興国の現地法人や調達先を中心にトラブルが増え、その責任は親会社や発注元まで追及されている。
ここで大事なことは、ISO26000(CSRの国際規格)の「加担の回避」という人権概念の理解である。簡単に言えば、知らないうちに誰かの人権を侵害しているかも知れないので、海外現地法人やサプライチェーンを含めて問題がないかを調べ、必要に応じて対策を講じることである。
そのための手法を「人権デュー・デリジェンス」と言い、CSRの中で日本企業が最も弱いところである。
経済同友会の2011年調査(上場企業)によれば、これを実施している企業は、全体では3割弱にすぎない。しかし、外国人持株比率の高い企業ほど実施率が高くなり、持株比率が50%を超すと、その実施率は100%である。
つまり、外国人持株比率が上昇すると、人権デュー・デリジェンスの実施要求が増える可能性が高い。
企業統治とは、CSRの文脈では、社会的責任を果たすための経営意思決定プロセスであり、透明性や説明責任が問われる。それゆえ、経営者の「知らなかった」や「知っていて行動しなかった」ことは許されず、これに的確に対応できる企業統治の構築が急務である。
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株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部 上席研究員
(2014年7月14日「研究員の眼」より転載)