先日、タブレットで写真を撮っていたときに気づいたことがある。タブレットのディスプレイには見たままの光景が映っているが、「自撮り」のためのカメラモードに切り替えると、そこには左右反転した自分の顔が映っていた。
たまたま横にあった鏡をのぞくと、タブレットと同じ画像が映っていたので、そこで改めてタブレットの自画像が鏡像であることを認識したのだ。
普段、自分の顔は鏡に映った姿を見る機会が多いため、左右反対の鏡像を見ても余り違和感がない。むしろビデオなどに映った自分の顔を見ると、他の人のような気がすることさえある。
タブレットの「自撮り」モードは、カメラの画像データを左右反転させて鏡像をつくっているのだ。われわれはそれを見て、見慣れた鏡像を実際の自画像と思い込んでいるのかもしれない。
先日、もうひとつおもしろいことに気づいた。机の引き出しの片隅から、アメリカの25セント硬貨(クォーター)が出てきた。日本の百円玉よりひと回り大きい白銅貨だが、コインの表と裏のデザインの上下が逆になっているのだ。
日本の硬貨の場合は、表と裏の上下が同じ向きだ。アメリカのコインのような方式を「コインアライメント」、日本のような方式を「メダルアライメント」と言うそうだ。
近年の海外旅行で持ち帰った他のコインも見てみると、ユーロやトルコ・リラ、ロシア・ルーブル、インド・ルピーなど、どれも日本のコインと同じ方式だった。
ただ、モロッコ・ディルハムがアメリカのコインと同様に上下が反転していた。スイス・フランの一部や韓国・ウォン等もコインアライメントだそうだが、その理由や起源についてご存知の方はご教示願いたい。
アメリカのコインには、必ず"In God We Trust"と書かれている。これはさまざまな場面に登場するアメリカのモットーで、アメリカらしさを感じる文言だ。
よく見るとアメリカのコインには、もうひとつ必ず刻まれている言葉がある。"E PLURIBUS UNUM"(エ・プルリブス・ウヌム)というラテン語で、意味は「多数からひとつへ」というアメリカ合衆国建国の理念を表した言葉だ。
先日発足したアメリカ・トランプ新政権は、移民の排斥や保護主義に傾いている。アメリカのコインに刻まれた建国の理念はどうなったのだろうか。
行き過ぎた自国第一主義は、「自撮り」モードの自分の鏡像を客観的自画像と取り違える危うさをはらんでいるように思えてならない。
イギリスが離脱を表明したEUも、創設の理念は"Unity in Diversity"(多様性の中の統合)だ。
21世紀はグローバル化の進展が国民国家の分断を招き、基本的価値観の共有さえも揺るがす時代なのかもしれない。
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(2017年1月24日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員