介護報酬引き下げの次は利用者負担増

自分の将来の介護は国に任せきりにしないという自立自助の意識を高めることは国にとってマイナスではないはずです。
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政府は、介護報酬の引下げ幅を2.27%で最終調整に入ったとのことです。過去最大の下げ幅になった2006年度より下げ幅は小さいものの、事業者にとっては厳しい数字であることに違いはありません。実際事業の運営側だけでなく、介護事業に従事している職員の方も今後の行く末を心配していることと思います。

一方で、今回の議論の中で介護報酬の引下げは利用者負担の軽減にも繋がるという議論がありました。確かに、介護報酬を1%下げると約1,000億円の節減になると計算されていますが、うち利用者負担は70億円軽減されるという計算になっています。

しかし、昨年6月に成立した医療・介護総合推進法では、今年から利用者の費用負担について単身者の場合で280万円以上、夫婦で359万円以上の所得のある人は利用負担が現行の1割から2割に引き上げられることが既に決まっています。65歳以上の高齢者の2割がこの所得枠に当てはまることになりますが、上記の年収区分は法律ではなく政令で決めることが出来るため、今後厚生労働省は法律を改正するという困難な作業を経なくても、所得基準を操作することによって利用者負担を上げることが可能となりました。

つまり、厚労省は理論上2割までの利用者負担増の権限を得たと言えます(もっとも、高額介護サービス費支給制度によって利用負担の上限が設けられるため、必ずしも負担割合が2割とはならない場合もあります)。

さらに、特別養護老人ホームの入所資格も厳格化され、現在は要介護1から入所する資格がありますが、これからはより介護の必要性の高い「要介護3」以上に限定されることになります。重症にならないと入れないため、特養へのハードルをかなり上げることになるでしょう。

私は、今後も消費税を上げるなどの税負担の増加が中々困難な中で、介護そのものが報酬も減り、負担も上がりとジリ貧の方向で膨張に対応しようとすることは前向きな方向ではないと思っています。社会保障費の効率化の要請は強い一方で、介護ニーズはどんどん高まってくることから、私は公的保険外の自由サービスの範囲の規制を緩める必要があるのではないかと考えています。もちろんサービスの品質や提供事業者の質に国が監視の目を光らせることは必要です。

しかし、現状は介護保険の保険外サービスは、ガイドライン上あくまでも公的保険対象外のサービスに対してしか行うことが出来ません。従って、今の基準では、たとえば特養に要介護3以上の人しか入れなくなった後で、要介護1の方が「自費で費用を払ってでも良いから入れて欲しい」というニーズに答えることは出来ません。

特養を運営する社会福祉法人は非営利が基本ですから、サービスの自由提供を行って利益を上げることは法律上もできないのですが、介護に関しては必ずしも医療の混合診療の是非のような議論と同じにせず、このような規制を多少なりとお緩和すべきではないかと思います。また、費用が高額になることを防ぐために、民間の介護保険が整備されることによって、自分の将来の介護は国に任せきりにしないという自立自助の意識を高めることは国にとってマイナスではないはずです。

もちろん様々な問題や論点は生じますが、今の介護保険制度のままでは、急速に進む高齢化と介護ニーズの増加に対応出来ず、介護事業者が「角を矯めて牛を殺す」ように追い込まれていくという懸念が大変強く残ります。

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