「3331アーツ千代田」という奇妙な空間がある。ぼくは何度か行ったことがあるのだが、いまだにどういう趣旨でできた施設でどう運営されているのかわかっていない。
行ってみると学校を改造してできた建物が何食わぬ顔で建っている。それは公園のようでもありオフィスビルのようでもあり公民館のようでもありやっぱり学校みたいだ。でも気軽に人びとが出入りしており、のんびり日向ぼっこをしたり中のスペースで弁当を食べてくつろいだりしている。そんな風に、大した用もなく気まぐれで入っていいらしい。
その3331ではArtsFieldTokyoと題したレクチャーを開催しているそうだ。"そうだ"と書いているのはぼくもまったく知らなかったのだが、コピーライター仲間の後藤国弘が電話してきてそう教えてくれたからだ。「それでな、そのレクチャーをおれにやってくれって言われたんだけど、もっと適任がいるって境のことを紹介したら面白そうだって言ってくれたからさあ、連絡いくと思うからよろしくな、じゃあな!」と勝手に告げて勝手に切ってしまった。
さっぱりわからなかったが、AFTの担当者、小田嶋暁子さんがやって来て言うには、もともと"アート"に絞って様々な方々に講義をお願いしてきたが、今年はもっと広げてみようとなって多様な方にお声がけしている。後藤さんに聞いたがあなたはブログとソーシャルメディアで多様な活動をしているそうではないか。その手法やノウハウを講義してくれまいか、とのことだった。
日頃はテレビ局など業界相手に今後のメディアはどうなるのでどう考えればいいか、というレクチャーはよくやっている。でも専門はそういう、いわゆるテレビとネットの融合なのでちょっと戸惑った。でも最近はなぜか子育てと社会についても人前で話したりしているので、専門も何もあったもんじゃないが。
そうですねえ・・・と小田嶋さんにそもそも自分がブログを書いてソーシャルメディアで人とつながった経緯などを話しているうちに、それいいです、それをレクチャーしてください、ということになったのだった。
実際ときどき、ソーシャルメディアを頑張っているのですがなかなかプロモーションにつながらなくて、と相談されることがある。そんな時言うのは、大事なのはメッセージなんですよ、ということだ。
ツイッターが普及しはじめた時、面白いツイートの語り手が話題になり、言い方ひとつでフォロワーが増えて見知らぬ人びとに拡散されるのだ、と言われていた。確かに、非常に人間味あふれるツイートを、当意即妙に繰り出す一部のアカウントが話題になったしフォロワー数を増やしていった。だがそれはかなり特殊な事例だとぼくはとらえている。
ソーシャルメディアの使い方の本質は、佐々木俊尚氏のいわゆる"朝キュレ"だと思う。佐々木氏は毎朝8時に、その日の気になる情報をURL込みでツイートするのだ。もちろん佐々木氏なりの視点がコメントとして添えられていてそれ自体もコンテンツだと言えるのは言える。でもそこでのポイントは、"コンテンツをキュレーションしている"ことだ。
実はぼくのブログが見知らぬ人たちに読まれるようになったきっかけも、佐々木氏の"朝キュレ"にひっかかったからだ。当時は制作会社に所属していて、会社の同僚たちや業界仲間向けのつもりで、今後の制作業界がどうなっていくかを発信していた。その中には、テレビは今後徐々にメディアパワーを失うだろうという要素もあった。そんな生意気なこと、制作会社ごときが言いやがってと目をつけられては会社に迷惑がかかるので、こっそり書いていたのだ。だから一日50人程度のアクセス数だった。
ところがある日、アクセス数が2000に跳ね上がっていて慌てた。何が起こったか調べまくってたどり着いたのが、佐々木氏のツイートだった。当時はツイッターがよくわかってなかったので、その威力を思い知った。
この一件以来、徐々に読者が増えていった。また開き直ってブログで実名をさらし、ツイッターと連携もさせた。ブログを書くたび「書きましたー!」とつぶやくと、読んだ人が「今日の面白かったですー!」とRTしてくれる。「ありがとうございます!」と返す。中には「今度ぜひお会いしたいです!」なんて人もいるので社交辞令的に「機会あればぜひ!」と返すと、脇から「私も参加したいです!」「じゃあ私も!」と言いだす人もいて引っ込みがつかなくなり本当にお会いするケースも出てきた。
そんな風にソーシャルメディア上で、その延長でリアルでもつながる人たちと、ゆるやか〜なグループが形成されていった。そこから勉強会を開催するようになり、ブログを本にまとめることになり、そうすると業界誌から原稿の依頼が来たりレクチャーをしてくれと頼まれたりという具合につながっていったのだ。
そして今度は「赤ちゃんにきびしい国で・・・」というブログを書いたらそっち方面にまた出会いができていくのだが、いずれにせよ大事なのはメッセージなのだと思う。
漠然と思うところを書いているだけでは、広がらなかっただろう。「テレビとネットが結びつくと面白くなる」漠然とそんなメッセージが底流に流れていた。だから「おれもそう思ってる」人びとと"つながった"のだ。毎日てんでバラバラのことを書いていたのでは、つながらない。点が線にならない。その時々で話題になっている出来事を題材に書けば、その日その日のPV数は稼げるかもしれない。でも見知らぬ人と"つながり"は持てないだろう。ああ、この人、おれと同じこと考えてる、おれが言いたいことを言葉にしてくれている。だからまた読んでくれるし、"仲間"になる。
メッセージがコミュニティをつくるんだな。小田嶋さんに聞かれて考えてみたら気づいたのだけど、そうなのだ。
そしてコミュニティが形成されると、そのコミュニティがさらに発信力を持つ。実際ぼくも勉強会を開催し、オープンなセミナーイベントを開くようになった。コミュニティはまた大きくなり、噂を聞いて参加したいと申し出てくる人も増える。
こう振り返ってみると、さっきのツイートの魅力が本質ではない、ということもわかってくると思う。ブログで定期的に一定のメッセージを発信することがいちばん大事で、ツイッターやフェイスブックはそれをお知らせするツールなのだ。もちろん面白かったり人間味あふれる投稿をするに越したことはないが、べつにそうでなければならないわけではない。むしろ、誠実さや礼儀のほうがむしろ大事で、あまりそこで面白がらせる必要はないのだ。
というわけで、ここに書いたようなことをもっと立体的に、こってりお話しようと思う。だから、実際にソーシャルメディアなどネットを通じて何か告知したい人にはなんらか役に立ててもらえるつもりだ。美術館やイベントスペースで催しを告知している人、企業のソーシャルコミュニケーションを担当している人、そして、個人でもっと自分の活動を広めたい人などに来てもらえるといいのではないかな。
6月4日19時から、3331のB1で開催されるので、ぜひおいでを。申し込みはこちら↓
ちなみに、ぼくに押し付けたコピーライター後藤国弘も一カ月後に、アートディレクター福島治氏と講義することになったそうだ。なんだよ、人に振っといて。
最後に、3331アーツ千代田のコンセプト映像も紹介しておこう。この映像にも、メッセージがある。3331自体がそもそも、メッセージからコミュニティをつくるための場所だとも言える。
ではみなさん、よかったら6月4日、3331でお会いしましょう!
コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
sakaiosamu62@gmail.com