ジェンダー不平等とは
国際NGOプラン・インターナショナルは、Because I am a Girlキャンペーンを通じて途上国のジェンダー不平等の是正を訴えています。ところでジェンダー不平等とは何か。言葉は聞いたことがあっても、中身については良く知らない方が多いのではないでしょうか。
私も以前はそうでした。カンボジアでJICAの技術協力の仕事をしていた2001年、ジェンダー対策の長期専門家(女性)が初めて着任されたのですが、当時周りの声は、「ジェンダー対策って何をするの?」、「(よく知られていないテーマなのに)まだ早いんじゃない?」というものがほとんどでした。
途上国の問題になじみのない一般男性であればなおさらでしょう。仮に知っていても自分事として受け止められないか、昭和のお父さんたちであれば昔の女性解放運動を思い浮かべ、腰が引けてしまうのではないでしょうか。プランをご支援くださっているのは圧倒的に女性が多いのも、こんなところに理由があるのかもしれません。
女の子のエンパワーメントをすすめるサッカープロジェクト(ホンジュラス)
さて、ジェンダー平等とは何か。それは、すべての女性、男性が社会で同じ地位や権利を享受し、同様の尊敬を受け、人生を自分自身で選ぶことができ、選んだ人生を実現するために必要な力を得ることです。
先進国では結婚だけが女性の人生ではなく、自立して高度な自己実現を目指す舞台は全世界にまで広がります。一方、途上国ではジェンダー不平等によって女の子や女性の権利が侵害されています。
将来家計を背負うことが期待されている男の子は栄養のある食べ物が与えられ、学校に通うことができ、ほとんど家事に関わらない一方、女の子は女子教育への無理解、重い家事や児童労働、早すぎる結婚(→早すぎる妊娠、出産)などの慣習によって教育を受ける機会を奪われ、地域社会という狭い世界の中で、ほとんど家事育児だけで一生を終えるのが一般的です。
プランがすすめるジェンダー平等
では、途上国で目指すべきジェンダー平等とは何か。それは、女の子や女性が、いつでも、どこでも自分自身を自由に表現でき、経済的に自立でき、結婚や出産の時期を自分で決めることができ、家事育児で家族のサポート受けることができ、家庭内の意思決定に参加できるという、本来すべての人がもっている権利を行使できる世界の実現です。
女の子たちが生きていくために必要な力を得るためのカギは女子教育の推進です。教育を受けた女の子は読み書きや計算ができるようになり、将来収入の安定した職業に就くことや小規模事業を始めることが可能になり、その結果、生まれてくる子どもにも教育を受けさせることができます。
一人の女の子への支援は、その家族や地域住民の健康や生産性の向上にもつながります。例えば、「読み書きのできる母親の子どもが5歳以上生き延びる確率が50%あがる」(ユネスコ、2011年)」、「女の子が1年長く中学校に通うと、将来得る収入が20%アップする」(世界銀行、2011年)という推計もあります。女の子は正に貧困の負の連鎖を断ち切ることができるキーパーソンなのです。
プランでは、ジェンダー平等の実現に不可欠な女の子や女性のエンパワーメント(自尊心を持ち、リーダーシップや公の場で自らを表現する方法や自信を身につけ、自らの権利や意見を積極的に発信できるようになること)をすすめています。
しかし、そのためには男性の理解と協力が欠かせません。プランの地域開発プロジェクトには男性の参加をその要素として組み入れており、伝統的な男女の役割の違いやその長所・短所、女性の権利などを学ぶところから始め、男性の意識と行動を徐々に変えていきます。
最初は難色を示していた男性たちもプロジェクトがすすむにつれて妻の話に耳を傾けるようになったり、産前健診に付き添うようになったり、家事育児に協力的になるなど、変化をもたらした事例は数多くあります。
妻の産前健診に付き添う夫(ザンビア)
産前健診やHIV検査の受診をサポートする男性グループ(カメルーン)
途上国のジェンダー平等についてご理解と共感をいただける部分もあるのではないでしょうか。男性の皆さんもジェンダー不平等問題に関心を持ち、ぜひ途上国の女の子や女性の権利保護のためにご支援ください。
内山 雄太 プラン・インターナショナル コミュニケーション部アドボカシーオフィサー
途上国開発専門家(国際保健、薬剤管理)、薬剤師、プラン・インターナショナル コミュニケーション部アドボカシーオフィサー
1962年、兵庫県生まれ。製薬会社に約12年間勤務後、途上国開発にキャリアチェンジのため退職。1998年よりボストン大学公衆衛生大学院で学び、公衆衛生学修士号(Master of Public Health)取得。2000年よりJICA技術協力専門家、WHO技官としてカンボジア、パキスタン、ジンバブエなどで結核対策、母子保健対策、HIV母子感染予防対策の技術指導、薬剤管理ガイドラインの策定、途上国への抗結核薬の供給などに従事。2010年より現職。著書『Operational Guide on the Management of Anti-tuberculosis Drugs』(Ministry of Health, Pakistan)、共著『Operational Guide for National Tuberculosis Control Programmes on the Introduction and Use of Fixed-dose Combination Drugs』(WHO)、論文『An assessment survey of anti-tuberculosis drug management in Cambodia 』(International Journal of Tuberculosis and Lung Disease)など。