HIV感染予防対策がエイズ流行終結の鍵

住民がHIVとエイズについてよく知り、態度と行動の変容につながる啓発教育を普及させることが重要です。そして...

HIV/エイズ対策の進歩

HIV/エイズに関する最新の統計によると、世界で抗HIV治療を受けている人はこの5年間で750万人から1700万人と倍以上に増えました(国連合同エイズ計画、UNAIDS 2016)。この飛躍的な伸びは国際社会の努力によって抗HIV薬の供給量が増えたことも関係しています。エイズ関連の病気で死亡したケースは、今世紀のピーク時の200万人(2003~2006年)から110万人に半減しています。

減らない新規感染者数

一方で、HIV新規感染者数はこの15年間で310万人から210万人まで減ったものの、直近の5年間では10万人しか減っておらず、成人では190万人のまま減少が止まっています。サハラ以南のアフリカの状況は特に深刻で、HIV陽性者は全陽性者3670万人の約7割、全新規感染者数の約3分の2がこの地域に集中しており(WHO 2016)、対策が遅れています。

女の子と女性の健康管理を訴える看板(ウガンダ)

また、抗HIV治療を受けている1700万人は全陽性者の46%に過ぎません。これは抗HIV薬がまだまだ足りていないということでもあります。その原因として、以下があげられます。

•当事国および国際社会の医薬品の調達予算不足

•医薬品の特許権と価格を守ることで開発に投資した資金を回収し利益を確保したいと考える製薬会社

•医薬品が医療機関や患者に届かない・患者が医薬品を売ってしまうなどの薬剤管理システムの不備

これらは当事国の保健システムの強化とあわせ、短期的に解決できる問題ではありません。

さらに、HIV陽性者の半分弱が自らの感染を知らないと推定されていることもあり(WHO 2016)、今後HIV検査の拡大に伴って陽性者が激増し、抗HIV薬不足がさらに深刻化すると考えられます。

感染予防対策の推進が重要

抗HIV薬が不足しているのであれば、HIV感染者を増やさないことが重要になります。感染予防対策に力を入れることが求められるのです。注射器具の滅菌、母子感染予防対策、意識啓発などに力を入れる必要があります。

HIVとエイズの予防を学ぶ若者たち(カンボジア)

特に住民がHIVとエイズについてよく知り、態度と行動の変容につながる啓発教育を普及させることが重要です。学校では、思春期の生徒に向けた保健教育の不足により、避妊の知識や手段が普及しないまま男女間で性交渉が広がり、HIV感染や望まない若年妊娠につながっています。

「性と生殖に関する健康と権利」に関する教育の推進は不可欠です。

ジンバブエにおけるプラン・インターナショナルの取り組み

アフリカ南部のジンバブエは、たとえばHIVとともに生きる人々約160万人、若者(15~24歳)のHIV感染率5.9%(女性は7%)など、多くのHIV/エイズ指標が世界で5番目以内にランクされるという深刻な状況にあります(世界子供白書2016、ユニセフ)。

プラン・インターナショナルは、プラン・マンスリー・サポーター支援で取り組む社会問題のテーマのひとつである「HIVとエイズ」で、2016年10月より「若年層を中心とした感染予防と差別のない地域づくり」プロジェクトをジンバブエ中部で開始しました。

HIVを含む性感染症の予防に必要な情報にアクセスしにくい15~24歳の若者を対象に、意識啓発のイベント、フォーラム、スポーツ大会、感染症について学べる情報センターの設置などを通じて、HIVとエイズに関する正しい知識や自分の健康を守るための方法を学ぶ機会を提供し、感染予防の促進と偏見なく感染者を受け入れる地域づくりを目指しています。

詩の朗読で意識啓発を行う若者グループ(ジンバブエ)

伝統的なダンスと歌でHIV感染の予防を訴える子どもたち(ジンバブエ)

スポーツ大会でHIV/エイズ対策の重要性を訴える女子サッカーチーム(ジンバブエ)

UNAIDSは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に不可欠なターゲットとして、「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行を2030年までに終結する」ことを目指しています。HIV/エイズ対策でクローズアップされがちなのは数値目標の達成度で、意識啓発ではありません。

しかし、この地道な活動を継続していくことが新規感染者数の減少とエイズ流行の終結につながるのです。意識啓発を推進し続けるプラン・マンスリー・サポーターをぜひご支援ください。

内山 雄太 プラン・インターナショナル コミュニケーション部アドボカシーオフィサー

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途上国開発専門家(国際保健、薬剤管理)、薬剤師、プラン・インターナショナル コミュニケーション部アドボカシーオフィサー

1962年、兵庫県生まれ。製薬会社に約12年間勤務後、途上国開発にキャリアチェンジのため退職。1998年よりボストン大学公衆衛生大学院で学び、公衆衛生学修士号(Master of Public Health)取得。2000年よりJICA技術協力専門家、WHO技官としてカンボジア、パキスタン、ジンバブエなどで結核対策、母子保健対策、HIV母子感染予防対策の技術指導、薬剤管理ガイドラインの策定、途上国への抗結核薬の供給などに従事。2010年より現職。著書『Operational Guide on the Management of Anti-tuberculosis Drugs』(Ministry of Health, Pakistan)、共著『Operational Guide for National Tuberculosis Control Programmes on the Introduction and Use of Fixed-dose Combination Drugs』(WHO)、論文『An assessment survey of anti-tuberculosis drug management in Cambodia 』(International Journal of Tuberculosis and Lung Disease)など。

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