熊本は復旧さえ道半ば、組合の支援現場からみたこの1年【熊本地震】

現地の声を届けるとともに「風化させてはいけない」ことをあらためて訴えたい。

熊本県を中心とする九州地震の発生から1年。一体いつまで続くのかと思われた余震も減り、全国版のニュースで見聞きする機会も減った。そんな熊本は今どんな状況なのか、現地を訪ねた。

市内中心部は復興に向けた歩みを感じるものの、熊本のシンボルである熊本城の崩壊は痛ましく、元の姿に戻るまでの道のりの険しさを感じた。まして震源地の益城にいたっては、言葉を失う状況だ。

段差の残る道路、解体中の住宅や瓦礫の山、「危険」の赤い紙が貼られたままの住宅がいたるところに残されている。倒壊したままの住宅はまるで地震直後で時が止まっているようで、とても"復興"といえる状況ではない。"復旧"さえ道半ばだ。

(今でも稼働している益城町のボランティアセンター)

連合は、多くの組合員の協力を得て連合救援ボランティア派遣や、連合「緊急カンパ」を熊本県に寄付するなど様々な取り組みを行ってきた。そのため、組合員にも熊本の状況を心配する声が多い。今回は現地の声を届けるとともに「風化させてはいけない」ことをあらためて訴えたい。

全国からのボランティアや義捐金の寄付

震災直後の4月から連合の地方組織である連合熊本の各地域協議会がボランティア支援を開始。延べ120人が益城町社会福祉協議会のボランティアセンター(井関農機熊本製造所内)で活動した。5月からは全国の連合の仲間が救援ボランティアとして結集、約2カ月にわたる活動を行った。

(神戸から届いた寄せ書き)

また、全国の組合員などから連合に寄せられた「緊急カンパ」の2億847万円を、全額「被災者に直接届けられる義援金」として熊本県に寄付した。

(義援金目録を蒲島熊本県知事(右)に手渡す連合神津会長)

連合熊本から、この1年を振り返って

上田 淳 連合熊本会長

復旧・復興は、道半ばだ。特に交通インフラの復旧は時間がかかっており、工事用車両が行き交う道路では慢性的な渋滞が起きている。被災した人たちの住宅・生活再建も簡単ではない。約20万件の罹災証明申請が出されているが、いまだ7000件近くが未交付だ。解体や建築業者も圧倒的に足りない。人手不足から作業が進まない実態がある。住宅建替の補助はあるが、新たに住宅ローンを組むのが困難な人もいる。

また、連合熊本に寄せられた支援金の使い道の議論も始めているところだが、働く人の拠り所としての労働会館再建のほか、進学支援や児童施設再建など、子どもや若者のために使いたいという気持ちを強く持っている。

悔やまれるのは、やはり災害への備えが不十分であったことだ。

「熊本に大地震は起きない」という思い込みがあった。ボランティアプロジェクトは立ち上がっていたが、具体的な議論はできていなかった。事務所が被災して使えなくなっただけでなく、緊急時連絡体制を確立していなかったために情報の共有が遅れた。

そこであらためて災害への備えをしようと、「災害時対応マニュアル」の策定をスタートさせたところだ。私たちの教訓を連合の皆さんと共有し、防災ネットワークの強化にもつなげられたらと思っている。

この1年を振り返って、連合の仲間の皆さんには本当に感謝している。発災直後、九州ブロックからはただちに救援物資が届いた。

5月初旬にはボランティア派遣がスタートし、連合・愛のカンパや全国からの義援金は総額2億円を超えた。連合という組織の強み、ネットワークの頼もしさに、連合の一員で良かったと心から思っている。

連合本部の政策要請、教訓は「行政機能の維持・継続」

内藤 靖博 連合経済政策局長

連合は、ボランティア派遣や義援金に取り組むと同時に、働く者・生活者の視点から、被災地のニーズを逐次把握し政府・政党への政策要請を行ってきた。

(内閣府への要請 中央:内閣府加藤政策統括官 右隣:連合逢見事務局長)

まず、発災から1カ月目に構成組織へのアンケート調査を実施。

ライフラインの早期復旧のほか、避難所における女性スタッフ配置やLGBTへの配慮、子どもたちのケアを求める声などが寄せられ、それを踏まえ、6月に内閣府への政策要請を行った。3カ月目もアンケートを実施したが、新たなニーズは上がってこない。

そこで6カ月目の昨年9月に現地ヒアリング調査を実施した。

やはり現地に入ると状況がよくわかる。応急仮設住宅や、みなし仮設住宅への入居が進み、メンタルケア対策も実施されていた。観光業では「九州ふっこう割」などの政策が一定の効果を上げていた。

一方で、阿蘇周辺など交通の本格復旧が難航している地域では人口流出が起きていた。被災住宅(全壊8189棟、半壊2万9567棟)の解体作業進捗率はわずか数%。背景には深刻な人手不足があり、労働災害の多発も懸念される状況にあった。

また、BCP(事業継続計画)や福祉避難所との事前協議など、地震に対する備えが不足していたとの声が多く聞かれた。

市庁舎をはじめ複数の公共施設が使用不能となり、行政の機能不全が発生したからだ。政策要請には「災害対応拠点や避難所となる自治体庁舎、病院、学校などの耐震化を徹底する」ことを盛り込んだ。

1年を迎えるにあたって再び現地ヒアリング調査を実施する。政策の進捗と新たな課題を把握し、「2018−2019年度 政策・制度 要求と提言」に反映していきたい。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年4月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。

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