「底上げ・底支え」「格差是正」でクラシノソコアゲを実現しよう!

春闘の歴史において、初めての新しい動きとなった。

10月31日、11月1日の両日、連合2017春季生活闘争中央討論集会を開催した。2016春闘の総括を踏まえ、「経済の自律的成長」「包摂的な社会の構築」「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現」をめざす「基本構想」を提起し、3つの分科会と全体会での活発な討議が行われた。

2017春闘の位置づけ 「賃上げ」の新たな動きを継続する

来たる2017春季生活闘争(春闘)の意義は何か。

主催者代表挨拶に立った神津会長は、「2016春闘では『底上げ春闘』を掲げ、『大手追従・大手準拠からの脱却』『サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配』という新基軸を打ち出した。この方針を共有し、それぞれの立場で歩みを揃えた取り組みがなされた結果、物価上昇がゼロに近しい状態でありながら賃上げを達成し、大手と中小の賃上げ率の差を圧縮した。これは、長い春闘の歴史に照らしてもまったく新しい動きだ。2017春闘では、なんとしてもこの動きを継続し、深掘りをしていくことが必要だ」と投げかけた。

闘争のポイントについては、「1つは、働く者一人ひとりの視点に立ち、それぞれの思いをどうつなげていくか。労働力不足が顕在化する中で、働く人の多様なニーズに対応できる働き方や公正な処遇を整備しなければならない。そして、今日より明日が良くなる、賃金は上がっていくのが当たり前だという確信を取り戻していく。そのためには、職場を最もよく知る労使が知恵を出し合うことが重要であり、その集積こそ春闘だ」

「2つめは、マクロの視点でいかに日本経済を自律的な成長軌道に乗せていくか。今、賃上げの流れが断ち切られてしまえば、デフレに逆戻りしてしまう。3つめに、こうした考え方をどう日本全体に広げていくか。今まで以上に『開かれた春闘』をめざしていかなければならない。経団連、全国中小企業団体中央会、中小企業家同友会全国協議会などの経営者団体との意見交換を密にし、ともに取り組めるテーマは取り組む。同様に、各地域において地元のステークホルダーと対話し認識を共有する『地域フォーラム』を全都道府県で開催していきたい」と提起し、「働く者・国民が将来への希望と確信を持てるよう、『底上げ・底支え』『格差是正』を通じて、構造的問題の解決をはかる牽引役を果たしていく。これは、われわれ労働組合にしかできないということを、互いに胸に叩き込みながら、2017春闘に臨んでいきたい」と訴えた。

基本構想提案 ~経済の自律的成長、包摂的な社会の構築へ~

基本構想の提案は、逢見事務局長から。

情勢について「超少子高齢化・人口減少という経済社会の構造変化、技術革新の加速化への対応という観点から、『経済の自律的成長』『包摂的な社会の構築』『ディーセント・ワークの実現』が求められている。もはや『代わりの人はいくらでもいる』という経営は成り立たない。働く人が付加価値を生み出し、それに見合った公正な処遇を得られる働き方を実現していかなければならない」との認識を示し、「2016闘争で掲げた『大手追従・準拠からの脱却』『サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配』を通じて『底上げ・底支え』『格差是正』の流れを継続・定着させる取り組みを進めていく。

また賃金決定メカニズムとしての春闘の重要性を再認識し、社会に拡がりを持った運動としていくために、地域フォーラムの充実や職場と一体となって推進する『クラシノソコアゲ応援団! RENGOキャンペーン』による世論形成にもいっそう力を入れていく」と提起した。

具体的な要求については「2%程度を基準とし、賃金カーブ維持分を含め4%程度。中小共闘の賃金引き上げの目標の目安は1万500円、非正規労働者については『誰もが時給1000円』の実現をめざす。格差是正に向けて賃金水準の絶対値にこだわった運動を進めていきたい」とし、闘争の進め方については「重層的かつ総がかりの共闘体制を構築する。春闘を通じて未組織労働者への働きかけも積極的に行い、1000万連合の実現に寄与する取り組みを進めていきたい」と投げかけた。

分科会と全体会議~活発な意見交換で認識を共有~

基本構想を受け、3つの分科会に分かれて討議が行われた。

第1分科会(座長・相原康伸副会長)のテーマは「2017春闘基本構想全般について」。これまで掲げられてきた「経済の好循環」ではなく「経済の自律的成長」をめざすとしたのはなぜか、「サプライチェーン全体の付加価値分配」は具体的にどう進めればいいのか、「クラシノソコアゲ応援団! RENGOキャンペーン」と連動した運動をどう展開するのか、非正規労働者や未組織労働者への組織戦略の方針化などについて意見が交わされた。

第2分科会(座長・野田三七生副会長)のテーマは、「政策・制度実現に向けた取り組みについて」。企業内の労働条件改善と政策・制度要求の実現を同時に進めることで、すべての働く者の総合生活改善をはかるという視点を共有し、具体的な課題として、短時間労働者の社会保険適用拡大、企業年金制度の普及・拡充、子どもの貧困と教育格差の解消、子ども・子育て支援制度、税による所得再分配機能、中小企業の公正取引の確立などについて議論を深めた。

第3分科会(座長・岸本薫副会長)のテーマは、「ワークルールの取り組みについて―全員参加型のワーク・ライフ・バランス社会の実現に向けて―」で、ワークルール、ワーク・ライフ・バランス、女性活躍、男女平等の取り組みなどを取り上げた。均等待遇、改正派遣法への対応、高齢者雇用について意見が出されたほか、有期労働者の無期転換について「回避を目的とする不当な雇い止めの動きが出ており、実態調査や対応方針が必要でないか」との提起があった。また、長時間労働の是正、不妊治療への支援などについて活発な意見交換が行われた。

全体会議では、自治労、JAM、労供労連、航空連合から、基本構想を補強する意見が出された。連合の2017春闘方針は、討論集会の討議を踏まえ、11月25日の中央委員会で決定される。

2016春闘の総括と2017春闘に向けた考え方 経済の自律的成長へ春闘の新たな流れを確かなものに

2016春闘では、「底上げ・底支え」「格差是正」への「今までにない新たな動き」が生まれた。今季はそれを本流にしていく重要な取り組みになるという。2016春闘をどう総括したのか。2017春闘に向けた考え方のポイントは何か。須田孝連合総合労働局長に聞いた。

──2016春闘の総括は?

2016春闘では、「デフレからの脱却」と「経済の好循環実現」に向けて、すべての働く者の「底上げ・底支え」「格差是正」をめざした。その新たなアプローチとして、「サプライチェーンにおける付加価値の適正分配」「公正競争・公正取引」の実現を重視するとともに、中小組合に対して「大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動」への挑戦を呼びかけた。

交渉環境は、政府の金融政策が行き詰まりを見せる中、円高・株安が進行し、非常に厳しいものとなった。しかし、方針に基づく粘り強い交渉の結果、3年連続で月例賃金の改善を成し遂げることができた。平均賃金方式で要求・交渉した組合の妥結結果は、5779円・2.0%。300人未満の中小組合の回答は4340円・1.81%で、連合全体の賃上げ率との乖離を縮小することができた。非正規労働者の賃上げ(単純平均)は、時給16.71・月給3319円で、いずれも前年を上回った。賃上げの対象となった非正規組合員数も約10万人増加した。この成果は地域別最低賃金改定の目安審議や金額審議で労働側の主張の根拠となるなど、社会全体の底上げにつながったと評価できる。

格差是正への大きな一歩

──「新しい動き」というのは?

「春闘」は、1955年に発足した単産共闘が始まりだ。「暗い夜道もみんなでお手々つないで進めばこわくない」と言われたように、企業別組合の交渉力不足をカバーするものとして機能し、高度成長期には、過年度の物価上昇率を一つの要求基準として右肩上がりの「賃上げ」を実現してきた。しかし、それは1973年のオイルショックで転換を迫られる。

1974年の物価上昇率は27%、賃上げ率は約33%。1975春闘では、ハイパーインフレの中で低成長をどう回避するかという難問が突きつけられ、労働組合はインフレ抑制のために経済との整合性を考慮した賃金闘争を組むという選択をした。そして1980年代以降は、産業や企業、雇用情勢を踏まえた賃金要求を行い、デフレが深刻化していく2000年代には、「賃上げ」か「雇用」かという二者択一を強いられる中で雇用の安定を優先してきた。

そういう流れを経て、「デフレからの脱却」という大きな課題に取り組む2014春闘を迎えた。国民の所得が増え、消費が拡大することで、企業も成長するという経済の好循環を実現する。政労使でもこれに合意し、この3年間取り組んできた。インフレ前提の春闘では、過年度の物価上昇率が大きな要求根拠だったが、2016春闘は物価上昇がほぼゼロという環境条件にありながら、ベースアップを含む2%の賃上げを達成し、大手・中小の格差を圧縮した。非正規組合員の時給引き上げ率も、正規組合員のそれを上回る結果を得た。

まさに春闘の歴史において、初めての新しい動きとなった。

成熟した経済社会の目標

──2017春闘では「経済の好循環」ではなく「経済の自律的成長」をめざすと...。

「経済の好循環実現」を掲げたこの3年で、雇用者報酬総額は増えたが、その内訳をみると、依然として正社員と非正規労働者の格差は大きく、社会保障関係費の負担増で手取り額が増えていない。

この現状を踏まえ、2017春闘基本構想では、「経済の好循環実現」とはせず「経済の自律的成長」「包摂的な社会の構築」「ディーセント・ワークの実現」をめざすとした。企業の状況をみると、内部留保が増え、労働分配率が下がり、設備投資も増えていない。「人口減少社会で内需が減るのだから、設備投資してもしょうがない」と思っているのだとすれば、そのマインドを変えなくてはいけない。そこで経営側に自覚を促す意味でも、受け身的な「好循環」ではなく、「自律的成長」を目標とすべきだと考えた。成熟した経済社会において、いかに付加価値を生み出し、自律的な成長を実現していくか。そのことにもっと危機感をもつべきではないか。そういうメッセージを込めたものだ。

──2017春闘に向けた考え方のポイントは?

賃金・労働条件の改善が進まない一つの要因は、日本の企業内労働組合が「わが企業」の経営への影響を心配しすぎるからだろう。しかし、すでに労働条件の悪い産業・企業から、条件の良い産業・企業に人が流れ始めている。魅力ある産業・企業にするにはどうすればいいのか、労使で真剣に考えてほしい。その時に重要な視点が、「大手追従・準拠からの脱却」であり、「サプライチェーン全体の付加価値分配」だ。生み出した付加価値が、生み出した人にきちんと還元される社会全体の仕組みをつくっていかなければ、格差の是正はできない。

政府内からは、連合の「2%程度」という要求基準は低すぎるとの意見も出ているが、「2%程度を基準とし、定期昇給相当分を含めて4%程度」という意味だ。構成組織で到達目標を設定し、その目標に対し現状はどうなのかを把握し、その差を埋めていく要求を組み立ててほしい。

もう一つ、「働き方改革」への対応も重要課題となってくるだろう。政府の働き方改革を具体的に進めていくのは、それぞれの職場の労使だ。現場の実態を踏まえ、さまざまな事情をもつ人たちが、どうすれば安心して働けるのか。仕事の配分や処遇、業務改善の進め方を含めて、労使で取り組んでいくことが求められる。中長期的な視点で春闘を通じた取り組みを進めてほしい。

須田 孝

連合総合労働局長

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年12月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。

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