先行組合の結果を追い風に 力強く「底上げ春闘」を進めよう

個々の能力を最大限発揮できる環境を
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2018春季生活闘争は、最初のヤマ場を迎え、第1回集計(3月16日)における賃上げ率(平均方式・定昇込み)は、昨年を上回る2・16%、300人未満の中小組合では全体集計を上回る2・17%という回答を引き出した。この集中回答日に照準を当て、主体的に交渉を進めた中小組合が増えたことも注目される。この結果をどうみるのか。「拡がり」に向けた取り組みのポイントは何か。相原事務局長に聞いた。

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相原康伸 連合事務局長

上向きのベクトルと自律的な交渉

─3月16日の第1回集計結果をどう受け止める?

先行組合の頑張りで、非常にいいスタートを切ることができた。これから交渉が本格化する組合にとって大変勇気づけられる内容であり、今後の拡がりにも期待が持てる結果だと受け止めている。

二つの動きが特徴的だ。一つは、ここ数年の取り組みが「賃金引き上げ」のベクトルを定着させ、本年は、さらに獲得水準で前年を上回る動きにある。二つめに、中小組合のより自律的な交渉および主体的な回答引き出しの構造変化が前進しつつあることだ。大手組合の回答水準を後続の中小組合が超えられないという長年の「春季生活闘争の形」を書き換える動きが広く浸透しつつある。労働条件改善はトリクルダウンが最適解との発想と運動を根元から「転換」する意義を再確認し合えるスタートと言える。現時点で中小組合の賃上げ率が全体を上回っている状況を維持し続け、めざす運動の成果に近づけたい。

第1のヤマ場の結果は、それ自体重要であるが、大手脱却などの狙いにつながる運動の土台としての意義がある。ここ数年、連合が掲げてきた「底上げ春闘」の輪郭がより鮮明になり、世の中に「春季生活闘争の新たな形」を提起でき始めたのではないか。この流れをいっそう前へ進めたい。

個々の能力を最大限発揮できる環境を

─非正規労働者の賃上げも、現時点で昨年を上回る結果が出ているが...。

第1回集計では、時給の引き上げ額が単純平均で25・98円、昨年対比2・33円、さらに正社員化や無期転換ルールの整備、福利厚生など、多岐にわたる処遇改善の要求を行い、具体的な協議・交渉が進められている。

今次闘争では、「非正規共闘が果たした役割は十分認識しつつ、労使の協議・交渉のテーブルの真ん中に非正規労働者の処遇改善というテーマを組み込んでいく」ことを提起した。全員で確認した方向性に沿った手応えを感じている。

パートなど有期雇用で働く、非正規労働者の処遇改善の重要性は高まるばかりだ。企業規模や雇用形態、性別や年齢にかかわらず、個々の能力を最大限発揮できる環境が求められている。その流れの中、あらゆる雇用形態の処遇改善にスポットが当たるのは至極当然のことであり、成果が出てきている。雇用の仕方・され方を超え、職場を支えるすべての働く人のエネルギー結集なくして、日本経済や個々の産業・企業の成長はおぼつかない。

加えて、深刻な人手不足もあり、「雇用形態の違いを理由として労働条件を低めに設定することは許容される」との考え方はすでに過去のものであり妥当性に乏しい。企業の側も、また社会的にも、不合理な格差を解消し、ディーセント・ワークの実現をはかり、その結果として、チームワークの充実や健全な生産性の向上に寄与していこうという文化が生まれている。こうした流れをしっかり捉え、確実な成果につなげてほしい。

真に働く人のためになる「働き方の見直し」を

─長時間労働の是正に向けた取り組みについては?

今次闘争では、特に長時間労働の是正に向け、600を超える組合が36協定の点検や見直し、裁量労働制の適正運用を要求し、1000に近い組合が年次有給休暇の取得促進に向けた要求を行った。連合は、2018春季生活闘争のスローガンに「すべての労働者の立場にたった働き方の見直し」を掲げたが、その意味するところを受け止め、協議・交渉に臨んでほしい。

「働き方の見直し」を進めるにあたり労働組合として留意すべき点は、第1に、それが真に働く人のためになるものなのかという点だ。長時間労働の是正は、単に労働時間を短くすれば良いというものではない。職場における日々のマネジメントの質を高め、働くひと一人ひとりの立場にたった環境条件整備につながるものでなければ、持続的で本質的な見直しとは言えない。第2に、働き方の見直しは、労使が互いに納得するものでなければ機能しない。日頃の労使関係が問われる課題とも言える。

その意味では、現時点での前向きな回答や労使合意の背景には、労働組合の役割発揮とそれに向き合う経営側の対応があってこそと考える。

さらなる飛躍に向けて新たな運動を

─「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」の取り組みは?

取引関係の適正化は、産業別組織、地方連合会の個々の努力が実りだしている。同時にまだ道半ばとの認識も共有するところだ。連合も運動のプラットホーム充実に引き続き努力していく。また今後は働き方も含めた運動に進化させていきたい。「働く人のつながり」をより意識した「連合運動」の模索にも通じる。連合結成30周年に向けた重要なポイントだ。

私たちは普段、組織労働者、未組織労働者と区分けしがちだが、皆、「働く」という、その1点でつながっている。つながりあって社会を支えている。それゆえ、一人の働き方を良くすることは、関係するまわりの人や組織の働き方を良くすることにつなげてこそ意味がある。その認識を多くの人が共有する延長線上に労働組合にカバーされる仲間が拡大していく流れが理想的だ。働く人の尊厳をみんなで守り合う社会。それを育む労働組合の社会的な存在意義とも言える。「チェーンでつながっているのはプライスだけではない。働き方でもつながっている。」は、重要なメッセージとなり得る。

なお、結成時、800万人でスタートした連合は、一時期600万人台前半まで組織人員を減らした。現在695万人と700万をうかがうまでに回復した。それぞれの職場、地域における組織化・組織拡大への努力のたまものだ。さらなる飛躍を期す、新しい戦略と運動が必要だ。

─これから本番を迎える中小組合に向けたメッセージを。

交渉では、粘り強く具体的な成果を追求したい。またその最前線に若い組合役員が関われる工夫をしてほしい。職場を支える最前線の若い役員が職場の組合員を束ね、職場の管理監督者や経営者に率直に職場の現状を訴えることは中々骨が折れる。ただし、そうした基本的な組合活動が磨かれてこそ社会の中で労働運動の総和としての意味が生まれる。次代を担う役員のみなさんが職場と社会のつなぎ役を実感できる場を提供できているか、私たちは事あるごとに問い直す姿勢を持ち続けたい。

健康で安全な働き方、風通しのいい職場づくり、健全な労使関係の構築を通じて、すべての働く仲間が「底上げ春闘」を実感できるよう新たな歴史を積み上げよう!

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全国中央会と連合との懇談会を開催

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取引の適正化等に向けて地域での連携促進を確認

連合は3月15日、全国中小企業団体中央会(全国中央会)との懇談会を開催し、昨年4月に締結した共同宣言に基づき、「下請取引の適正化」「人材の確保・育成・定着」の推進に向けて意見交換を行った。

2018春季生活闘争アピール

底上げに向けた今後の取り組みについて

〜賃上げをすべての働く者へ〜

本日、2018 春季生活闘争における最初のヤマ場を迎えた。

今次闘争では、月例賃金の引き上げにこだわり、「底上げ・底支え」「格差是正」につながる賃上げの流れを継続させることを主張している。

経営側は、個人消費の活性化を通じた経済の自律的成長に向けた社会的な要請や期待については一定程度の理解を示しつつも、経済や事業の先行き不透明感、過去 4 年間の賃上げによる賃金水準の上昇などを理由に、賃上げに対しては極めて慎重な判断が必要との厳しい態度を示し、交渉は難航した。

しかし組合は、企業・産業の存続と成長のためには同じ職場で働くすべての「人への投資」が必要と、粘り強く交渉を行った。結果、本日現在、継続して賃上げの回答を引き出している。回答水準についても、昨年水準を上回る基調にあり、交渉継続中の組合にエールを送り、また追い風となる成果である。

すべての働く者の処遇の「底上げ・底支え」「格差是正」を実現するためには、本日までに示された回答内容を、続く中堅・中小組合はもとより、未組織を含めたすべての働く者の賃金引き上げに確実に波及させなければならない。第 5 回戦術委員会確認事項を踏まえ、以下の事項に取り組むことを要請する。

1.先行する組合が引き出した回答内容を賃上げのうねりとしてあまねく波及させるために、交渉中の組合は 3 月決着に向けて全力を尽くす。また、非正規労働者の雇用の安定と処遇の改善に向けて、正規・非正規の同時決着をめざす。

2.恒常的な長時間労働の是正や職場全体の生産性向上につながる働き方の見直しについても、積極的かつ前向きな回答を引き出す。

3.構成組織は、交渉中の組合に対する訪問オルグなど、要求趣旨に沿った回答引き出しに向け全力を尽くす。大手組合は、グループ・関連会社組合の支援を強化する。

4.地方連合会は、地場共闘のもとで、構成組織の地方組織と連携し、中小・地場組合の交渉を支援するとともに、回答内容などの情報共有をタイムリーに行う。加えて、成果を地場における賃金相場の底上げに波及させるため、効果的なアピールや情報提供を行う。

連合は、構成組織、地方連合会、組合との連携を強め、月例賃金引き上げの流れを継続させるべく、波及の強化をはかっていく。

2018年3月14日

日本労働組合総連合会

中央闘争委員長

神津 里季生

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