90年代の半ば生まれ、ゆとり世代ど真ん中。そんな私たちの世代は、いま就職において売り手市場だと言われている。
「これだからゆとりは...」と言われ続けた私たちの世代が、"働く"ことになるともてはやされるなんて変な気分。
でも、よく考えるといまの私たちには、選択肢がいっぱいある。働き方改革とも言われてる。大学生が長期インターンで働くのも珍しくないし、起業だって、ネット事業主だって、なんだって身近に選べる時代なのかもしれない。
そんな中で聞いたのが、"大学生がプロデュースしているカフェがある"という話。
どうして開店したんだろう?大学生でカフェ?それはもしかして、新しい生き方だったりする?
同世代として、色々な疑問が渦巻くなか、彼女がカフェをやる理由が知りたくなり、お話を聞くことにしました。
伺ったのは、千葉県市川・大門通り。
昔ながらの商店が並ぶ中に、突然現れる白いカフェが今回取材するお店「base de carin」(バーズ・ドゥ・カリン)です。目の前には小さな踏切があり、京成線が行き来している、なんだかのどかな雰囲気。
実は、ここ市川は学生街。近くに和洋女子大や千葉商科大学、東京医科歯科大学のキャンパスがあるため、大学生も多く行き来しているんだとか。
そんな場所で、彼らと変わらない年齢でカフェをプロデュースしている女子大生が、和田かりんさん。
かくいう私も、大学4年生の同世代。ひとつのお店を作り上げて、運営していくって、どんな経験なんでしょう? お店の可愛いドアを開いて、早速お会いしてきました。
「最初はお菓子屋さんをやりたかった」
東京の西側に生まれ、小さい頃からお菓子作りが好きだったというかりんさん。
中学生・高校生のときには毎晩のようにキッチンを占領して何かを作っていたそう。
「学校からの帰り道に、今日はあれ作ろう! とかよく考えてました。レシピや配合を変えると、味が変わるのが面白いんです」
中でも、大好きなクッキーは作っている時の"生地の手触り"で味がわかると言います。
お菓子どころか、何も作れない料理カナヅチの筆者からすると、もうその時点で驚き。数え切れないほど作っていると、触っただけで味わえる境地に達するのでしょうか......。
ちなみにかりんさん、この取材の前日も、夜に黙々とクッキーを3種類ほど焼いていたそう。
「考え事をしながら、作業しているときが一番楽しいんです。できることなら、ずっとクッキーの型を抜いていたい(笑)」
彼女のお菓子作りへの熱意はとどまることを知らず、現在は大学で栄養学やフードコーディネート、食文化を学んでいるそう。大学3年生になった今も、週に3日はキャンパスに通い、実習などをこなしています。
そんなかりんさんが、知人の方から「新しいお店のオープンを手伝ってくれないか」と声をかけられたのが2016年の秋。「ぜひやりたい!」と二つ返事で受けたそう。
不安はなかったんですか?と聞いてみると、
「え、全然! 楽しそうだからやってみたかったし、ただきっかけをもらったというだけなので...。本当に、楽しそうだから、というだけです」と、かなり飄々とした返事が返ってきました。
そう、かりんさん、受け答えが軽やかなんです。なんか、度胸が座っているというか、我が道をいくというか。話していてスッと胸をすくような気持ちになります。
「最初はテイクアウトのお菓子屋さんをやりたかったんですけれど、このキッチン設備だと保健所の決まりでできなくって。諦めて、結局カフェにしよう、ということで話が進んでいきました」
「インスタ映えは前提条件」の世代
「カフェを作るって決めてからは、勉強をかねていろんなお店に行きました。おいしさ、内装、写真映えなど...全部を満たしたお店は少ないなって思ったんです。
だから、自分のお店は"おいしそうに映る、なおかつ本当においしいお店"をコンセプトにしようと思いました」
"おいしい上で映える"ではなく、"映える上でおいしい"。
「味」よりも「写真写り」が前提となるこのコンセプトを、他の世代の方がどう捉えるのかわからないのですが、90年代半ば生まれのわたしたちにとっては、これはごく自然なこと。
2人は、まさしく"インスタ世代"。SNSの写真をベースにお店を探すのは当たり前なんです。味よりも前に、写真で「行くか行かないか」を判断されることもよく分かっています。
だからこそ、「おいしそうに映る」のは大前提。
かりんさんの「話題だから行ってみたけれど、味はそうでもなかった...みたいなことにはなりたくない」という言葉も、その前提を踏まえた上で、さらに期待に応えたいということなのでしょう。
「あとは、自分がお客さんだったときに、値段以上の価値があると思えるかどうかですよね」と、クールに続けていました。
いまのモチベーションは、自分のものさし
でも、大学に通いながらお店を続けていくって、とっても大変なことなのではないでしょうか?
プレッシャーや困難もたくさんあると思うのですが、、、
「お店の名前に自分の名が入っている以上、クオリティの低いものは出したくないと思っています。スタッフと足並みが揃わなくなって、オープンして数ヶ月後にはもうやめたい!と思うこともありました」
ふむふむ、これはサークルの代表とかにもありそうな悩み。なんとなく気持ちがわかるような気がしてきます。
と、なるとやっぱり"仲間"とか"お客さん"とかの支えや励ましで、また頑張れるようになったのでしょうか?
「うーん、その時はカフェから離れる時間を作ったことで、"仕事だし、やるしかない!"って思えるようになりました(笑)。あと別に、もともと人から褒められたりすることはモチベーションじゃなくって」
勝手な予想とは、全然違う返答が...。でもこの答え、聞きようによってはとってもドライな言葉。
「例えばお菓子も、本当に自分が好きな味のクッキーを追求しているし、メニューもどれだけ綺麗に作れるかが自分のモチベーションなんです。
だから、自分のものさしに適うかどうかが一番大事。うまくできたら、よしって思うし、ダメだなと思ったものはお客さんに出しません」
ドライなのではなく、ストイックすぎる、ということでした...。モチベーションは常に自分の内側から、というこの職人気質、並みの大学生には真似できません。
ちなみに、看板メニューのクッキーはかりんさん以外の人が作ると、同じレシピでも全然味が違うそう。
「かりんさんOKが出ないので、うちのクッキーは彼女しか作れないんです」とお店の方からも伺いました。ストイックな職人、かっこいい...。
彼女が考える、これからの働き方?
お店を作るまで、そして作ってからのモチベーション、と時系列に沿ってお話を聞いてきたので、最後に今後について質問してみました。
すると、開口一番で「新卒で就職します!」との答えが。なんでも、いま大学3年生なので、そろそろ就職活動をしないといけないそう。
これだけ熱い想いでお店を運営している彼女をみていると、この選択は何となく意外。最近では"働き方改革"などと、さまざまな仕事のあり方が増えているなかで、どうして就職を目指すのでしょうか?
「実は、このカフェに携わることを決めた時に、親と約束していたんです。なので、このお店は最初から2年間限定でやると決めていました」
なるほど、もともとそういう予定なんですね。なんだか勿体無いような気もしますが、かりんさん、これから何をするのでしょうか?
「食の情報を発信することがしたいな、と思っています。
昔から、料理に限らずイラストや音楽など、作ったり発信することが好きなんです。あ、それでいえば、今やっているバンドが成功するのが実は一番嬉しいかな(笑)」
え、そこはお店じゃなくてバンドなんだ...。
そっか...。ていうか、多才だ.........。
「お金が必要ならもちろん働かないといけないし、そんな中でも自分が好きと思ったことをやっていければいいなって!」
うん、確かに、「働き方=生き方」とは限らないし、もはや"働き方改革"とかの先を行っている感じ。ある意味とてもイマドキっぽい考えに、私も共感しました。
最後まで我が道を行く回答をしてくれたかりんさん。
でも、彼女の言葉には全て「自分の好きなものごとを、好きなようにやりたい」という信念が通っているし、何より行動でそれを体現しているのが同世代としてかっこいい、と感じました。
"お菓子を作るのも好きだけど、イラスト描くのも、音楽も好き。だから、好きなことをつづけていける人生だったらいいな"
「仕事」「プライベート」という枠組みを超えて、好きだから自分のライフワークを続けられるって、なんて素敵なことなんだろう。
私も彼女も、これからどんな人生を歩くのかまったくわからないけれど、彼女の軽やかさは、なんだかとっても私たちらしく思えます。
《ライター紹介》
田嶋嶺子
Retty編集部インターン。大学4年生。ファッション誌のライター・ニュースサイトの編集としても働く正真正銘のワーカホリックで、最近の悩みは「忙しすぎてインスタが過疎」。
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(2017年10月25日Rettyグルメニュース「21歳の彼女が、カフェをやる理由。我が道を進む大学生が示す、好きなことへの向き合い方」より転載)
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