コーヒー=万能薬 ではない理由

ここ数年、医学研究の分野では、なぜかコーヒーに注目が集まっており、日本だけではなく、世界中の国々で、コーヒーと疾患との関連性を見出そうとする様々な研究が行われています。

ここ数年、医学研究の分野では、なぜかコーヒーに注目が集まっており、日本だけではなく、世界中の国々で、コーヒーと疾患との関連性を見出そうとする様々な研究が行われています。研究結果は、「●●に良い」とするものもあれば、「□□のリスクになる」というものもあります。果たして、コーヒーは身体に良いのでしょうか、悪いのでしょうか。

元看護師ライター 葛西みゆき

コーヒーを飲むと生活習慣病による死亡リスクは減少するが、がんとは関係がない?

2015年3月、国立がん研究センターの研究グループは、「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果を公表しました。この研究で対象となったのは、全国11の地域で、がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の男女約9万人。およそ20年の追跡調査の間には、12874人の死亡が確認されています。

今回の研究では、被験者を(コーヒーを)「ほとんど飲まない」「1日1杯未満飲む」「毎日1~2杯飲む」「毎日3~4杯飲む」「毎日5杯以上飲む」という5群に分け、その後の全死亡及びがん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、外因による死亡との関連を分析しています。

結果として、死亡リスクではコーヒーを1日3~4杯飲む群が最も低くなり、全く飲まない群と比較すると24%も低いことが分かりました。さらに詳しく見ると、1日あたりのコーヒーの摂取量が増えるほど、死亡リスクが低くなる傾向が見られました。

この傾向は、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患の発症リスクでも同じ傾向となりました。しかし"がんの発症リスク"と、コーヒー摂取量との関連性は確認されませんでした。

コーヒーが大腸ポリープ発症を予防する?

2015年4月にも、同じく国立がん研究センターの研究グループは、「コーヒー摂取と結腸直腸腺腫(大腸ポリープ)の予防効果」に関する研究成果を公表しました。この研究は、結腸内視鏡検査を受け、生活習慣および自己管理の食事に関する質問に回答した人が対象。そのうち、ポリープが確認できた738人と、ポリープのない697人を4グループに分け、比較検討したものです。

その結果、コーヒーを飲む量が最も多いグループの人は、コーヒーを飲む量が最も少なかったグループの人と比べると、大腸ポリープリスクが33%低くなることが分かりました。また、結腸直腸ポリープの中でも、結腸ポリープで特に効果があると確認され、さらには、小さいものや単独でできるものに効果があることも分かりました。

コーヒーを飲む遺伝子を持つ人は、たくさん飲んでも肥満は減らない?

前回の記事でもご紹介したように、人には"コーヒーをよく飲む遺伝子"があるそうです。コーヒーをよく飲む人は、国立がん研究センターの研究でも生活習慣病などのリスクを下げると言われていますし、他にも肥満や2型糖尿病のリスクが低くなるという研究結果もあります。しかし、"遺伝的にコーヒーをよく飲む人"は、上記のような疾患のリスクが低くなるとも言いきれない、という研究結果が公表されました。

デンマークの研究グループは、コーヒーを良く飲む遺伝子を持つグループを対象に、コーヒーの影響を調べた2つの研究から9万人あまりのデータを抽出。コーヒーの摂取量と肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病のリスクを検証し、特定の遺伝子変異を持つ人のコーヒー摂取量や、これらの疾患との関連性を調べました。さらに、2型糖尿病と遺伝子の関係を調べたおよそ8万人を対象とした研究データも含め、総合的な分析を行っています。

2015年5月に公表された研究結果では、コーヒーを多く飲む人は、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病のリスクが低くなりますが、さらに飲む量が増えると、むしろBMI、ウエストサイズ、体重、身長、血圧、中性脂肪、総コレステロールが増える傾向がありました。しかし、血糖値とは関係しませんでした。

遺伝子的にみると、"コーヒーをよく飲む遺伝子"を9~10個持っている人は、0~3個しか持たない人よりも、コーヒーを飲む量が29%多くなることが分かりました。しかし、これらの人と、肥満・メタボリックシンドローム・2型糖尿病などの発症リスクとの関連性を見出すことはできませんでした。

コーヒーが身体に与える悪影響も見えてきた?

一方で、少し視点を変えると、コーヒーは身体に悪影響を与える可能性も出てきました。

例えば、イタリアの研究グループが2015年5月に公表した研究結果によると、エスプレッソやモカなどのいわゆるイタリアンスタイルの飲み方をする人は、冠動脈性心疾患のリスクは高くなることが分かりました。コーヒーを飲まない人と比較すると、1日に1杯から2杯のコーヒーを飲む人で1.18倍、3杯飲む人で1.37倍、4杯以上飲む人で1.52倍、冠動脈疾患になるリスクが高くなる傾向がありました。

イタリアンスタイルのコーヒーは一般的に、砂糖を使うことが多いそうです。つまり、コーヒーを飲むと言いながら、併せて砂糖も多く摂っていることになるので、結果的に冠動脈疾患のリスクが高くなった可能性があります。

また、2014年12月に公表された中国のグループの研究結果では、"コーヒーを飲まない人と比べると、飲む人の胃がんのリスクが1.24倍高くなる"ことを示唆しています。

結局は"飲み方"なのか?

これらの研究結果を並べてみても、結局は"1日に何杯のコーヒーを飲めば健康でいられるのか"は分かりません。コーヒーを飲む理由に"遺伝子"も関わってくるのであれば、一概にどの程度の量が良いのか、という比較もできません。

しかし、"砂糖を多く使うイタリアンスタイルは冠動脈疾患のリスクが高い"とか、"飲み過ぎると胃の粘膜に影響する"とか、こういったことなら誰にも共通するのではないでしょうか。

コーヒーに含まれるカフェインは妊婦に良くないという通説もありますが、適度な量のコーヒーをタイミング良く取るのであれば、リラックス効果が得られることもありますよね。ストレス解消につながって、ある程度は健康な身体を維持できる可能性もあります。その反面、どうしてもコーヒーを受け付けない(飲みたいと思わない)人が、1日に5杯のコーヒーを飲むのには無理があります。

やはり、大切なのは"何事もほどほどに"ということではないでしょうか。現在のところは、"一定の条件であれば△△な効果が期待できる"というところに留まるようですので、今後の新たな研究にも期待したいと思います。

参考文献

(2015年8月8日「ロバスト・ヘルス」より転載)

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