核兵器の拡散防止や廃絶を目指す世界の科学者の集まりである「パグウォッシュ会議」が来年11月1-5日に長崎市で第61回に当たる世界大会を開催するとして、日本パグウォッシュ会議顧問評議会議長を務める吉川弘之・科学技術振興機構研究開発センター長らが8日、東京都内で会見し、大会概要を発表するとともに成功に向けての募金などの協力を呼びかけた。
日本での世界大会開催は京都、東京、広島に続き5回目だが、長崎では初めて。「被爆70年、核なき世界の実現を」を主要テーマに、「核廃絶と核不拡散」、「北東アジアの安全保障と非核化」、「中東・南アジアの安全と非核化」、「先端科学技術と脅威」のほか、東京電力福島第一原発事故を踏まえて科学者・技術者と社会的責任についても論議する。科学者による本会議のほか、公開での市民との対話や、若い世代による「国際学生・ヤングパグウォッシュ会議」も予定され、約40か国から200人が参加する見込み。
会見したのは吉川議長のほかノーベル物理学賞受賞者の益川敏英名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長、世界大会の組織委員会委員長の鈴木達治郎長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長ら。
吉川議長は「私の専門は工学だったが、科学者が平和について重大な発言した1955年のラッセル・アインシュタイン宣言を知って大きな感銘を受けたこともあり、科学者全体の問題として参加した。科学が社会に与えたことの責任について考えるパグウォッシュ会議の精神は、1999年の国際科学会議(ICSU)の宣言にも引き継がれている。科学技術の発展のなかで引き起こしている脅威は温暖化や薬害などさまざまあるが、福島原発事故は工学系の科学者の責任も大きい。物理学者だけでなく、幅広い分野の科学者の参加を期待している」と話した。
益川氏は「例えば北朝鮮に見られるように、核兵器の情報を途上国が簡単に手に入れ、開発されるなど危機が増している。また核兵器に限らず、戦争の道具や技術が高度化し、過去より深刻になっている昨今の状況を考えた」と、呼び掛けに加わった理由を説明した。
パグウォッシュ会議は1957年、カナダの漁村パグウォッシュで物理学者を中心に世界の科学者が集まり、核兵器の危険性や科学者の社会的責任について討議したのがきっかけに発足。最初の会議には日本からは湯川秀樹、朝永振一郎氏らが参加した。1995年には核兵器の廃絶を目指す長年の努力が評価されて、ノーベル平和賞を受賞している。
鈴木組織委員会委員長によると、2015年は広島・長崎の被爆から70年、核兵器と戦争の廃絶を訴えた哲学者ラッセルと物理学者アインシュタインによる1955年の宣言から60周年、さらに核拡散防止条約(NPT)の再検討会議も開催される重要な年に当たると、意義を強調している。