免疫反応の元締めに当たる白血球の分化を制御する遺伝子のスイッチ(転写因子)を、東北大学大学院医学系研究科の伊藤亜里(いとう あり)研究員と五十嵐和彦(いがらし かずひこ)教授らが見つけた。2種類の遺伝子スイッチが協調して、前駆細胞から骨髄球への分化を抑え、Bリンパ球がつくられることをマウスの実験で突き止めた。免疫学の基本的な発見である。大阪大学免疫学フロンティア研究センターの黒崎知博(くろさき ともひろ)教授らとの共同研究で、10月27日に英科学誌ネイチャーイムノロジーのオンライン版に発表した。
体に侵入した病原体などに対する免疫は、主に白血球によって行われる。その機能は、病原体を区別せずに貪食する「自然免疫」と、病原体の分子に対する抗体をつくって攻撃する「獲得免疫」に大別される。一般に、感染の初期には自然免疫が働き、自然免疫で手に負えなくなると、獲得免疫が活性化される。自然免疫は骨髄球が、獲得免疫はBリンパ球などが担い、いずれも、骨髄にある造血系幹細胞から分化する。しかし、これらの機能の異なる白血球が、どのように日々バランスを取りながら作られるのか、謎が残っていた。
研究グループは、造血幹細胞から作られる前駆細胞に、Bリンパ球の分化に必要な遺伝子も、骨髄球の分化に必要な遺伝子も、どちらも発現していることを確かめた。次に、白血球分化の遺伝子スイッチとみられているBach(バック)1や Bach2の両遺伝子の機能を欠損させたマウスを作製して解析した。その結果、Bach1や Bach2が自然免疫の骨髄球に分化するための遺伝子の発現を抑えて、Bリンパ球への分化を促進することを証明した。
Bach1やBach2のどちらかだけの欠損マウスでは、このような明白な結果は得られなかった。これらの実験で、Bach1やBach2という転写因子が協調して働いて、前駆細胞から骨髄球への分化を抑制しており、両転写因子が働かなければ、骨髄球への分化に傾くように制御している仕組みがわかった。Bach1や Bach2は自然免疫と獲得免疫のバランスの調節役といえる。
また、従来は、骨髄球とBリンパ球の分化の運命は、造血幹細胞が前駆細胞になる時に決定されると考えられてきたが、今回の結果は、造血幹細胞からできる前駆細胞が骨髄球とBリンパ球の両方になり得る能力を持っていることを示した。成果を基に研究グループは「Bリンパ球への分化を遺伝子発現のバランスから説明する新しいモデル」を提唱している。
五十嵐和彦教授は「自然免疫と獲得免疫とのバランスは、感染症に対する効果的な免疫に欠かせない。今回の発見は、このバランスが遺伝子レベルで調節される仕組みの一端を明らかにした。免疫のバランスの乱れは感染症の重篤化やアレルギー性疾患などの発症につながることが想定されており、免疫関連疾患の理解が深まる可能性がある」と話している。
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・東北大学 プレスリリース