美術館でどんな展覧会を開くかを考え、企画するのがキュレーターの仕事。
森美術館(東京・六本木)のキュレーター、荒木夏実さんにその仕事について聞いた。
日本では「学芸員」とも呼ばれる。日本の場合は特定の美術館に所属し、企画や研究のほかにも、保存修復、作品の貸し出し、広報もこなす場合があるのに対し、欧米のキュレーターの場合、独立して活動する人もいるほか、企画や研究に特化した人が主流だ。
六本木ヒルズ森タワーの53階に、荒木さんの勤める森美術館はある。美術の中でも最先端の表現を試みる「現代美術」を扱う美術館だ。
荒木さんは普段から世界中の作家の動きに注目し、交流を重ね、どの作家がいま何を考え、どんな作品を作っているかを広く把握している。そして展覧会の構想を描き、ふさわしい作家に声をかける。
構想にはおおむね2~3年。開催が決まると1年半ほどかけて作家らと交渉する。作家の都合、空間的な制約、予算の規模......。さまざまな条件をくぐり抜けて展覧会は実現する。
展示作業が始まると、現場で作品の位置、照明の強さ、作品の並び順などを何度も練り直す。作品に添える解説を書き、展覧会カタログの論文も書く。また、展覧会が始まった後、講演会やワークショップに登場するのも大切な仕事だ。
現代美術の作家の中には、戦争や政治の陰に隠れた弱者や、家庭内での抑圧や同性愛など表に出にくいテーマを扱う人も多い。
「アートの表現は、政治やジャーナリズムとは視点が違います。もっと詩的で、あいまいな、象徴的な表現によって、より普遍性のあるリアルな現実を伝えるのが、芸術のもつ力です」と荒木さん。
キュレーターは、そうした力のある作品や作家を見抜き、見る人に届ける役割を担っている。「美術館を社会と離れたものではなく、社会で起こっている出来事を議論するプラットホームにしたい」と話す。
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小学生の頃から友だちの「ノリ」について行けず、「みんなとちょっと離れて生きてきました。友だちや親に合わせていることに違和感を覚えていました」
大学卒業後、外資系の金融機関に就職。待遇は申し分なかったものの、自分の仕事ではないと感じ、1年で退職。自立したい、手に職をつけたいとイギリスのレスター大学ミュージアム・スタディーズに留学し、芸術の世界に飛び込んだ。
いま振り返れば、「自分や社会に対する違和感こそ、創造力や新たな発想の源になる」と感じている。「みんなと同じでなくてもいい。孤独を大切にしてほしい。違和感はどこから来るのか、そのことを深く考えてほしい」
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