企業やブランドが自ら「所有する」メディアであるオウンドメディアは、トリプルマーケティングと呼ばれるオウンドメディア(Owned Media)、ペイドメディア(Paid Media)、アーンドメディア(Earned Media)の3つのマーケティングチャネルのひとつ。
オウンドメディアはもちろんネットに限定されてはおらず、紙メディアや店舗もオウンドメディアになり得ます。「オウンドメディア=自社運営のネットメディア」と狭い視野で捉えてしまうと、ついPVだ、UUだ、KPIだという話に終始しがちです。
「オウンドメディアは、ネット外にも活動領域がある」という考えの持ち主である株式会社デサントの加勇田さんと面白法人カヤックの三好さんに、どのように自社をコンテンツ化して広めていったのかを取材させていただきました。
オウンドメディアをネットに限定する理由はない
中山:お二人は、オウンドメディアやコンテンツマーケティングをウェブ限定で考えていない点で共通しているんですが、そう考えるに至ったキッカケは何だったんですか。
加勇田:コンテンツマーケティングに限らず、「なんとかマーケティング」って、全体最適を考えずに、部分最適に終始しているケースが多い。「そもそも、何がやりたいんだっけ?なぜやるんだっけ?」と、もっと上から俯瞰した目で考えなくてはいけないと思ったのが、キッカケです。
前職がソーシャルメディアのコンサルだったんですが、結局のところ、「自分達が何を売っているのか、何を解決したいのかという議論がされないまま、手段の話をしても意味がない」と感じる機会が少なくなかったです。表面上だけの活動は、いくら取り繕ってもお客さんにバレますし、手段が目的化しているような企画に対しては、「やらなくてもいいんじゃないでしょうか」と言ってました。
そういった経験から、「コンテンツをネット限定に縛る必要はない」と考え始めました。
PCスーツをヨドバシカメラの店頭に展開したコーナーだってコンテンツですし、リクルートライフスタイル社に導入した事例もコンテンツだと思っています。
中山:カヤックは社内に編集部を作ってしまいましたが、これの背景は?
三好:「カヤック編集部」を発足させたのは今年の6月で、人事・広報・財務・法務等をひとつにした社内横断チームです。「会社の活動だってコンテンツだよね」と捉えて、世の中の人に面白がってもらえるものを発信しようと考えたのがキッカケ。「会社ってそんなことしていいんだ。だったら自分も今まで臆していたことにチャレンジしてみよう」と思ってほしくて、社内中を巻き込んで立ち上げました。
「編集部」と名付けたのは、会社の活動=コンテンツと考えた時に、広報部や宣伝部、マーケティング部などよりも、編集という言葉を使ったほうがしっくりくるし、可能性が拡がると思ったからです。
会社をコンテンツ化して他部署を巻き込むって難しくない?
中山:会社全体をコンテンツ化してみて、思い通りに社内の協力は得られました?
加勇田:デサントは真面目でカッチリした社風なので、ちょっと工夫はしました。PCスーツの企画は自分で考えたのですが、社内で話が通りやすくするために、「メディアが"PCスーツ"ってネーミングしちゃって」とか、「ヨドバシカメラさんから提案されたんです」と上司に話を持っていくんです。
中山:な、なんだってーー
加勇田:我々メーカーは流通やメディアさんの言動には敏感なので、それを逆手に利用しました。もちろん、流通やメディアの方には事前に根回ししています。
中山:大胆な手ですね。
加勇田:新規の売り場を獲得できる提案なので、社内の営業を味方につけました。マーケティングは営業をアシストし、キラーパスを出すのも大事な仕事です。売上になるので、営業にとっても悪い話ではなく、話がまとまりやすい。
中山:盛大にネタばらししているけど、大丈夫かしら......。カヤックさんはどう巻き込むんですか?
三好:最近企画したモノは、バーグハンバーグバーグさんとコラボした、「突破クリエイティブアワード」ですね。
「それ、どうやって通したの!?」と思ってしまう斜め上を突き抜けたコンテンツの裏側にあるすごいドラマを発掘し勇気を称える、カヤックとバーグハンバーグバーグが共同で発足したアワード。
三好:クリエイティブそのものに優劣をつけるというよりも、勇気を賞賛することに重きをおいています。僕は加勇田さんのような内部調整はしないタイプ。カヤックのメンバーが面白いって思わない企画は、世の中に出ても拡がらないかなって思ってます。だから、メンバーを巻き込むためには、純粋にアイデアの面白さで勝負するしかない。
中山:突破クリエイティブアワードの企画は、社内満場一致でアイデアを評価してもらえました?
三好:社内のクリエイティブメンバーは面白いと評価してくれましたが、企画段階では「うーん」という反応もあるにはあったんです。最終的には、やなさん(※柳澤代表取締役CEO)に「二回目につながるようにがんばれ」とGOサインをもらいました。
人を動かすために、ニンジンをぶら下げることはある?
中山:カヤックでは社内を巻き込むとき、ニンジンという名の機動力をぶら下げることはあるんですか?
三好:僕はニンジンを持ってないから無理(笑)!そもそも、人の気持ちをコミュニケーションで動かすのが苦手。
だから面白いアイデアで動かすしかない。いくら自分が面白いと思っても、結果はわからないですよ? でも、面白さを社内で共有できていれば、結果がどうあれ気にしません。全員が面白いと信じて全力を尽くせば、たいてい結果はついてきます。
人を動かすためのこだわり
中山:人を動かすとき、わかりやすいコピーって大切ですよね。
加勇田:コピーはめちゃくちゃ重要です。相手に「それ、なに?」って質問させることができれば、興味を引き出せたわけで勝ちだと思うんです。ちなみに"PCスーツ"のときは、ネーミングを4文字(ぴー・しー・すー・つ)にすることは決めていました。PCスーツ以外にもよいアイデアありましたが、文字数オーバーで却下したモノもあります。印象的な響きで耳に残ったり、略語が生まれそうなフレーズにもこだわりました。
あと、企画案の資料枚数(社内も社外も)は抑えます。最初に結論をバンと持ってきて、それは何なのか、なぜ必要なのか、を少ない文字数で表現します。意識するのは、言わないことを決めること。言葉を削る感覚です。僕はいかに"(お笑い芸人の)柳原可奈子さんになりきるか"を意識します。
中山:お笑い芸人の柳原可奈子?
加勇田:彼女の持ちネタの、"総武線の女子高生のものまね"は、特長を三箇所くらいに絞ってデフォルメしてピンポイントで突いてマネしています。あれもこれも特長を詰め込むんじゃなくて、取捨選択し、絞ったポイントを強調しているんですね。企画も同じで、「何を言い、何を言わないのか」は吟味します。ところで、三好さんのこだわりも教えてください。
三好:僕は提案するタイミングを見定める。どのタイミング、どんな言葉で口火を切れば、アイデアが伝わるか。僕の企画書はA4で3枚くらいの手書きなんですけど、ミーティング中に"なんか違う"って感じたら引っ込めて、1ヶ月以上寝かせることもします。
企画書って言っても、1枚目はキャッチコピーとタイトルだけ。2枚目に目的を2行くらいで書いて、3ページ目にふんわりとした概要を書きます。それくらいの分量に収まってないと、どんな企画かパッと伝わらないので、結局バズらないんですよね。
まあそれでも、エゴサーチ採用の企画はあっさりとGOもらえました。突破クリエイティブアワードのときは、なんか言葉だけじゃ伝わらない気がして「LP作りましたよ~」としれっと持っていってOKをもらいました。ビジュアルで伝えるために、LPがほとんど完成した状態だったので、実は内心ヒヤヒヤでした。
中山:お二人とも、ギリギリインコースを攻める仕事っぷりですね(笑)
ウェブだけじゃなくリアルでも展開するオウンドメディア戦略について、お二人の話はまだまだ続きます。